聖女ディアの処刑
婚約破棄を言い渡された翌日。
王宮よりお触れがあった通り、今日は偽物聖女の公開処刑日である。
あいにくの雨だったが、朝早くから中央広場には見物客が押し寄せていた。
「この偽物!女神様に謝れ!」「よくも騙してくれたな!」「病気が再発したらアンタのせいよ!」
馬車に載せられた檻の中で、ディアは困った顔のまま群衆を見つめていた。
あんなにディアを慕ってくれていたのに、貴族たちの嘘を真に受けたのか、お金でももらったのか、みんなひどい罵倒を投げつけてくる。檻の隙間から落ちてくる雨粒よりも冷たい視線が、ディアに降り注いだ。
たっぷり見世物になった後、ようやく教会の鐘が鳴った。
処刑の刻限となったのだ。
騎士たちに守られながら、ユースレス王子と真の聖女イルミテラが姿を見せた。
民衆は間近で見る王族と美しい聖女に見惚れた。
確かにディアよりもずっと聖女らしい見た目だ。きっと平民聖女よりもっとすごい力を秘めているに違いないと、みんな色めき立った。
断頭台の隣に、教会の祭主が歩み出る。
「ただいまより聖女を騙って人心を惑わせた、平民ディアの処刑を執り行う。罪人をこちらへ」
ディアは兵士たちに檻から引きずり出され、断頭台まで連れて行かれた。
顔見知りの祭主は、それを見てニヤニヤしている。教会の権威を脅かす聖女がやっといなくなるのが楽しくて仕方ないのだ。
乱暴に、断頭台の前で座らされたディア。
その眼前に、ユースレスが立った。
「婚約者だった最後の情けだ。なにか言い残したいことはあるか」
ユースレスは、ディアの命乞いを待った。
イルミテラ付の下女にするのは賛成だが、ユースレスにはもうひとつ案がある。
ディアがどうしてもというなら、ほんの少し情けをかけてやってもいいと思っているのだ。長年婚約者だった情はある。正式な妃としては絶対にお断りだが、まあ愛妾ならかまわない。イルミテラも許してくれるだろう。
囚人服の下からすべすべと日焼けしたふくらはぎが見えて、ユースレスはいい気分になった。全然違うタイプの女を妃と愛妾にするなんて、なかなかいいアイデアだ。
さあ、そのためにも、ここでディアには最高にみっともない姿を見せてもらわなくては。