第21話
レンタルルームの木札の鍵を受け取り、販売所のすぐ横にある扉に木札を差し込み、ドアノブをひねる。カチャリという軽い音と共にドアの内側へと入ると、どこかで見た教室が広がっていた。
どこかで見たなぁと、思い出してみれば遠い記憶、学生の頃の家庭科室がおそらく近いイメージだろうか?ほんのりとアルコールの匂いもするので、理科室あたりも近いかもしれない。並んだ作業台のさらに奥、はめ込まれた窓ガラスともう一つの扉が見えたので……外に出れるのだろうか?その扉を開くと……。
「おぉ……?」
いやこれレンタルルームじゃなくて、レンタル空間の間違いでは?
そこには広々とした草原と青空があり、爽やかな風を浴びた。後ろを振り向けば、ほったて小屋のような簡素な建物と、ちっとした軒下にいくつかの薪と、立派なかまどと、水洗い場が設置されていた。その他には休憩所のだろうか?椅子やテーブルが日陰に収まる形で置いてある。
「立派すぎる!」
さてはこれ、一人で借りるのもではないな!?
パーティから小規模クランは利用できるだろこれ!
「うわぁ……ここでバーベキューとかしたら絶対楽しそうじゃん……」
天候良し、ムード良し、立地良し……今度用意してやろうかな、ソロキャン。
地平線が望めるほどにまっさらな平原、その果てはあるのだろうか……。
まぁあるんだろうなぁ。誰かが検証とかしてそう。
「と、こんなことをしてる場合ではないか」
レンタルなので、利用可能時間は予め設定した上で支払いをしている。そのため、終了時間になるとアラームが鳴り、その後の経過時間毎に追加料金が発生するらしい。借りる際の口頭の注意を受付でされたのである。
「ひとまずは武器だな」
部屋の中を汚すのは気が引けるので屋外で作業をするか……。
その辺の程よい空間に胡座をかき、取り出すのは角材である。1メートルくらいの大きさの材料があったので、これを加工して作るのだ。
木工の道具を取り出し……まずは角材の角を丸めよう。
「…………………」
今更ながら面倒くさいやり方を選んでしまった感。生産、クラフト系のゲームだとミニゲームだったりで簡略化されているのが多いと聞くが、道具を用意しても実際に削り出しても何もなしか。ある意味オリジナリティ溢れるものが作れるのか?
「と、鉋が確かあったからコレを最初にやるか」
軒下にあったテーブルの上に角材を置き、道具の中から鉋を取り出し、刃が出ているかを確認する。安全のためか全く出ていなかったので、金具の頭を同じく木工具類の中にあるカナヅチで軽く叩き、ちょびっとだけ出したら木材をしっかりと片手で支えて、角に優しく当ててスッと引く。角ばっている部分がゴリゴリと削れていき、それを複数回行う。長さが長さなので一遍に上から下とはいかず、途切れ途切れに削るので表面はでこぼこしてしまうが……仕方がないか。ひとまず四つ角をある程度広げれたので、あとは少しずつ新たにできた角を鉋で丸め、仕上げに紙やすりで全体を磨く。
ここまでしてようやく一本目が完成した。
《歪な棒》
・角材から製作した棒。表面がでこぼこしているが、仕上げが丁寧であり手触りは良い。
「システムから歪判定……!」
少しはショックではあるがそりゃあそうよなと…。ここまでで大体30分以上といったところか、材料はあと二本あるし残り時間もまだまだある。予備として作っておこう。
そこから1時間かけて二本作ったものの、同じように歪判定であった。
釈然としないが次に移ろう……販売所では素材そのものも売っていたりするので、革素材をいくつか購入しておいた。適当な大きさのポーチが欲しかったのだ。
裏地から線を……?
「あれ?筆記具が……入ってないだと?」
くっ……!
だがまだだ!俺は諦めないぜ!
裁縫道具からまち針を取り出し、軽く革の裏生地に傷をつける。引っ掻いたような白い線がうっすらと描けるのでこれを頼りに、裁ち鋏で裁断する!
今回作成したいのは、リョウマ達が使っていた投擲類の入れ物である。ある程度の大きさと軽さを目指したいところだ。
「…………よし!」
裁断完了!少し端を大きめに取り、それを2枚用意する。先ほどの印をつけた革ともう一枚の革を重ねて裁断する。同じ大きさのものが用意できたら表同士で重ね合わせて、付属の接着剤でくっ付ける。それに縫い穴を開けたいので下敷きの布を用意し、これまた付属の金具で間違えないように慎重に穴を開けて……糸を縫い付け裏っ返して、これで半分。
「あ、濡らしてねぇー……」
今からやってもいけるんだっけか?久々で色々忘れている気がする。
一時期レザークラフトをしていたことがあったのだが……ダメだ、遠い記憶すぎる。
「とりあえず湿らせて丸くさせて……」
腕力で立体になるように曲げて……、軽く乾かしたら余りの革を使ってフタを取り付ける……。
「うん……まぁ、ね」
《歪なポーチ》
・適切な手順で作成されておらず、またチグハグな構造をしているためひどい見た目となった。
・入れ物の役割を持つ。アイテムを複数入れておくことができ、また取り出すことができる。
……よし、腰に掛けるためのベルトも作るかぁ!
結果、どうなったかは……言うまでもないことであろう。
「ご利用ありがとうございました」
受付の仕事をしていたロイナさんにカギを返却し、依頼を受けておこうかと整理されて貼られているものをチェックする。もう夜中の11時になりそうだというのに、人の姿が多かった。だがその姿は弛緩しきっており、みなそれぞれに会話に花が咲いているらしい。こんな夜中にまで付き合ってくれる関係性っていうのは割と貴重である。
そのようなことを考えるつつテーブル席を抜け、掲示板へとたどり着く。
生産ギルドで扱う依頼は主に納品であり、その種類は様々であった。ただの素材や収穫物、消耗品の製作物も。木材やら鉱石やら野菜や果物、はたまた調合薬や一部の食事まで。
そんなものまで?って言う依頼書も見かけるので、見ていて飽きないなぁ。ここに依頼としてあるということは、作れたり手に入れたり出来るって言うことと同じ意味を持つ。
とりあえずは採取系の依頼を受けようかな。手頃なものを一つ見繕い、受付で受注。
【依頼内容】 :どの種類の木材でもいいので数を用意して欲しい。冬に向けての準備のため。
・納品 (目安)木材×5束 ※5束以上持ってきてくれた者には追加報酬あり。
確か廃れた教会の周りには雑木林が生い茂っていたはずなので、スッキリさせるためにも斧は必要であったし、個人的な趣味のついでに依頼もこなせるので一石二鳥だな!ロープもある程度買っておかないとだなぁ……今夜で素寒貧になるじゃん。まぁそういうこともあるよね。
働いてすぐの頃に調子に乗ってあれこれ買って、食費をだいぶ削ってひもじい思いをしたものだ……。考えなしとも言う。
と、そろそろいい時間だしログアウトするか。




