滅びの運命
しーん。
耳が痛くなるほどの静けさが、あたりを包む。
女神は笑顔のまま、うんうんと頷いた。
しょうがない、しょうがない。
フルオープン女神モードの威光の前では、人の子は普通に喋れなくなっちゃうんだよね。みんなにどっかんどっかんウケなかったのはちょっぴり寂しいけど、しょうがないよね。
さて。
「愛しのユースレス様」
吸い込まれそうな深緑の瞳に見つめられ、ユースレスは口をぽっかり開け、へたり込んだまま、アヘアへと意味のない声を漏らす。女神は気にせず、白い歯を見せて微笑んだ。
「あなたってば本当に素晴らしい王子様ね!ついにわたしが何者か看破するなんて、なかなか出来ることじゃないわ!さすがに処刑なんてキーワードが出てきたら、わたしもウソをつき通せないもの!やるじゃない!」
女神はえいえい!とユースレスを突っつくようなジェスチャーをした。めちゃくちゃフレンドリーだ。
「でも、ちょっとガッカリ~!もし正体がバレなければ、こっそりお嫁さんになっちゃうつもりだったのに!なんちゃって!えへへ」
そんな。女神だと教えてくれてたら自分だって。そう言いたかったのに、ユースレスの口から言葉は出ない。
女神は次にイルミテラを見た。この数分で随分やつれたように見える。顔色は青を通り越して白く、ガクガクと震える身体をなんとか壁によりかからせている。
「聖女イルミテラ!」と、明るく女神に呼ばれ、イルミテラは恐怖で失禁しそうになったがギリギリ耐えた。
「あ、ごめんなさい、大きな声出しちゃって!」と、女神は申し訳なさそうに口を覆った。
「びっくりした?ねえ、そんなに怖がらないで!あなたには感謝してるのよ!隣国から帰ってきてくれて本当によかったわ!セーフって感じ!」
女神は、「セーフ!」のところで、両手を大きく水平に滑らせた。
「実はね、この国ってとっくの昔に滅ぶ予定だったの!でも、せっかくわたしを信仰してくれてるからなんとか存続させたくて、主神に内緒でアレコレ手出ししてたのよ!今回は特に大きい災いが連続してやってくるから、人間に交じって守護させてもらってたってわけ!」