宝石と石ころ
隣国の王太子が、結婚式に招いてくれたときのことだった。
隣国は大変栄えた国で、交易の拠点地。
料理も、音楽も、装飾も、王宮の雰囲気も、様々な文化が入り混じって、不思議な魅力があった。
貴族たちの振る舞いや衣装も、我が国とはどこか違っていて、令嬢はみんな神秘的で洗練されている。その中で最も輝いていた美女が、王太子の結婚相手だった。家柄も、所作も、外見も完璧だった。
純白のドレスに身を包んだ美貌の令嬢を見て、ユースレスは「ここにディアを連れて来なくて本当によかった」と思った。「あんな野暮ったい田舎娘を伴っていたら、きっと恥ずかしい思いをしただろう」と。
あんなに可愛いと思っていたディアが、全然好きじゃなくなっていた。
ディアを好ましく思っていたのは、貴族の令嬢を見慣れていたから。
宝石ばかり見ていたから、変わった模様の石ころが特別素晴らしいものに見えていただけだったと王子は気付いたのだ。所詮は石ころ。もう欲しくもなんともない。
そう思えば、全部が嫌になった。
あの頭の悪そうな喋り方が嫌だ。歯を見せて笑うのが嫌だ。聖女としてチヤホヤされているのが嫌だ。茶色いうねった髪が嫌だ。安っぽい緑色の目が嫌だ。ソバカスが嫌だ。平民のくせに、恥ずかしがって口付けすら拒んでくるのが嫌だ。あんな女と婚約しているのが嫌だ。
塞ぎ込んでいるユースレスの前に、女神が舞い降りた。
それが、イルミテラ・リュゼ公爵令嬢だった。