辺境伯の正論 ※王子主軸
昨日の中途半端な眠りが祟って、舟をこいでいたユースレスはビクッと辺境伯を見た。
顔の下半分を覆う、獅子のたてがみのような髭の上で、小さな目が険しく光っている。怒りで元々大柄な身体がさらに膨れ上がっているようだ。
「どなた様もご指摘めされないなら、私が先陣切りましょう!そもそも此度の騒動はユースレス殿下とイルミテラ嬢が引き起こしたこと!にも関わらず、先ほどから見ておればまるで他人事!謝罪すらない!」
ユースレスは怯えたように身を縮めた。
「もちろん、息子は自分の招いた事態を分かっておる。しかし、まだ成人前で――」
辺境伯は、王の言葉を遮るように円卓を叩いた。
「それがなんだと言うのです!成人前なら、なお恐ろしいと思いませぬか!結果的に、聖女をもうひとり見つけたのは良しとしましょう!しかし、今の今まで支えてくれ、間違いなく癒しの力を持っている平民の聖女を!一方的に偽物と糾弾し!取り調べなどもなく!国務院や議会貴族に連絡もなく!すぐさま処刑台に引っ立てていくなど子供の考えることではない!あまりにも傲慢な蛮行!もし女神でなければ、あの乙女は!聖女ディアは!なんの申し開きもできず、首を落とされていたんですぞ!」
小さく反論する。
「ち、ちがう……本当は、処刑なんてするつもりなくて……」
「はあ!?」
ユースレスは、ごくりと喉を鳴らした。
「う……彼女を偽物にすれば、婚約者をイルミテラに変えてもらえるんじゃないかと……」
辺境伯の顔色が、見る間にどす黒くなった。大きく見開き、血走った眼球はユースレスを捉えたまま。みちみちと音がするほど強く拳を握り締めている。
「で、でも!この案はイルミテラが考えたんだ!私は最初反対を――」
「このッ……み、見下げ果てたクズめが……ッ!」
まさに、吐き捨てるというのがふさわしい罵倒だった。