第4話
その海龍はいつものように贄を求めた。
そうして選ばれた一人の女。
しかし彼女は自らの命と引き換えにその荒神の命を絶った。彼女は自身の内に毒を含ませたのだ。
斯くして……島々の周辺の海域には平和が訪れたのだった。
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その人物に出会ったのはいくつかの依頼を消化し、個人的なデイリークエストとなったデンキクラゲ討伐をコツコツ進めていた時のことだった。
「んお?……よぉ坊主!見ねー顔だな?」
「……はい?」
声をかけられたので振り返れば、海賊らしい海賊がそこにいた。
大柄な体型に立派に蓄えた口髭。黒いキャプテンハットに自分が手にしているカトラスがおもちゃの様に思えるほど立派な大きめのカトラスを肩に乗せ、フロックコートと言われるその赤色のコートを袖を通さず肩に着ている。中は白シャツで腰の黄色のバンダナにマスケット銃がワンポイントかの様に差し込んでいる。先の尖った革靴と暗いズボン。
「あーそうか、坊主おまえルーキーだな?」
しばらく目線を定めるかのように細めていたがおそらくプレイヤー名を確認していたのだろう。そしてご丁寧に名前の横に目立つ若葉マークがついているのは自分でも確認している。
まあ素直に受け答えしても大丈夫……?相手の名前の横に不吉なマークがあるのを除けばだが。
「俺はロバートってんだ、実際はロバーツ…バーソロミューロバーツって名前にしたかったんだがなあ。だがプレイヤーが使えねぇってことは、この世界のどこかにいるんじゃねえかって話だぜ?」
「はぁ…」
生返事を返してしまう。
バーソロミュー、おそらく歴史上の海賊のどなたかさんなのだろう。
この人は本当に海賊が好きでそういうロールプレイをして遊んでいるんだなぁ……。
「んで、坊主は一体ここで何してるんだ?」
「あぁはい、ここら一体に被害が出ているデンキクラゲの討伐ですね」
と、手に持ったカトラスでそれを刺し貫いた。ダメージが蓄積され、体力が空っぽになったクラゲはドロップアイテムを残し、分解されるような消滅エフェクトと共にいなくなった。
一応これで依頼数はクリアだが……。
「…………」
じっと浜辺の方から沖までを眺める。
デンキクラゲの特徴はリアルと同じく半透明なその傘と触手である。あとはわかりやすいイメージの問題だろうか、傘の模様が黄色の模様になっている。
太陽のまだ天辺におり、海の青さが目に冴える。だが、そんなリゾートチックな雰囲気をぶち壊す黄色の物体がウヨウヨと浮かんでいる。
この依頼を受け続けて数日は経っている。一向に変化がないのはそう言う仕様なのだろうか?
「俺もたまにこの島に戻ってくるが……いつからかアイツらがウヨウヨしてるぜ?まぁそういう設定なんだろうよ」
「そういうもんですかねぇ……」
チラチラと見ていたのがわかっていたのだろう。
「まぁルーキーだったら気になるわなぁ……このPKマークはよぉ?」
そう、ロバーツという名前の横には重なった二つの剣と……ドクロのマーク。つまりは、
「俺は気に入ってるんだぜぇ?海賊の掲げる旗印に似てるからよぉ」