第1話 導入その1
「ついに買ってしまった……」
社会人として繁忙期を乗り切り、年度末へ向けて緩やかに仕事の量が調整されるためむしろ早く帰れてしまい、その寝るまでの余暇をどう過ごそうか悩んだ末に……使い道がなく、積りに積もった数年分のボーナスをはたいてついについに買ってしまったのだ。ベッド型没入VR機器と、ソフトのカートリッジを……!
「発売当初には気になってたんだよなぁ……アイランズ・パイレーツ、初のゲーム内加速機能付きVRMMO」
こちらでの1時間がゲーム内では2時間に該当する、という触れ込みで一時期ネット上のゲーマー達は興奮状態だった。それからはや一年……。中古屋の半額セールカゴに入れられていたこれを見つけ、手に取ってしまった。
興味はあったし、しばらくはまともにゲームができそうだなとも思い即座に購入。しかし、本体がなかった……。つい先ほど、賃貸の余った一部屋にて業者さんに組み立ててもらったところである。
「カートリッジを入れて、あーやっぱこれ付属の記念アイテムコードがあるだけでダウンロードしないといけないのね……?」
なお中古なのでそれらも望みは薄そうだ。ま、いらないけど。
アカウントとかの本人認証システムとネットIPを参照してデータを管理……。
「あ、これVRの方でも初期設定しないといけないじゃねーか……」
あと今時はもう説明書もパッケージから抜かれてるのか……。
「ま、今夜中にはできるからいいか」
久しぶりにワクワクしている自分がいた。
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アイランズ・パイレーツ。直訳すれば、諸島の海賊。プレイヤーは海のど真ん中にある諸島に降り立ち、水夫として活動を始める。もちろん海賊として一旗あげて暴れ回ってもいいし、冒険者としてまだ見ぬ大地へ突っ走ってもいいし、航海士として世界海図を作成してもいい。はたまた傭兵として雇われて戦争に駆り出すのもよし、生産職として引きこもるもよしだ。
個人的には戦闘はあんまりなのでのんびり生産と探索と収集でもしてようかなと思っている。VR機器に寝転び、初期設定およびアップデートの確認の最中、ゲームヘルプを眺めていた。
アップデートが終わったのかゲームが起動し、オープニングムービーを見て感動し、アバターの設定が終わった。
このゲームに職業はなく、個々人の活動を運営AIが精査し称号としてタグ付けされるらしい。レベル制ではなく
スキル制であり、これらも成長・進化していくらしい。それらのチュートリアルをささっと読み流し、こげ茶色のズボンに赤いバンダナ、腰にはカトラス。
ザ・雑魚戦闘員の出で立ちで始まりの諸島に降り立った。
「うーん……」
鼻につくのは潮の匂い。ねばっこい海風と共にうみねこの鳴き声がこだまする。ホワイトアウトから徐々に輪郭と色彩が表示され始め、照りつける太陽に目を細めれば……のどかな風景が広がっていた。
そう……人っこひとり見かけない、ただの無人島のような有様だった。