第27話
シゲルは、野良の初心者と思われる(というか多分そう)彼の手を借りて新たな書物をいくつか読み漁っていた。
その彼が出ていって、入れ違いのように一人の女の子が入室してきた。
「おいっすー。仕事が長引いて遅れたぞー」
低めのアバターでぽっちゃり体型にあえてしているその女の子。まぁ俺の姉貴なんだが。
「お疲れ様でーす、トロロさ〜ん」
俺たちの班のまとめ役、のような人物ではあるが親しみやすいので皆の挨拶もだるっだるになるのはいつものことであった。
「ん、シゲ。それなに読んでるん?」
全体的に丸っこくマスコットっぽい雰囲気に、茶髪のウェーブした髪質は毛先をぱっつんに切り揃えており、童顔の顔には大きめの丸メガネ。なんとはなしにフクロウに似てるなと思う。
「新しく見つけた文献。姉貴、ここの本全部読んだって言ってたと思うんだが?」
これ見よがしに本のタイトルを見せつけ、反応を伺う。
「えぇ〜?全然読めないんだけど……。ちょっと貸しなさいよ」
「暴力はんたーい」
手を伸ばしてきたので逃げるように身体を逸らし、続きを読む。
「……お姉ちゃんの言うことを聞けないのかなぁ?」
肩に手を乗せて脅してくるが……、
(お姉ちゃんって言う年齢じゃないだろうが……)
とボソッと言ったのが悪かった。
「ぐぁっ!?」
こいつヘッドロックしてきやがった!?
慌てて腕を外そうともがくもなかなか外せない。
「聞こえないなぁ〜……?なんて言ったのかなぁ〜?」
「ぜっ、ったいに聞こえ、てただろうが!?」
システムのおかげで痛みはないが、息苦しさが多少あるのでこのままではバッドステータスである気絶に陥ってしまう!
腕をタップして解放するように促し……満足したのか、あっさりとロックを解除した。
「それで?条件はなによ?」
「ゲホッゲホッ……!」
鬼か悪魔だろこいつ……!
呼吸を整えつつ……彼から教わり、試したことで大体の条件が絞れた。
幾度かの咳払いののち、
「ヒント1、この諸島の昔話諸島の昔話に関係しています」
「たしか、神様がどうのこうのでしょう?それは知ってるよ」
「ヒント2、真偽はともあれ遺跡が見つかりました」
姉貴はピタリと硬直した……知らなかったらしいな。普段から俺たちも含めて、フィールドワークなんかしないからなぁ。それに昔話っていうところと、童話っぽくまとまってたし、戒めの面での創作なんだと結論付けていた。神様なんて超神秘的存在、全然見つからないし、最強種だとか巨大ボスだとか戦えば何かある!っていうモンスターがいないのだ。いても小さいダンジョン奥に住んでいるボスくらい。
「ヒント3、この本にはその儀式に赴いた人物の名前が記されている……はい、これ」
大体ここまで開示すればこの本に関しては読めるようになるらしい。
「ありがと」
素直に受け取った姉貴は癖である速読をして、気になった部分にもう一度目を通した。
「……なるほどね」
大体わかったわ、という言葉を残して資料室を出て行こうとする。
「あ、おい姉貴!?」
「ちょっと人を探してくるわ」
ろくに取り合ってもらえず、さっさと出ていってしまった……。
「なんなんだいったい……」
他の仲間と顔を見合わせて困惑し……、まぁそのうち戻るだろうと他の資料を読もうと切り替えるのだった。
トロロは生産ギルドから外に出ると、探している人物を思い出そうとする。
「知っている文字がいくつか並んでいたのよねぇ……。つまりどこかで会ったことがあるか、読んだことがある字面なはず」
受付にいたギルド長の名前は書かれておらず、生産ギルド勤めの職員もハズレであった。
まさか、一年前に全部読んでいたと思っていたのに……新しい書籍じゃなくて存在していた書物に気がつかないとは……!
「これじゃあ王国の方も全部読めてなさそうね……」
ある一定層の貴族連中から本を買い、または借りて読み漁り、情報を手に入れていたというのに……大概は娯楽的な小説ものが多かったのだが、このゲームでの一般常識を知るにはもってこいのものではあった。
「ほんと、このゲームは妙にこだわりが多いわねぇ」
本、書籍なんかいくつかのキーアイテム以外はお遊びで、それっぽいのが存在するだけ……だと思うんだけどなぁ〜。片手どころか三桁以上は読み込んだはず。速読ではあるけれど。
あの島は王国領の中でも辺鄙な田舎町っていう風評らしいし、本国は一体どれ程豊かなのだろうか……。
「っといけない、思考の沼にハマってしまうところだった」
陽も水平線の向こうに沈み、地面から熱が逃げたのだろうか冷えた風が身体を撫でた。流れるパッツンな毛先を手櫛で軽く戻しているときであった。
「…………バカなこと言わないで!」
と、それほど遠くない場所だろうか?そのような声が聞こえた。
「……修羅場かな?」
私個人はすでに社会人ではあるものの、他人の噂話やら恋バナやらそういうものにあまり触れられてこなかった反動からか、野次馬根性がめっぽう強い……と勝手に思っている。
「あまり褒められたことじゃないんだけどねぇ……」
自身では普通だと思うのだが、外面が良すぎるのかそれともオーラなのか。あまり人に話しかけられることがなく、また相談事もされたことがないのだ……。黄色い声援?は女子校時代結構受け取ったんだけどなぁ。
そそくさと声の下方へと足を伸ばし……立ち去っていく女の子の人影と、私のアバターよりは背が高いかなぁという少年を発見した。
(ってかあの子、思いっきし初心者衣装じゃん)
どう行動するのか見守りつつゆっくりと近づいていく。と思ったら、しゃがんで盛大なため息をついてるんですけどぉ!?
それはちょっとダメでしょうが!
走り出して、少年に近づきつつ言い放った。
「ちょっと!君!項垂れていないで探しに行きなさいよ!」




