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燃え尽きる彗星

聖女は祈った。


――みんなを守ってください……ッ!


途端、黄金の光が花開いた。


光は、国だけでなく大陸全土を覆い尽くした。


守護魔法の内側でふんばっていた聖団たちの火傷がみるみる癒された。

熱された空気は清浄に澄み渡り、乾いていた大地は潤い、枯れ果てていた木々に一瞬で緑が戻った。


彗星は未だ地上の生きとし生けるものを焼き尽くさんとしているのに、癒しの力はやすやすとそれを上回る。なにもかもが元に戻っていく。


もはや恐ろしい彗星は、ガラスの向こう側で見る美しい鑑賞物に過ぎない。


人間の頭ほどもある石礫が次々降り注いでも、目の前を熱波が暴れ狂っても、なんの損壊もない。彗星が怒り任せに、結界を掻き毟っているのが分かるが、かすり傷ひとつ付かない。


まさに人知を超えた奇跡であった。


目の前では、ついに彗星が燃え尽きようとしている。


炎の衣を脱ぎ捨て、むきだしになった核は、透き通る水晶のようだった。真っ白い薄靄のようなものに包まれ、目にもとまらぬ速さで森に落ちてくる。これだけ遠く離れていると小さく感じるが、実際には小山程度あるという。


その小山も、結界に触れた瞬間、ふっと落下の勢いが緩んだ。


ゼリーの中を落ちるようなゆっくりとした動きに代わり、やがて「ぼすっ」とやや間抜けな音がかすかに耳に届いた。


一同は、ぽかんとしたまま彗星がぼすっと落ちた森を見た。

彗星の真下だった黒い森は、最接近の時点で火が付いていたので、今もごうごうと燃えている。


「……お、落ちたよな彗星」「うん……ぼすって言ったな」


ひそひそとした話し声が静まり、一拍置いて歓声が上がった。


聖女は膝から崩れ落ちたところを、傍にいた王太子に抱きかかえられた。


安堵感に涙を流す聖女の頭の中で、『森燃えちゃったね。ちょっとかわいそうだけど、魔獣たちは元々死の国のものだから、おうちに帰るだけよ』と、女神は優しく言った。


こうして、世紀の彗星騒動は終わりを告げた。


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