すべてが聖女頼み ※王子主軸
「では、次に。夏頃に発生するという疫病については」
「識者で対策班を作り、急ぎ文献をあたらせよ。未知とはいえなにか手がかりがあるかもしれん。それから十分な医療関係者を集めておくように。王都が機能不全を起こすわけにはいかん」
「それが……医術学者や病理調査官、三級以上の薬草管理士などを今集めているところなんですが……都内にはほとんどおらず」
「いない?」
「仕事がなかったからです。聖女様に治して頂ければ一瞬で完治し、診療代も薬代も入院費も必要なかったので。それで、どんどん医療関係者が外に出て行ってしまい……今は職を変えたり、他国へ移住したり、地方の村などに点在している有様でして」
一斉に舌打ち。
「呼び戻すしかないでしょう。国から金を出してでも」
「あの、疫病でどれほど人口が減るのか分かりませんが、念のため秋の長雨にむけて備蓄を増やしたいです。今から植え付けて間に合うのは豆、芋。ラシャ麦は秋が来る前に収穫したいので、いつも通り聖女様に奇跡を――」
息を呑む気配。
「……失礼致しました。もう無理でしたね」
「仕方ない。聖女様の奇跡さえあれば、適当に生育した広大な畑も一瞬で収穫期だった。休耕さえ必要なかった。……今更まともに作物を育ててくれる農家がいるかどうか。ここのところ、まともに視察もしてない。3年前が最後だ」
「食糧については、他国にも書簡を送りましょう。医療の支援についても」
王は、重く頷いた。
「ああ、頼む……もっとも、聖女を売り物にした挙句、女神を処刑しようとした国など、どこも助けてくれんかもしれんがな。女神の恩恵を受けた人間に、あの音声が聞こえたならば、聖女に治療された各国の要人も事態を把握しとるだろう」
王家は、ディアの力を貸してほしければ金を出せと大陸中に伝えた。
教会は女神の教えを説くのを止めた。
貴族たちは仕事をしなくなった。
医術は衰退し、学者たちは研究を中止し、兵士は鍛錬せず、農民は作物を適当に育てた。
なにもかも、聖女ディアに頼り切った結果だった。
空が白み始め、何から手を付けていいのか分からない状態が、なんとか形になりだした頃。
魔獣退治の議題以降、ずっと黙っていた辺境伯が、ついに胴間声を張り上げた。
「おそれながら!ユースレス殿下はどうお考えですか!」