汗と涙
俺の名前は岡野孝宏。
中学1年生の頃、俺は内気で背が小さくて全く目立たない存在だった。
食べても食べても太らない体質で体重も女子より軽かった。
入学式の後、椅子に座ってうつむいてる俺に前の席に座っていた上田直樹が
話しかけてきた。
直樹は髪型にこだわりをもってるらしく、いつもワックスを使ってツンツンにしていた。
身長は160センチぐらいで細みの体系だが、足と腕の筋肉がすごくてかっこよかった。
「なぁお前、一緒にテニスやんねぇ?」
今思えばただの勧誘だったんだろうけど、テニスを通じて息の合うコンビになった。
俺が通っていた中学は、運動部が盛んで野球部もテニス部もバレー部も
県で上位入賞を収めている。
そんな過酷な部活の中で直樹はめきめきと成長し、持ち前の明るさで
先生や先輩にも慕われ友達も多かった。
個人戦の成績が優秀な人からレギュラーに選ばれるため、俺ら1年は球拾いや掃除ばかりだったが
直樹は3年に混じって練習試合をしていた。
どうしても試合に出たかった俺は毎日欠かさず素振りや壁打ちをしていた。
それを見ていた父がトレーニング用品を買ってくれた。
ボールにゴムひもが付き自分が打ったボールが戻ってる器具だ。
部活が終わり、家に帰ってもずっと練習をしていた。
辛かったけど上達していくのが楽しかった。
努力の甲斐あって新人戦のとき直樹とダブルスを組むことができた。
直樹は絶対優勝したいらしく、みんなが帰った後も遅くまで残って二人で練習をした。
休みの日は近くのスポーツセンターへ行ったり、先輩からビデオを借りて研究をした。
ちょっと恥ずかしかったのが、母からもらった直樹とおそろいのお守り。
「これで優勝間違いなし!」と母に言われた。
俺はバックにつけたけど直樹は「こんなの無くても優勝できらぁ」とぶつぶつ言いながらも
嬉しそうにポケットに入れていた。
しかし現実はそんなに甘くなかった。
俺の基本的な知識不足と体力の無さが原因で大会前日、
学校のテニスコートで直樹とケンカになってしまった。
「お前そんくらいでへばってんじゃねーよ!勝つ気あんのか?」
『はぁはぁ・・・ある・・よ。』
「じゃあちゃんとボール見ろ!サーブミスが多い!プレッシャーに負けんな!」
『・・・』
「なんだよ。早くやれよ!」
『俺は・・・直樹とは・・・違う。』
この言葉にかちんときたのか直樹はラケットを投げ捨てた。
「だれのために こんな練習つきあってやってると思ってんだよ。」
今までに聞いたこともない低い声だった。
怒りが伝わってきて思わず後ずさりしてしまう。
『直樹の気持ちは分かる!でも直樹の思い通りになれるほど、まだ技術が追いついてない!』
「だからってやんなきゃできねーだろが!早く打てよ!」
『そんなに簡単に言うなよ!!』
珍しく俺が大声をあげると直樹はチッと舌打ちして後ろを向いた。
「話になんねぇ・・・。 帰るわ。」
ラケットを拾いパッパッと掃うと荷物を持ってさっさ帰ってしまった。
俺は歯を食いしばって必死で涙を堪えたが、溢れる涙が止まらなかった。
悔しい。
追いつきたい。
勝ちたい。
俺はしばらくそこから動けなかった。
*
*
*
朝になって鏡を見るとあまりの顔の酷さに驚いた。
母は何も聞かず、お弁当を渡して
「やるだけやってこい!」と言ってくれて少し心が軽くなった。
できるだけ早めに家を出て、どうやって仲直りしようか考えていた。
(あいつテニスに関しては厳しいからな・・・。でも俺から謝りたくないな・・・。)
学校の駐車場に着くとなにやらみんなが騒いでいた。
直樹と連絡が取れないらしい。出発の時間になっても直樹がやって来ないので
仕方なくみんなで先に会場へ向かおうと出発したときにものすごい勢いの自転車が
追いかけてきた。
「あ 直樹だ!」
「あいつ寝坊したんだぜ。すげぇ寝癖。」
「いいじゃん、もうこのまま会場行こうぜ。」
とみんながバスの中で笑っていた。
俺も内心ざまぁみろと思ってイヤホンをつけてMDウォークマンで音楽を聴いた。
しかしほんの一瞬にして空気が凍った。
赤信号に差し掛かった時、ガッシャーーーーーンという音と共に自転車が倒れた。
カラカラとタイヤが回り辺りが騒然とする。
俺は考え事をしていたし、音楽を聴いていたので何が起きたのか分からなかった。
でもみんなの真っ青な顔を見て嫌な胸騒ぎがした。
イヤホンをとると、先生と運転手さんが何やら話をしている。
マネージャーの女の子が泣き崩れ俺の隣に座っていた奴が窓の外を指さした。
何気なく窓を覗くとそこには血を流した直樹が倒れていた・・・・・・。
完結させるはずが少し長くなりそうです。頑張って書きますのでよろしくお願いします。