女神の降臨
「あれ?雨が――」「見て!空が変よ!」
言い出したのは民衆だった。
重い雲が垂れ込めていた雨空が、みるみる変化していく。まるで映写機の早回しのよう。柔らかな風が黒雲を吹き払い、夕暮れでもないのに金色に輝く空が垣間見えた。眩い白光が降り注ぐ。
広場にいる誰もが、食い入るように天を見つめていた。
「な、なにが起こってるんだ……!?」
空を見上げていたユースレスは、足元に跪いていたディアに視線を戻した。
ディアは変わらず微笑んでいたが、天からの光に洗われるように、少しずつ輝きを増していく。
陽光を浴びる小麦色の肌。
肥沃な大地を思わせるマホガニー色の髪。
豊かな森と澄んだ湖を溶かした深緑の瞳。
そして、信じられないことに。
まるで大輪の花が開くように、彼女の背から金色の翼が生え出でたのだ。
翼は左右に3枚ずつ、全部で6枚――眩いばかりに光り輝き、処刑台に星が現れたよう。しかも、その翼の大きさといったら、中央広場を包み込めるのではないかというほど長大だった。
ユースレスは2、3歩後退り、無様に腰を抜かした。
立ち上がったディアは、ユースレスよりもずっと大きい。
教会にある女神像くらい背が高く、女神像のような白い衣と黄金の草花を編んだ冠を被って、女神像と同じくらい神々しく美しく――つまり、女神像そのものだった。
豊穣と癒しの女神、ディアマンティアナ。
正真正銘、神の降臨だった。
「人の子よ!」
魂を揺さぶるような――しかし、聞いている者に安らぎを与える声。ディアの声だった。言葉は、広場にいる観衆全員にはっきり届き、それどころか広場にいない者にも聞こえていた。
「よくぞ、わたしの正体を見破りましたね!ふっふっふ!バレちゃったときのイメージトレーニングは完璧よ!せーのッ!」
女神は、今にも泡を吹いて失神しそうなイルミテラ、怯える兵士や祭主、固まったままの群衆を見回した後、腰を抜かしているユースレスにウィンクをした。
「サプライズ!大・成・功ッ!!」