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Islands Pirates ーアイランズ・パイレーツ  作者: 匿名希望の水夫さん
始まりの諸島編
29/32

第29話 後日談その1


 後日談です




 普段はそこまで賑やかではない冒険者ギルド。

 しかし現在では人がひしめき、祭り騒ぎの在りようであった。

 すべてのテーブルには料理やグラスが振る舞われており、みなそれに舌鼓をしつつ飲み物をかっ食らっている。

 楽し気な大勢の中、一つのテーブルだけ……そこだけ暗い雰囲気が漂っていた。


 テーブルには二人の人物。

 マスコットっぽいシルエットで丸メガネをかけたぱっつん髪のアバター、トロロとその弟であるシゲルの二人であった。


「はぁ~……」

 トロロは、最近クセになりつつあるため息をこぼした。


「………………」

 参ったなぁ……あれからあの少年を見つけられていない……。

「…………てる?」

 両の手で顔を覆いつつ、テーブルにくっつかないように頭を支えてうなだれる。


 あれから……三日前の崖上の出来事から()()()()()()()()()()()を経て、いまだに見つけられていない……。

「聞いてる?姉貴?」


 あの子が発生させていたのか、ワールドイベントへの流れを横取りしてしまったような気がする。

 このゲームに於けるイベントシナリオはタブでは管理されておらず、シナリオをクリアした時か複数人必要な状態になって初めて表面化されるもの……という認識だ。


「人の話を無視したりとかしてると婚期を逃すぞー……」

「あぁん?」


「ぐぇっ……!」

 生意気なことを言う弟の胸ぐらをつかみその顔をにらみつけた……。


「な、なんでもありません……」

「よろしい」

 私は居住まいを正し、ぬるくなった麦酒を煽り……つまみの枝豆を口へと放り込む。


「……いててて。てかまだ気にしてるの?いい加減諦めたら?」

 首元をさすりながら言うシゲルに目をやり、


「そういうわけにはいかないでしょ。相手は初心者、MMOとはいえ横取りして知らん顔は出来ない……、少なくとも私はそう思うから、一度きちんと話すべきだと思うのよね」

「そうかなぁ……?」


 シゲルは手元にある口をつけた料理を片付けつつも、しばし考えをまとめているようであった。

 まとまったのか咀嚼しているものを嚥下した後、


「それにしたって姿を見せなさすぎじゃない?うちのクランメンバー数人に、イベント中それっぽい人物がいたら連絡するようにって言っておいたけどさぁ……」

 「そうそう。全然見つからなかったのよねぇ……なんでぇえ……?」


 一つ目のワールドイベント。

 このゲームが始まって以来の初めてのワールドクエストのイベントであった。


 その概要は複数名による大型レイドイベント『蛇神(じゃしん)復活祭』、封印を解除された蛇神の復活というものであり……イベント用のフィールドにプレイヤーをワープさせ、戦闘を行うといったものだった。

 ルールは簡潔。

 蛇神の復活を阻止できればプレイヤーの勝利。


 もしも復活し、この島々を飲み込まれれば……この世界が大きく変貌してしまう、といったゲームの世界観への大きな影響が発生しうるイベントやクエストのことをワールドイベントまたはクエストと称しているようだった。


「というか、イベントが発生しているのに参加しないゲーマーなんているのぉ……?」

「……まぁいないこともないかなぁ」


 くっ……!イベントのせいで昨日一昨日と半分寝ずに出社したんだが……?


「純粋にリアルが忙しかったんじゃない?それか、戦闘系だったから初心者の出番がなさそうだったとか?」

「いやまぁ……ほとんどそうだったけどさぁ」


 初めての大規模レイド戦ともあってか、古参が多く参戦して祭り騒ぎであった……。そしてすぐに阿鼻叫喚へと変わったのは笑ったなぁ……あはははは……。


 蛇神の攻撃が豊富かつ強力であったため、すべての装備が破損状態にされ……私たちの生産クラン、“マグヌスオプス”が修繕することができ、大手の商船クランを自明している“ゴールドペッパー商会”がその資材を提供してくれたのもあり……なんとか拮抗することができた。まぁ後半はほとんど初期装備でゾンビ戦法だったんだけどね……。


