見つかった失くし物 ※王子主軸
なんとなく言葉の端々に棘がある。
そういや付き合いは長いのに、この護衛の名前も知らないな、とユースレスは思った。どこぞの貧しい地方貴族出身だと聞いた気もする。
ふと、彼がなにか握り締めているのに気が付いた。懐中時計などに付ける金の鎖だ。
護衛騎士の彼には不似合いな高級品。父の持ち物に似ている気がする。王宮から盗み出すつもりじゃないか?
「おい、その提げ鎖は」
「これは――私の失くし物です」
「お前の?」
疑いの目に気付いたのか、騎士はとうとうと話し始めた。
「もう2年も前のことなんですが……弟がどうしてもと言うので、一晩だけ貸してやった祖父の遺品なんです。調子のいい奴でね。参加したパーティーで飲み過ぎて、気が付いたら鎖がない。どこかで失くしてしまったというんです。さすがに大喧嘩しました。あの砦の警備は給料がいいですからね。お金をためて、同じ物を探して、やっと手に入れたんでしょう。実は今日会う約束だったんです。『休みだから一緒に酒でも飲もう』と。弟からそんなこと言い出すなんて、めずらしいこともあるもんだと、おもっ、て」
声が揺らいで、途絶えた。
護衛騎士は俯いたまま黙っていたが、やがて涙声で呟いた。
「……『失くし物が見つかる』。女神様の祝福かもしれませんね……でも、私は……こんな立派な形見より、弟に戻ってきてほしかった」
ユースレスは言葉を失った。騎士は静かに続ける。
「殿下。私は本日で、護衛を退身させて頂きとう存じます。残りの時間を家族と過ごしたいのです。これまでお側に仕えさせて頂き、本当にありがとうございました」
「え……!いや、ちょっと待ってくれ!そんな、急に……」
言い募るユースレスに、騎士は深く一礼する。そのまま振り返りもせず、部屋から出て行ってしまった。
そのとき、ユースレスの心の中にじわじわ広がる感情があった。
罪悪感だった。
恵まれた王子が、これまで生きてきて初めて感じた想いで、隣国で味わった敗北感やディアのことが嫌いになったときの嫌悪感など、比べ物にならないくらい苦しい感情だった。
これから先の人生で、なにか楽しいことがあっても、今日の騎士の涙を思い出して笑えなくなってしまいそうな、そんな気持ちだった。
「わ、私のせいじゃ……ない……」
答える者は誰もいない。
その日の夜遅く。
やっと、待ちかねていた王が帰ってきた。
王妃の眠る棺とともに。




