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Islands Pirates ーアイランズ・パイレーツ  作者: 匿名希望の水夫さん
始まりの諸島編
25/32

第25話

「……………………」


 結果。


 語られたことは全て真実であった。


「ふぅ…………」


 分厚い本から顔を上げ天井を見上げた。


 儀式のことは本当にあって、実行に移された歴史がそこには記されていた。後ろの数十ページは元々白紙であり、巫女を務めた人たちの名前がばらばらの筆跡で記入されていた。


 そして一番最後に記入されていた名前は……サナド・モナという女性の名前だった。


 それぞれの年数も記入されてはいるが、今この現在が何年なのか知らないのでどれくらい前の出来事なのかはわからないままである。


 儀式の流れはおおよそ三つに分けられる。


 日が変わってからその心身を禊ぎ、祈りを捧げる。


 島々を巡り、神様への謁見を願う。


 そして……巫女が一人で神様の元で祈りを捧げる……。


「……………………」


 なんとも……居心地の悪い読後感であった。


 え、本当にこんなことやってたの?と若干引いている。


 いやまぁゲームの住民だし、顔も知らないのでこう……喉に小骨が引っかかるくらいの気持ち悪さでがあった。


 今までのゲーム体験が嘘のような感じだ……。


 プレイしたゲームは形態はどうあれ、一枚画面の向こう側の出来事であり、自身は傍観者であったのだ。時たま第四の壁を破ってくるストーリーのゲームもあるにはあったが、それはそういう風にシナリオを組んでいるからであり、それをこちらがどう受け取るかで没入するかしないかを選べるものであった……。


(これじゃ本当にこの世界の住民になったみたいじゃないか……)


 現実の俺が丸々こっちへ移送されたような、そんな感覚であった。


 ロバートに刺し貫かれた時には感じなかった気味の悪さを今、実感している。


 このゲームにおけるダメージの表現は軽い痺れであり、痛みや熱さは感じない設計である。それは現実の身体へとフィードバックしないためのものであり……ゲームはゲームなのだと錯覚させないためのもので……。


「………ふぅ」


 いかんな。


 このゲームに没頭し過ぎている気がする。


 そう、これはゲームである。儀式だのなんだのはそういうシナリオであり、あのお爺さんだってそうプログラムされて喋っていただけ……。


 最終的に……俺がどうしたいのか。それが大事なのではないだろうか?


 そうしてしばらく考えを巡らせていたためか、気がつくのが遅れた。


「あー……君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど〜……?」


 机をトントンと指で軽く叩き、こちらを伺う声が一つ。


 視線を天井の木目からスライドし、その青年?を視界に収めた。


 落ち着いた紺色のTシャツと黄色の布を腰に巻いただけの、ラフな格好の青年が気まずそうにこちらを見ていた。


 うっすらと青みが染み込んでいる夕景が彼の背に見え隠れしているので、だいぶ夢中になっていたんだなと頭の片隅で思った。


「いやいやいや、無理やり聞き出そうとかは思ってないよ?多分初心者だろうし、情報の重大性も勿論わかっているよ?」


 なんなのだろうかこの青年は?そう捲くし立てられても困るのだが……。


 ジト目の俺を見てさらに慌てるようにあたふたしだす青年。


「えっと……ね?つまりその……君の読んでいる本の中身がどんな内容なのかを知りたいんだけど……」


 ふむ、この本が気になると……そういうわけか。


「こういう本ですよ?」


 はい、と本を持ち上げて背表紙やらを見えるようにしてあげた。


「…………あーっとね……?そのぉ……」


 何故だろうか?目がとても困っているように見える。


「僕にはその……読めないんだよね……。その本のタイトルが……。というか君が持ち出しているそれら全てが……なんだけど」


「……………………」


 ……何を言っているのだろうかこやつは?


「……???」


「あーっとね……」


 とても気まずそうに切り出す青年の言葉に、俺は驚かされた。


「こういうゲームは初めてかな?一部のアイテムや場所なんかはフラグが立ってないと認識できないんだよね」


(そうだったのか……)


 どうやら彼が言うには、俺はそのフラグとやらをどこかで立てていたらしい。


 そして彼……正確には後ろでちらちら見ている全てのグループは全員、本の文字や内容を認識できなかったのだとか。


「それでね?できればなんだけど、心当たりとかあるかなぁ……?あ、自己紹介がまだだったね。クラン、マグヌムオプスの考察・研究班所属のシゲル。よろしくね」


 シゲルはその柔らかな雰囲気のまま微笑んだ。


 ふむ……せっかくなので彼にも意見を聞いてみてもいいのかもしれない。


 シゲルに同席をお願いし、これまでの経緯をかいつまんで説明してみる。


「……………。なるほどねぇ……、遺跡の謎と言い伝えられている伝承との齟齬か……おっとぉ?」


 彼はいくつかの本を手に取り、じっくりと表紙やら背表紙を確認している……。もしかしなくても読めているのだろうか?


「きっかけはなんとなく把握したよ、ありがとね」


「いえいえ」


 独占してても進めている余裕がないものでね……役に立ててくださいな。


「で、さっきの話だけど……経緯はどうあれ、その遺跡の場所をわかっているんでしょ?ならもう一度調べに行くのが得策かなぁ?それか住民に聞き込みするのも手だろうね」


 こういうのは一つ一つ再確認していくのが近道なんだよ、とシゲルは言う。


 そういうものか……。


「アドバイスありがとうございます!」


「いやいやいや!何か役に立てたなら良かったよ!まぁこれぽっちじゃお返しには足りないんだけどさ!」


 俺は一通り読み終わったので持っていた儀式関連の書物を譲り、他の興味深いものを読もうかな。伝統工芸品とかめっちゃ興味ある……こういう文献や図解の本は眺めているだけで楽しいのよなぁ……。


 満足するまで、そこで二人で古い文献を読み漁るのだった。

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