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Islands Pirates ーアイランズ・パイレーツ  作者: 匿名希望の水夫さん
始まりの諸島編
28/32

第28話

 さて、よくわからないままロイナさんを泣かせ。さらによくわからないまま小さな女の子?のアバターのプレイヤーとパーティを組んだわけなのだが……。


「探しにったって……」


 どこを探せと?


 ちなみにさっきの子は住宅地のような家の集まっている方面を探しにいったので、俺はそれとは別の方面に行かなくてはならない。


「……………めんどくせぇ」


 も〜、女の子はすぐ泣くんだものなぁ……。おじさんはオロオロするしかないのよ……。圧倒的人生経験が足りなさすぎる……!


「……泣かせたまんまなのも嫌だし、探すかぁ」


 どうやって泣き止ませればいいの……?誰かその辺のイケメンに聞けばいいのかな?わからん……。


 ゲームにログインしてからしばらく経っているのもあり、残りの時間も少なくなってきた……。


「また後日、ってわけにもいかないか……」


 俺はそこまでメンタル強くない。後回しにしたらそれっきりとかありえそうだわ……。


「ひとまず探しに行くか」


 とは言っても、無計画というわけにもいくまい。


 先ほど見た資料の中に、儀式の関係者を祀っている……いや。埋葬しているところがあるらしい。集団墓地の奥まった方だとか。この島の文化でいえば、亡くなった人たちは骨を海に撒くのと火葬後に埋葬する二つのパターンがある。


 儀式の関係者は……その骨すらも残らないので、遺品となる……と書いてあった。お爺さんの話からして丸呑みだろうからな。


「ひどい神様もいたもんだ……」


 そう愚痴をこぼして、足を向ける先は島の北の先端。そこには切り立った崖があり、眺めのいいところに設置してあるみたいだった。


 ひとまずはそこに向かおう。何か情報が手に入るかもしれないし……。


******


 いやぁ……まぐれって怖いですよねみなさん。


「……………………」


「あっ……えっとそのぉ……」


 偶然にも!バッタリ!


 到着して誰かいるなと思ったら!振り返ったロイナさんと!バッタリ!


 バッチし目が合ってますよ!


「………………………」


「あはは…………」


 くそぅ……沈黙が心にくる!


 とりあえずあの子にはパーティチャットで現在地を送っておこう……あ、返信きた。急いで向かう、……慌てなくても大丈夫ですよっと。


「えーとその……さっきは嫌な気分にさせて申し訳なかったです。ごめんなさい」


「……いえ、その……私も過剰に騒いでしまっていたと言いますか……ごめんなさいです」


 お互いにペコリペコリし合い、表面上……は元通りである。どちらも大人の対応というわけですねはい。


「また蒸し返すようであれなんですが……遺跡の壁画の内容。あれらは全くのデタラメという事でいいのでしょうか……?」


 しつこいようではあるが、この確認は大事なことなのでもう一度だけ聞いてみる。


「……断言できるわけではないのですが、少なくとも私の知っている伝承とは全くの別物です」


 最後の犠牲者である彼女の母は、その身を賭して神を討った。その時の彼女はおおよそ5歳ほどであろう。小学生より幼く、人によっては記憶も思い出せない歳頃である。それ以降は神を名乗る存在が現れることはなく……彼女の母を、その偉業を讃える御伽話へと伝承は移り変わっていく。


「小さい頃は泣き虫だった、と義母さんからはよく言われましたね……。私はそんな思い出はないんですけど……」


 足元を見つめるその姿は、ひどく寂しそうだった。


 ……崖下から登ってくるわずかばかり強い風は、とても冷たかった。吹き付ける風の音を耳にしていると、後ろの方で駆け寄ってくる足音が聞こえた。振り返ればトロロが、どういう状況なの!?という顔をしているが、特に問題はなさそうだった。


「けど最近おかしいんです……」


「なにがです?」


 トロロも近くまで来てもらい、話を聞いてもらうことにした。……別段やましいことはしていないが、妙な勘違いをされていそうなので。


「朝、目が覚めると全身汗だらけで……何年もこの島で過ごしていて、あんな風になったことはありません……。それになんだか忘れているような気がするんです……。これが勘違いなのか、私の一族に伝わる力によるものなのか……」


 虫の知らせというやつだろうか……?


