秘蜜の時間
ふたりともディアに対して罪悪感はなかった。
ただの拾われっ子が、豪華な王宮で生活し、教会で大事にされ、散々甘やかされてきたのだ。いつ死んでもいいくらいの幸福は十分味わっただろう。
「ディアさんも、貴方の婚約者という幸福をたっぷり享受したのですから、最後にちょっぴり脅かすくらいは許してくれるでしょう」
手の中にするりと入り込むイルミテラの細い指先に、ユースレスも甘く指を絡ませる。
どちらからということもなく、自然と顔を寄せ合い口付ける。唇を離すと、ほうとイルミテラが熱っぽい吐息を零した。
「……ユースは、ディアさんともこんなことを?」
潤んだ紫水晶が、拗ねたようにユースレスを見上げる。
「まさか。あの女は、平民のくせに手を握ることさえ恥ずかしがって、口付けなんてとてもできなかったよ」
「よかった……さすがに立場を弁えていたのですね。初めてディアさんに感謝しましたわ」
「そうだな。私も感謝してる。彼女のおかげで本当に大切なものがなにか分かったからな。――君だよ、イルミテラ」
ふたりは、再び唇を重ね、極上の蜜の如き幸福を味わった。
実のところ、彼らは正しい。
人の世界の問題は、人の力で解決すべきで、奇跡に頼りきったらいつか大変なことになるからだ。でも、やり方があまりにもよくなかった。
もし、この若く美しい夢見がちなふたりが、真っ当な方法で愛を育んだなら、この話はきっとハッピーエンドになっただろう。
でもそうはならなかった。