平民聖女ディアの婚約破棄
「平民ディア、貴様との婚約は破棄だ」
婚約者であるユースレス王子にそう言われ、ディアは目を見開いた。
5年前聖女として王宮に召し上げられてから、初めて参加するパーティー。
きれいなドレスや美味しそうな食べ物にワクワクしていたところだったのに、いきなり婚約破棄を突き付けられてしまった。
しかも、いつも公式の場では『聖女ディア』と呼ばれているのに、王子は『平民ディア』と名指しした。一体どうして。
「あの、ユースレス様、突然なにを――」
戸惑いながら、怖い顔をしている王子に手を伸ばす。その途端、近くにいた騎士に捕まえられ、腕をひねり上げられた。
「きゃあ……ッ!な、なにをするの!?」
悲鳴をあげるディアを冷たく見下ろすユースレス。
ついこの間まで、そっけないながらも婚約者として扱ってくれていたのに。ディアは訳が分からず、縋るようにユースレスを見上げた。
「フン、そのまま押さえていろ。なにをしでかすか分かったものじゃないからな。――さあ、こちらへおいで、イルミテラ」
「はい、ユース様」
ユースレス王子の隣に、ひとりの女性が進み出た。
周囲から感嘆の声が上がる。
純白の髪は清らかな滝のように背や肩に流れ落ち、澄んだ紫の瞳は夜明けの空。肌は磨き上げられた象牙より滑らかで、可憐な唇はバラの蕾のよう。
ディアも思わず見とれてしまうほど、綺麗なご令嬢だった。
遠くの地までお祈りに出かけるため、日に焼け、ソバカスも目立つディアとは大違い。
うねったマホガニー色の茶髪も、取り立てて珍しくない緑色の目も、完璧な美しさを放つイルミテラの前では比べるまでもない。
ユースレスは、集まる高位貴族たちを見回し、堂々と宣言した。
「イルミテラ・リュゼ公爵令嬢。彼女こそ真の聖女である!」