「……ねぇ?一体なんの話をしているの?」


 トロロが声を潜めて聞いてくる。


「ロイナさんがこの島における次世代の巫女さんなんですよね……。他の血筋は途絶えていまして……」


「妙に重い設定ね……理解したわ」


 そう言うとトロロが彼女に近づき、


「ぜひ私にも話を聞かせてほしいわ。これでも考古学を得意にしているから、少しなら手を貸せるわよ?」


 安心させるためか宥めるように告げた。


「いえ……この島の問題ですし、あなた方には危ないことをさせるわけには……」


「危ないこと、であるならば余計に私たちが体を張る必要があると思うけど?」


「ですが……」


「いいんじゃなんですか?自分は善意に甘えることは悪いことではないと思います。ロイナさん自身もあまり自らの出自に関係してそうな話は、他の人には話しにくいでしょうし」


「……………………」


 しばし、彼女の考えがまとまるまでトロロとの情報共有をしておこう。


「この島に来てからしばらくして、とある遺跡を見つけまして……」


 遺跡の壁画の話と、お爺さんからのことも話しておく。


 ある程度予想はしていたのか、すんなりとこちらの話を聞いてくれた。


「……それで違和感を覚えて調べているのね……」


「まぁそういうわけです」


 この事柄に関して協力者ができたのは結構ありがたかった。


 と、気がつけば……側にいたはずのロイナが少し離れたところにいる。というか崖に設置されている柵を越えて、その先に立ち尽くしているように見えた。


「ちょ……!?」


「ロイナさん!?」


 俺たちは急いで柵を乗り越え、その背に近づいた。


「あ、危ないから!こっちに来て!」


「どうしたんですかロイナさん!」


 声をかけてみるも、全くと言っていいほど反応がない……。


 何が起こっている……?


 ジリジリとした緊張感を抱えたまま、これ以上刺激していいものか……それとも反応があるまで声をかけ続けるべきか、思考がグルグルと巡る。


 吹き抜ける風が彼女の髪、裾を激しくはためかせた……。


 しばしの静寂が周囲を包み込んだ。


 目の瞬きをしようとした瞬間……彼女の体が落ちた。


「ひっ……!」


「ーーくっ!」


 俺たちの反応は真逆だった。


 これから起こることへの恐怖と阻止するための行動。


 自分でも驚くほど最初の一歩を踏み、崖っぷちから身を投げ出した。


「バインドォ!」


 先に落ちている彼女を追うように投げ出したものの、すでに手の届く範疇にない。


 ゆえのスキル発動。


 空中から伸びたロープが彼女の身体を拘束する。


 そして、その宙に伸びているロープ。それをスキルが終了する前に右手で掴み引き寄せる!


 わずかにこちらへと引き寄せることが出来たが、これでは二人とも海へと叩きつけられるのは避けられない……。


(ごめん)


 その身体の下に左腕を差し込み、身体を捻るようにして押し上げた。


 視線の先……崖の上で無事に彼女を受け取ったトロロの姿をおさめ、俺は安心した。


(あーこれで死にもどり二回目かぁ……あ、あんな所に鉱石ぽいn)


 海へと叩きつけられ、赤い画面に浮かぶリスポーンまでの残り時間を……どこか懐かしく感じたのだった。




「ロイナさん!ロイナさん!?」


 私は焦点が定まらない彼女を安全なところまで運び、声をかけ続けていた。


「ぅぅ……」


「ロイナさん!?」


「私は一体……」


 覗き込んだ顔に浮かぶのは戸惑いだろうか……?


 先ほどまでの無感動な表情とは違っている。元に戻ったようだった。


「……あれ、あの少年は?」


「意識を失ったロイナさんを助けるために……その……」


 どう伝えたものだろうか。しばし逡巡したあと……偽らずにそのままの状況を話すことにした。


「そんな……私のせいで彼が……」


「だ、大丈夫ですよ!私たちはまた生き返るんですから!」


 そう、私たちプレイヤーは死んでも蘇る。


 NPCである彼女たちとは違って……。


 暗い表情で落ち込むロイナさんをフォローしつつも……私は彼女に、聞かねばならないことがある。


「さっきのはなんだったんですか?まったくこちらの声が聞こえていなかったみたいですが……」


「…………こんなことを言っても信じてはもらえないかもしれません」


「大丈夫です、話してください」


 彼のことへの負い目もあるのだろう。……重かった口が開いたのは随分と掛かった。


「声が……したんです」


「声?」


 頷く彼女はさらに続ける。


「聞き覚えのない声のはずなのに……どこか恐怖を感じていて。従わないとって思っていたら急に体が動かなくなって……それで」


「もう大丈夫です……ありがとうございます、ロイナさん」


 震える彼女を安心させるため、優しく抱きしめ……これからどうするか考えを巡らせる。


 と、パーティチャットが送られてきた。どうやら無事に復活できたらしい。


『ロイナさんは無事ですか?』


(一言目がそれですか……)


 少しクスリとした。


 無事な旨をそのまま送り、彼の行動の素早さに改めて感嘆とする……。


 私はただ竦んで、悲鳴を上げることしかできなかった……。遅れて駆け寄り、放り込まれてきたこの子をなんとかキャッチすることが出来たが、彼がいなければきっと……。


 彼から次のメッセージがやってきた。


『そうですか、それはよかったです。では自分はもうログアウトするので、申し訳ありませんがあとはよろしくお願いします』


 という文面と、パーティーからメンバーが抜けた通知が表示される……。


「ぇ……?」


 え……?ちょ……?


「えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 私のその悲鳴は吹き付ける風と共に、暗い夜に溶けていった……。

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