みんなが幸せな国 ※聖女主軸
どこをどう走ったか、イルミテラは自分の部屋に飛び込んだ。
シーツに潜り込んで、胸に下げているペンダントを握り締める。
「たすけて、お母様……ッ」
目を閉じて、小声で祈る。
「女神様……女神様、お願いです。助けてください。二度と人を陥れたりしません。二度と人を騙したりしません。だから――」
扉の方から音が聞こえた。身を固くする。
ドアノブが激しく回される音。大丈夫。鍵をかけた。大丈夫。入ってこられない――
カチャリ。
錠が、開いた。
イルミテラは内心半狂乱でシーツを握り締める。
どうしてッ!?どうしてどうしてどうして……
呼吸音を抑えたいのに、ひっひっと短く息が漏れる。頬に爪痕が残るほど強く、手で口と鼻を覆う。こんなことしたって無駄だ。出入口から寝台も膨らんだシーツもきっと見えている。
まっすぐ足音が近づいてきた。毛足の長い絨毯の上を、さりさりとすり足で。
薄いシーツを通した向こう側で明かりが揺れている。足音からして相手はひとり。カランとランタンをかざす音がして。
「……お嬢様、ご無事ですか?」
イルミテラの全身から、どっと力が抜ける。
――チェリーばあや……ッ!!!
ああ……ッ!ありがとうございます、女神様!このご恩は忘れません!絶対に忘れません!
イルミテラは心から女神に感謝した。
心を入れ替えて、女神様に尽くそう。今度こそ逃げずに、みんなに謝るのだ。そして貴族も平民も、みんなが幸せな国にしよう。
――チェリーばあやも、きっと賛成してくれるわ!さあ、ふたりでここから出なくちゃ!
「お嬢様」
シーツのすぐ向こう側、イルミテラの耳に息がかかるほど近くで、ばあやは言った。
「なんだ。まだご無事だったんですね」