隣国の条件 ※王子主軸
王都へ入る関所で、ユースレス一行は突然捕縛された。
兵士たちはユースレスを守ろうと動いてくれたが、現れた内務卿に頭を下げられ固まった。
「お許しください。こうでもしないと全ておしまいなのです」
ふくよかだった内務卿はひどく痩せ、目の下にはどす黒い隈がある。
夏の疫病は手がかりさえ見つからず、秋の運河氾濫を食い止める治水工事は人が集まらず難航していると聞いている。4ヶ月前にユースレスを睨みつけていた姿が想像できないくらい生気がなかった。
「――なにがあった?」
「隣国から書簡が戻ってまいりました。我が国を支援してもよい、と。しかし――」
内務卿が悔しそうに絞り出す。
「支援の条件が、現王家の断絶なのです……ッ!女神を処刑するような王族を助けられない、拒否すれば軍を差し向けるとの通告!こんなの侵略と変わりありません……!」
「クソッタレ!連中弱みに付け込む卑怯な真似を!聖女がいたときは、あんなに擦り寄ってきおったくせに」
軍務卿が悪態をついた。
背が高く好々爺然としていた最高齢大臣の彼は、顔に包帯を巻いている。王都と他地域での暴動処理を引き受けていたが、一昨日屋敷に投げ込まれた火炎瓶で火傷を負ったという。
「……父は、なんと?」
ユースレスの問いに、内務卿が俯いた。
「申し訳ございません。……先だって……王妃様の後を追うように、ご、ご自害を」
薄々そんな気がしていた。大臣たちはみな喪服のような黒づくめだったのだ。
「……なぜ、私にはなんの知らせも……」
「……迂闊でした。我々は砦への物資の中に、隣国の条件、陛下の死、並びに殿下にはこちらにお戻りにならないよう手紙を忍ばせておりました。しかし、その物資自体が届いていなかった模様。配給の馬車は行ったきり戻ってまいりません。どこも予知に怯え食糧の奪い合い。おそらく手紙は今頃、闇市の焚火にでも放り込まれておるでしょう」
いよいよ疫病の迫る夏目前。民衆の不安は頂点に達しているのだ。
ユースレスは「そうか」と頷いた。
意外にも、そこまで動揺しなかった。国を混乱に陥れた元凶の自分を、まだ王族として扱い、逃がしてくれようとしたのかと思えば、怒りも湧いてこない。
「わかった。あとは任せた。――ありがとう」
きっとこの先は、生きていく方が地獄だ。それを引き受けてくれることに感謝すら覚える。
大臣たちは沈痛な面持ちで、ユースレスに深く頭を下げた。




