竜退治②
勝利は目前だった。しかし、これだけで終わるほどこの竜は弱くはなかった。
子国が刀を脳天めがけて振り下ろした瞬間、突如として竜が吠えた。それは獣のような声から人の声へと変わった。
振り下ろした刀は、脳天をかち割る前に、片腕で防がれていた。
ある種の模倣、それは人型らしい戦い方だ。竜の肉体は徐々に小さくなっていく。それに比例して厄介さが増える。図体が大きいからこそ懐に潜り込み一方的に攻撃できた。だが今、そのアドバンテージは失われつつある。
上空にいたリンさんが空を蹴り大気を穿ちながら竜めがけて棍棒を振り下ろす。
稲妻のように振り下ろされる棍棒は、山一つでは受け止めきれないほどの威力だ。
当たれば間違いなく即死は免れない。
そう、当たれば、の話だ。
「・・・ヒトはこれほどなまでに凄まじいことをやってのけるのか。あれが強いのも頷ける」
そこにはもう、竜の形なぞ微塵もなかった。
黒髪の男が、片手で苦も無く棍棒を受け止めていた。もとの竜の姿であれば衝撃を防げず、人の姿であれば威力を殺せない。故に、受け止める部分のみ竜化した。
子国がためらわず連撃を叩き込むも体をそらされ避けられる。
受け止めていた棍棒も掴んでリンさんごと放り投げられた。
そして子国さんもリンさんを心配した一瞬の間に、蹴り飛ばされてしまった。
「この程度か?ヒトは」
圧倒的な力を得た竜の前に立ちはだかるものはなかった。