魔女殺し
身体強化ではこの状況は変えられない。窮鼠ではこの状況は変えられない。空を蹴るような技術は持ち合わせてない。あと一歩。そのあと一歩が限りなく遠い。足場まではだいたい3mぐらい。それは問題ない。
だがその足場で獲物を待つかのように不気味に動く水の手。あれに捕まれば命はない。そして私は空中を飛んでて物理法則を無視できない。
ふと気が付けば、私の時間は遅くなっていた。いや、正確には時間の感覚がいつもと変わっているのだろう。アスリートなどが多用する所謂ゾーンというやつに、私も入ってしまったのだろう。
空は蒼くなり始め、太陽が小さく顔を出す。
そして、
少女を見た。美しい銀髪の少女、スチーエが森の入り口に立っていた。
彼女は手を前にかざし、「凍れ」と口にした。たったそれだけで、一瞬にして池の水すべてが凍り付いた。
「ばかな、魔力が籠ってるんだぞ」
ナツさんがありえないと驚愕する。よくわからないが、私の妹はすごいだろう。
安心して、足場を踏んだ。変化はない。当然だ、襲ってくる水の手は全て氷と化しているのだから。
最後の足場を蹴り、私は何かに祈る魔女の首めがけて刀を振るう。
「じゃあね」
魔女からの別れの言葉はシンプルだった。
◇
池は凍ったままだが、いずれ溶けて森の一部となるだろう。私は初めて人を殺めた。昔おじいちゃんが言っていた言葉を思い出す。今なら少しわかる気がする。
人は過ちを犯しながら生きていくしかないのかもしれない。
それでも、助けてくれる人は必ずいる。例えばそう、この胸にある深海の魔女の残滓とか。
・・・どうやって使えばいいんだろう。




