紛糾する会議 ※王子主軸
会議室では、今朝ユースレスが会った重臣たちが雁首を揃えて待ち構えていた。
「リュゼ公爵はまだいらっしゃらないのか?聖女の令嬢はどうしたんだ?」
「逃げるつもりやもしれませんぞ。明日には屋敷がもぬけの殻なんてことも」
「教会に連絡はとれた?」
「いいえ、誰も出ません。でも中からお祈りの声はずっとしてるんです」
「祈ってる?誰に?女神に見捨てられた国で、一体誰に祈ってると言うんだ?」
「おい、よせ。こんなところで揉めてどうする」
「祈って解決するならいくらでも祈るさ。王妃様みたいに――」
扉が開かれ、王とユースレスが入室すると言い合いは静まった。
憔悴しきった王を見て驚く者もいるし、ユースレスを見て舌打ちする者もいる。
帰国の挨拶もそこそこに、すぐに議題に移る。
深夜から明け方まで、話し合いは長く苦しく続いた。
「最も優先すべきは、魔獣への対応だ」
「さよう。黒い森に近接する砦は、設備・人員ともにすべて以前の形に戻さねば」
「そう簡単には参りませんぞ。まず対魔獣用兵士が圧倒的に足りません。結界が出来てからは雇傭数を徐々に減らし、育成も鈍化。ただでさえ全体数は全盛期の3分の2程度。しかも、ほとんどは昨日の騒動で逃げてしまいました」
「王都の軍は動かせませんよ。民の暴動が広がらないよう抑えないといけない。今も貴族の屋敷を取り囲んで騒いでいるくらいですからね。教会周辺にも大勢集まって、もう大変で」
「そうだ。教会の聖団を使えないか。聖女ほどでなくとも、回復術や守護魔法を使えるだろう。以前は資格持ちが魔獣退治に同行してくれたものだが」
「それが……祭主も含め、関係者は全員教会に立てこもっております。女神の教えに背いたと恐れ戦き、一心に祈っているようです。無駄なことを」
「結界が出来る以前の案はどうした?なんかあったろう?風船を飛ばして魔獣の嫌う薬液を散布するとか、触れれば電流が流れる巨大網の設置とか、長距離砲の開発とか。奴らの特性を研究して撃退システムを作る連中がいたろう」
「計画は全て頓挫しています。予算が出なかったもので。すでに部署は解体済み。聖女の結界はタダですからね」
一同の深い溜息。
辺境伯が気乗りしない様子で口を開いた。
「仕方がありませんな。陛下、軍務卿、私に魔獣退治の全権を。辺境では王都の軟弱者のように鍛錬を怠ってはおりません。対人戦闘が主でしたが、指導次第で使い物にはなるでしょう。今、各領内からも手練れの騎士団や傭兵団を集めております。それでなんとかしのぐ他ありますまい」