辺境伯の殉死 ※王子主軸
ユースレスが次に目を覚ましたときには、全て終わったあとだった。
辺境伯は、最後まで勇敢だったという。
砲弾に落とされたふりをした翼竜は、とどめのために近づいてきた人間を生きたまま巣に持ち帰るつもりだったのだろう。辺境伯を捕らえ、すぐさま上空に攫っていこうとした。阻止すべく速射機を使ったのが悪かったのか。鉤爪に引っ掛かっていた獲物は、よりにもよって第一防御壁の向こう側――森へ落下してしまった。
兵士たちはすぐに救出にかかったが、翼竜のおこぼれに預かろうと付近を徘徊していたマダラオオカミの群れに見つかり交戦。辺境伯はたったひとりでオオカミを数頭屠ったが、落下の傷も重く、隙を突かれて負傷。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!我こそは辺境の守護者!餌が欲しくば犬らしく芸でもして見せるがいい!」
手も足も使えず血みどろになりながらも、最後は笑って絶命したという。
ユースレスの足は、膝から下を切断されていた。
鉤爪は骨まで到達していたようで、骨の芯が腐って炎症を起こしていた。壊死が広がれば、もっとひどいことになると砦唯一の軍医が判断し、貴重な麻酔や薬を惜しみなく使ってくれて、やむなく切り落としたという。七日七晩高熱に苦しんだが、なんとか峠は越えた。
「大切な御身をお守りすることができず面目ございません」
自分が足を引っ張ったのに、砦の者たちに頭を下げられた。ユースレスは自分の足よりも、辺境伯が亡くなったことの方がショックだった。遺体はもう二度と見つからないだろう。
――どうして、私はいつもこうなんだ……役に立てると思ったのに、また余計なことをして状況を悪化させてしまった。
4ヶ月前とは別の悲しみに暮れながら、ユースレスは他の負傷者たちとともに一旦王都に帰されたのであった。
しかし、王都でユースレスを待っていたのは、労う父でも、賞賛でもなく――
「殿下、どうして帰ってきてしまったんですか」
嘆く大臣らと、処刑台だった。




