平和があるのは代償を払ったからだよ
もし、帰る前に封印石の様子を見に行ったら
もし、犯人があいつだと気づいていれば
もし、私がこの世界に呼ばれなければ
この運命は、変わっていたかもしれない。
リンさんと帰る途中、それは起きてしまった。
街の奥にある城の壁が爆発した。衝撃が一瞬でここまで到達する。瓦礫などが崩れ落ち、人々の悲鳴が聞こえ始める。賑やかで活気溢れるこの街は、平和と呼べる安寧は大きな音を立てて崩れ去った。
リンさんは怒っているのか少し怖い表情で城の壁、爆発によって開いた穴を見つめていた。
「出てきたわね」
ここから城までは数キロは離れている。私にはなにがいるのかわからなかった。
「ミライちゃん、申し訳ないけどここからは別行動ね。街の出入り口付近まで走っていきなさい。あとは門番がなんとかしてくれるから」
説明を終えた瞬間、リンさんは消えた。いや、そう錯覚してしまうほどの速さで跳躍したのだ。
たった一瞬の跳躍で数キロの距離を詰める。私は桜魏凛さんを、鬼の一族の強さを見誤っていた。
彼女はすでに、城の開いた穴に到達していた。
私は拳を強く握りしめ、駆け出した。
わかってた、わかっていたことなのに、どうしても、胸に渦巻く悔しさが収まってくれなかった。