「じゃあレイドの方はいいとして、その次のイベントは?あれは初心者も貢献できるじゃない」

「うーん……さぁなんでだろうねぇ?」


 辛くも勝利したレイドイベントのそのすぐあと、打ち上げムードの中現れた帝国の数隻の船。その一団は、私たち大勢の前で高らかにこう宣言したのだ。


『本日からこの領地は対王国への足掛かりとし、橋頭堡として活用することになった!住民はすぐにここを立ち去り、土地を明け渡してもらおう!』


 これにはプレイヤー達が大激怒。あわやその場での戦闘が始まる……といった瞬間に待ったの声がかかった。

 商会の会長、ロクロウがその帝国の使者へ呼びかけ……平和的解決へとシナリオをシフトした。

 内容としては、住民を説得して使者の人物よりも票を多く集めること。


 ただしこれには一つ問題があった……。


『帝国側は責任者がいるんだけどねぇ、村人の中からリーダーみたいな人がいないんだよねぇ』

 と、ロクロウがこぼしていたのを覚えている。


 その時の村長はなぜか発言もせず、さらに何も手を打たず……唯々諾々と相手の要求を呑もうとしていた。

 これでは帝国側の不戦勝……というかプレイヤー側の抵抗手段が存在しない状況で終わるところであった。彼女が発言をするまでは。


 ちらりと、一番の賑わいを見せる受付カウンターを覗き見る。


 様々なプレイヤーに囲まれ、いくつもの言葉をかけられながらも一切疲れた様子を見せないその姿。ロイナのぎこちない笑顔が少しばかり気になるものの、今の状況というものが珍しいためだろう。


「……ん?ねぇ、あんなヘアピンしてたっけ?」

「んお?」


 シゲルにも見るように促し、回答を待った。


「……いやぁ?以前はしてなかったと思うけどなぁ」

「そう……」


 いつからしているんだろう。そのつやのある黒髪に付け加えられた白い輝き。よくよく見れば、それはガラスの製品であることがわかる。


 あの時、ロイナが自ら立候補しなければ帝国の指示通りここを立ち退かされ……王国との決着がつくまで二度と足を踏み入れることは叶わなかったことだろう。

 ロイナの要望は簡潔だった。帝国からの支配の脱却である。


 真っ向からの反発を受けた使者は怒り狂ったものの、ロクロウが間に入り……イベントが始まった。

 村人の支持を得るため私たちプレイヤーは困りごとを解決していき、帝国側は説得とお金での解決を進めていった。


 通常の依頼と変わらないので、初心者でも活躍は出来たと思うのだが……結局、彼は現れることはなかった。


「はぁ……マジでどこにいるの?」

「知らないよ」


 それを水曜の夜から連日、これらのイベントの重要人物枠としてシナリオに組み込まれて右往左往していたのだ。

 彼がいれば彼がそのポジションに収まるし、なんなら重要イベントなのでゲーマーとしてはうれしいはずなのだ……。


「まぁいいじゃん?姉貴だってなんだかんだ有名になってうれしいでしょ」

「うれしくないし……」


 ぶっきらぼうに答え、システムメニューを開いた。

 以前にはなかった項目、ワールドクエストがそこに表示されていた。それを開けば、『()()()()()』とそれの関連クエストとして『()()()()()』という項目があった。


 それぞれのクエストの主要人物欄に私の名前が載っている。事前に他の表示名に変えるかの確認メールは来たのだが、名前が売れればクランにとっても有益だろうとリーダーにも確認をとり、そのまま記載してもらった。


 結局、帝国の要求は通らず……武力行使する寸前、またもロクロウが話をつけた。


『いやぁワールドクエストはこうもお金が飛んでいくとはねぇ……痛い失費だったよ』

 と、あっけからんと答えていた。


『ここだけの話、どうも帝国に貸しがあったみたいでね?そこはお金で解決させてもらったよ。これからここを開発していくっていうのに、土地がなくなったら元もこうもないからねぇ……そう考えると必要経費かな?』

 何でもないように言っているが、一体どれほどの桁を要求されたのか……想像もしたくなかった。


「でもようやくか……」

 追加の注文を取りに行ったシゲルを見送りつつ、一人で思う。


 ようやくすべての事柄を整理し終えた今の状況。この島のインフラ整備をする取っ掛かりとしてはいいきっかけだったのかもしれない。


 まぁ蛇神の討伐の影響として、いくつかのダンジョンが発生してしまったのは思惑とは外れていたけれど。


「はい、これ姉貴の分ね」

「さんきゅー」

 追加の麦酒を受け取り、一口含む。


 長々と愚痴ってはみたものの……気分としてはそんなに悪くはなかった。


「………………」


 視線を向けるその先、ロイナの様子を見てそう思う。


(やっぱり女の子のために頑張るってのは、ゲーマーとして当然の心理だと思うのよね?)


 頬杖をつきつつ、私はその笑顔を見守るのだった。


 そろそろ一章が終わるのでまとめて連日投稿しようと思ったのですが、時間が取れず……。

 濁点とかルビとか振りたいので完成都度予約投稿します。

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