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1話

 人はどんな人を好きになるのだろう。

 優生学的にいえばより優秀な遺伝子を残すため、スポーツが出来たり顔が良かったり、勉強が出来る奴がモテるんだろう。

 また何処かで聞いた話だが、自分と正反対の人を好きになるなんて説もある。

 果たして何が正解なのか、そもそも正解なんて存在するのかも分からない。

「正直ね、本気じゃなかったっていうか……」

 まだ寒さを感じる放課後の教室に、遠慮がちな声だけが響く。

 目の前の彼女は申し訳なさそうに、でもはっきりと続ける。

皆川(みながわ)君とは、遊びのつもりだったんだよね」

「……遊び」

 つい今し方まで俺の恋人……だった(たちばな)さんの声は残酷にもしっかりと聞こえる。

 確かに()()()()()()とは思っていた。

 学年の中でも特に人気のある彼女と平々凡々な俺、よく友人にも揶揄われたものだ。だけどこの半年で少しは仲を深めたと、この関係は冗談なんかじゃないんだと思えていたのに。

「やっぱり私たち、釣り合わないから」

「……そう、ですか」

「うん。ごめんね」

「……」

「じゃあ、さよなら」

 人はどんな人を好きになるのか。

 そんなこと知ったこっちゃない。好きだと言われたってそれが本当かどうかなんて、誰にも分からないのだから。

 とりあえず今の俺が言えることは――



「もう恋愛なんて、こりごりだ」



 格好悪すぎる負け惜しみだけだった。






 ――裏切り者のアオイさん――






「ねぇ知ってる?皆川の奴、振られたらしいよ」

「知ってる知ってる!元々どうしてって感じだったもんねぇ」

 机に突っ伏しても聞こえるひそひそ声。人の噂というのは残酷なもので昨日の夕方の出来事は、あっという間に校内に広がっているようだった。

「大体さぁ――」

「おはよう、新太(しんた)!!」

 バンッと大袈裟に俺の机を叩きながら周囲を威嚇するのは、夕凪 凛(ゆうなぎ りん)

 クラスメイトであり高校からの付き合いだが、結構気が合う奴で何かと一緒にいることが多い。

 どうやら俺の状況を察して、気を遣ってくれているらしかった。夕凪に睨みつけられて、気まずそうに周囲はひそひそ話をやめて散って行く。

「おはよう、夕凪」

「うわぁ、酷い顔。昨日まともに寝てないでしょ」

「寝れるか、あんな振られ方して」

「男がうじうじしてるの格好悪いぞ?」

「うるせぇ、男女差別だ」

「あはは、言い返せるだけの元気はあるみたいだね。安心した」

「……ありがとな」

 夕凪は気にしないでと手を振って隣に座る。

 昨日の今日だ、まだまだ気持ちの整理は出来ない。それでもこうやって励ましてくれる友達がいるというのは、とても有り難いことだった。

「そういえば橘さん、今日はまだ来てないね。いつもは結構朝早いのに」

「……あー、確かに」

「なーに今気付いたフリしてるんだか。ずっと前から教室の扉ばっかり見てるくせに」

「ぐ……うるせえ」

「図星?」

「ぐぬぬ……」

「ふふふ」

 悔しいが夕凪の言う通り、朝からずっと橘さんがいつ来るかで、ひやひやしている。気まずいのは当然だが、この噂の広がりようだ。

 彼女は俺よりもずっと目立つし、好奇の目で見られないか。それが心配だった。

「……橘さんが心配?」

「まあな。まさか昨日の今日でこんなにも噂になってるとは思わなかったし。それに橘さんは有名だからさ」

「才色兼備で校内でも一、二を争う人気だったからねぇ。誰かさんと付き合う前は」

「重ねてうるせえ」

「事実だし?まあ、心配しなくても橘さんには友達たくさんいるんだから大丈夫でしょ」

「そうだと良いけどな」

「……本当に、お人好しだね」

「ん?また悪口か」

「そんなとこ。さ、そろそろホームルームの準備しようかな」

 夕凪の言う通り、橘さんには友達がたくさんいる。だからどんな振り方をしたとしても、味方になってくれる人はいるだろう。

 もう恋人でもない俺が彼女の心配をすること自体が、おこがましいのかもしれない。

「はぁ……」

 彼女と顔を合わせたら、一体何を言えば良いんだろうか。どうすれば穏便に済ませられるだろうか。そんな考えがぐるぐると頭を回っていた。




 ――結果的には、そんな俺の考え自体が全て無意味だったのだが

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