■の雫
戦闘の最中、竜は空へと飛んだ。
竜は息を整えるかのように忙しく上下に動かしていた羽もやがてゆっくりと落ち着いてきている。
そこは遥か上空。雲を2つか3つほど超えた地点。どれだけ優秀な冒険者だろうとこの距離を縮める術はない。まだ雲の下なら対処できただろうが、ここまでこられてはどうしようもない。
だからこそ、いつの時代も空を自由に駆ける竜は強敵として描かれることが多いのだ。
神が天にいるのなら、全ての生物の中で最も近い場所に行けるのだから。
魔素が再び竜に集う。
だか、先ほどとは何かが違う。収束していく魔力がひたすらに、ただひたすらに圧縮されていく。
圧縮するほどに不快音が大きくなっていく。
大気が悲鳴を上げ、世界がやめてくれと雷鳴を轟かす。そのどれもが竜には届かない。
知ったことではないと竜はさらに魔素を込める。
やがて生まれたのは雫ほどの小さな魔力の液体のような何かだった。それが太陽の光を反射して輝きを放つ。その輝きは先ほどの比ではなかった。
これも本物に比べれば数段はランクの落ちる劣化品だ。だが、使わない理由などなかった。
浮遊していた雫が重力に乗って落下を始める。
分厚くなった黒い雲をたった一滴の雫がこぼれていく。
地上では雲の隙間から落ちてきたそれが、微かな隙間から除く太陽光を反射して、
それはまるで、─神の慈悲、だった。