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守られていない最前線

――でも、今こそ分かる。今だからこそ、分かるのだ。


「なんか……臭くないか……?」


淀んだ空気、濁った魔力、吐き気をもよおす獣の匂いがする。こんなこと今までなかった。


「それにすごく……寒い」


口から漏れる息がどんどん白くなっていく。長靴の爪先や襟元から、じわじわと冷気が潜り込んで、体温を奪っていった。


みんな何も言わない。言えない。


隣にいた喫煙家の兵士が、心を落ち着かせようとしたのか紙煙草をくわえた。規定違反だ。でも誰も注意しない。兵士は息を荒げながら、煙草に火を付けようとしているが、手が異常に震えているせいでマッチがなかなか擦れないようだ。


ふいに、一番若い兵士が、背負っていた銃剣を抱き締めた。


「なあ」


「……よせ」と、別の兵士が止めた。


「だって……だって、多分そうだろ。みんな気付いてる、だろ」


銃剣をお守りのように抱いたまま、その若い兵士は続ける。顔からは完全に血の気が引いている。瞬きもせずに見開いた目に、涙がたまっていた。


「ここは、もう守られて、ない。女神さま、帰った、から」


とぎれとぎれに、声を絞り出す。


「ここは、もう。ただの……なににも、まもられてない……最前線だ」


背後に広がる森から、翼竜の群れの鳴き声がけたたましく響き渡る。




結界がなくなった今だからこそ分かる。


自分たちは、きっと休日を迎えられない。


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