王家の進退 ※王子主軸
「幸い、向こうの国はよくしてくれた。内心迷惑だったかもしれんが、飛行艇を用意してすぐに帰国できるよう手配してくれたよ。おかげでレリジェンの亡骸が痛む前に、お前に見せてやれた」
ぼそぼそと話し続ける父に、ユースレスは思わず駆け寄った。
「父上!わ、私は、ただ……!」
「よい、なにも言うな。儂がいけなかった。聖女を得たと舞い上がり、信仰を忘れた。信仰心を持ったままであれば、聖女を酷使したり、名声に嫉妬したり、政治に利用したりしなかった。自国に与えられた類まれなる恩恵を、自分への褒美だと勘違いした」
王は目を閉じた。目蓋に皺が寄るくらい、強く目を閉じていた。
「……今から出来ることをやる。残った者たちと話し合い、この先をなんとかせねばならん。お前も一緒に来い」
「私もですか?」
「全ての災いを乗り越えたあと、この国は大変な傷を負っているだろう。その責任をとらねばならん。儂は退位。お前の進退は……これからの働きにかかっている」
退位。そんな。と、ユースレスはよろめいた。
父の声には、言葉ほどの覇気はない。むしろ、結末の分かっている諦観がある。
こんな大事になるなんて、全く想像していなかった。
ユースレスはただ婚約者をディアから、イルミテラに変えたかっただけ。ついでにディアのことも、聖女兼愛妾としてそばに置いておきたかっただけだ。
婚約破棄を宣言したパーティーだって、リュゼ公爵の身内を集めた非公式のもので、処刑の舞台は急遽組み立てたハリボテ。
民衆は本物の処刑が見れると思っていたのかもしれないが、そもそも処刑にはいろんな手順が必要だ。裁判もしていない。
そうだよ!ちょっと考えたらおかしいって分かるだろ!大臣たちだって、祭主だって、止めはしなかったじゃないか!私だけが悪いわけじゃない!それを母上が知っていれば自死なんてせずに済んだ!そもそも、処刑はイルミテラが言い出したことで――
「それで、リュゼ公爵家の娘はどうした?」
ユースレスは、ハッと顔を上げ、苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。
「……取り乱していたので、一旦家に帰らせました」
「そうか」と、王は項垂れた。
「戻ってきてくれるとよいがな」
「え?それはどういう……」
父は首を振った。
「さあ、行くぞ。やることは山積みだ」




