森の砦の結界
女神が消え、王都の中央広場が混乱している同時刻。
「……今の、なんだったんだ?」
国境の警備兵たちは、詰めていた息を吐き出し、そう言った。
「なにかの……冗談だよな」
周囲には同年代の兵士が5人。
砦の屋上で、ぶらぶらと見張りをしながら、みんな夜勤が終わるのを楽しみにしていた。午後から休みだ。久しぶりに女でも買いに行こうか、なんて笑い合っていたのに。
突然、頭の中に聞こえてきた女の声で、全て消え去ってしまった。
お調子者の兵士が、はは、と乾いた笑いを零す。
「ああ、ビックリした。これって、例のお触れとはなにも関係ないよな?偽物のクソ聖女が処刑されるっていうこととは無関係だよな?遠隔広域伝令のテストとか、そんなんだよな?なあ?」
もうみんな気が付いていた。なにかがおかしい。
この砦で、こんな気持ちになるのは初めてだった。
だって、ここは最高の仕事場だったから。
昔、ここの警備に配属されるのはベテランや実力者ばかりだったそうだが、平民聖女が結界を張った5年前から戦闘が一切なくなり、今では自分たちのような若手兵士が担当している。
ここはどこの国とも接していない境目で、目の前には真っ黒な森が果てまで広がっているだけ。相手にするのは魔獣。でも、遠目にすら姿を見たことがない。
それでも、一応危険区域だから手当がいいし、口うるさい上司もいないし、事務仕事も少ない。
だから、ぶっちゃけた話。
結界が出来るまで魔獣がウヨウヨいて、しょっちゅう戦闘になったなんて昔話は、先輩たちのウソなんじゃないかと思ってる。割のいい仕事場を、ベテランが独占するための作り話。もしくはすごく誇張した報告。
結界なんて目に見えないものに、そんなすごい力があるわけない。




