第26話
暗くなってきたのでそれぞれの手持ちのアイテムで手元を明るくしていた資料室から出た。
あの後、シゲルのお仲間さんも興味があったらしく、皆で手に取り読み込んでいた。
シゲルには受付のおばさまからの言付けを伝え、受付にいたおばさまにはシゲル達にも貸し出していいかの確認をして、問題なかったのでそのまま貸し出し中だと報告しておく。
陽が落ち、すっかり夜模様になった生産ギルド前。遺跡の方を見に行くか、それとも起きている住民に話を聞くか……と、ぼーっと考え事を巡らせているとロイナさんの姿を見かけた。
「そういえば……」
ロイナさんの名前って……ロイナ・モナだったか。偶然、というわけじゃないんだろうなぁ……。
「聞きにくいなぁ……」
赤の他人の可能性を信じてみるか……?
「とりあえず、遺跡のことは聞いてみるか」
その背を追いかけて、声をかける。
「ロイナさーん!」
彼女の歩みは止まらず、振り返りもしない。
声が小さかっただろうか……?
「ロイナさん?」
追いついたので肩を軽く叩いてみる。
「あっと……。あなたでしたか、こんばんわですね」
「はい、こんばんわです」
……ん、少し顔色が悪い……かな?
振り向いた彼女の顔は、頼りない月明かりの中では判然としない。だが、その声色は少しばかり暗かった。
いつもはギルドの標準的な緑色の職員の制服を着ているロイナさんだが、今夜は非番なのだろうかラフな格好であった。
手入れが行き届いていそうなきめ細かなその黒い長髪は一束にしてあり、首元から前に垂らしている。涼しげなワンピースとワンポイントが入ったサンダルといった姿である。
「ロイナさんは、こんな時間にお散歩ですか?」
今夜は過ごしやすいですからね、と続けて言ってみる。
普段はこんな暗い時間帯には見かけた事はない。……いやまぁ、この諸島全てを見回りしていないから絶対ではないんだが。
「……えぇまぁそんなところですよ」
…………………。
あなたはどうなさったのですか?と聞かれたので、ちょっと調べ物を。と答えておいた。
一度は歩みを止めたロイナであったが、程なくしてその足を動かした。
少しばかり聞きたいことがあるので俺も隣で歩調を合わせた。
「南の方に浮かんでいる小島に、遺跡が残っている事はご存知ですか?」
「遺跡……ですか?いえ、申し訳ありませんが……」
「他の人がそれらしいことを言ってたりだとか……」
「……それも特には、ですね」
島の住民がほとんど存在を知らない、という感じだろうか。
あれこれ考えても答えがなかったのでやはり聞くしかないのだろうと思い、彼女に遺跡の概要を説明する。
「……と、そんな壁画なんかもありまして」
「……そんなバカなこと言わないで!」
グイッと肩を抑えられ、彼女に詰め寄られた。
「私のお母さんはそんな理由で居なくなったんじゃない!」
ふわりとその長い髪が宙に流れて、月明かりがはっきりとその顔を照らす。
見上げるその顔に浮かぶものは……悲しみと怒りと、戸惑いであろうか。
そのまま踵を返して、彼女はどこぞへと駆けて行った……一瞬だったが、その瞳は潤んでいたかもしれない。
ロイナさんの姿が見えなくなり、人気も無くなった頃。
「はぁ……」
一人ため息を吐く惨めな男がそこにいた。
だから人に踏み入ったことをするのは嫌なんだ……。誰しも大なり小なり、抱えているものであり。誰かに気安く触れてほしくもないのだ。
「ちょっと!君!項垂れていないで探しに行きなさいよ!」
と、駆け足の音が背後からする。
振り返れば、同じくらいの背丈のメガネをかけた知的そうな?いや、子供っぽいというか……幼い優等生っぽい女の子がいた。
「ぼーっとしないの!ほらパーティ申請したから入って!」
通知音と共にウィンドウが開かれ促されるままパーティを組んだ。
「私あっちを探すから!何かあったらメッセージ送って!」
そう捲し立てて足早に去っていった……。
「なんなんだ……」




