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97 陰達の戦い

 エマの案内で図書館の入口からかなり奥にある王城エリア付近まで移動したライム達。


「デカい扉だな」


 そこには、赤と金色で装飾された豪華かつ、巨人用かと見間違えるほど巨大で重そうな扉があった。


「エマさん、スズリさん。お待ちしておりました。そちらは勇者御一行様ですね?」


 扉の前には、二人の甲冑を身に纏った騎士が立っていた。


「はい。僕達は、かの有名な勇者パーティーで、僕の名前はゼーレです」


 ゼーレは、頭を振って髪をなびかせながらドヤ顔で決めポーズをした。


「おい、騎士の人も反応に困ってるぞ」


 ライムはゼーレの行動に引きながら、ゼーレの肩を叩いて苦笑いを浮かべている。


「まぁあ、ゼーレのナルシストぶりは今に始まったことじゃないけどね」


 レイラは、溜め息を吐きながら諦めの表情を浮かべている。


「エマさん、スズリさん、勇者パーティーの皆さん、オスカー王がお待ちしておりますので、お部屋までご案内致します」


 ライム達は、騎士の案内で王城エリアにあるとある一室へと入った。


 その部屋の真ん中には長机があり、一番窓側の席に白と水色に染められた豪華な服を着た貫禄のあるおじさんが座っていた。

 髪は黒ずんだ紫髪で、目力が強い下三白眼の水色の瞳をしている。


「エマ、スズリ、よくぞ戻った」


「「ありがとうございます。オスカー王様」」


「勇者御一行様。よくぞ、我がヒストア王国にお越しくださいました。このオスカー王が歓迎いたします」


 そして、その斜め横にはクロエが座っていた。


 良かった。少なくとも、今は元気そうだ。


「オスカー王様。ヒストア家に代々言い伝えられた命により、秘密の部屋に入る許可を貰いたく参りました」


 エマは、頭を深々と下げた。


「うむ、我がオスカー王の名において、エマ・ヒストア、スズリ・ヒストア、そして、勇者パーティーの皆さんの秘密の部屋への入室を許可する」


「ありがとうございます。オスカー王様」




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 こうして、オスカー王に秘密の部屋に入る許可をもらったライム達は、秘密の部屋に行く為に王城エリアの廊下を歩いていた。


「そこの獣人の方、少しよろしいですか?」


「え? 僕?」


 ライムが後ろを振り向くと、そこには赤髪ロングヘアの女の人が居た。


「……。うん、良いよ。エマさん、ゼーレ、ちょっと先に行っててくれ」


「え、でも……」


「エマさん、良いんですよ。ライムはいつも勝手にどっかに消えるので」


「誰かに呼ばれて何処かに行くならまだマシね」


「ハハッ、悪いな」


 ライムはそう言い、赤髪の女の人について行って、図書館内の人気の無い場所に移動した。


「それじゃあ話してくれ、ホノカ」


 そう、ライムを呼び止めたのはホノカだったのだ。


「はい」


 そうして、ホノカは1週間前の混沌の大森林で起きた出来事を話し始めた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 時は遡り、1週間前。

 混沌の大森林にあるサンダーパラダイスの本拠点近くの開けた原っぱ。


 そこでは、ルークとセイカ、エスメとガルノの前に、黒基調に黄色の雷模様が入ったスーツを着た5人の獣人と1人の人間が立っていた。

 ルーク達は、黒いマントに付いているフードを目元と髪を隠すほど、深々と被っている。


「ホノカ。ルナは軍の基地で寝てるのよね?」


 闇夜を照らすように月の光を反射する雷鳴スーツを着たアンナが鬼の形相で黄色い雷を自身の周りに纏わせている。


「はい。相手が魔族だった時に、操られて暴走する可能性がある為、待機させました」


「この魔力量に威圧感、何か一人人間が混じっているけど、魔将軍で間違いないのです!」


 ラビッシュが低い姿勢のまま魔将軍達を睨んでいた。


「初めてじゃないか? お前達魔族が神に頼らずにエルーリ山脈を越えるなんて。エルフ達はどうした?」


 ノアが白い剣を鞘からゆっくりと抜きながら話す。


「ふっ、私達はもう神には頼りません。同胞達も構うだけ無駄なのでどうもしてませんよ」


 ルークは鼻で笑い返した。


「なぁ、何か敵皆んな魔力バカ多いんだけど、俺戦いについていけるか心配だぞ……」


 ツカサは、周りの仲間にキョロキョロと視線を配りながら怯えていた。


「何言っているんですか。貴方はタイマン無敗の『魔力の無い最強ゼロ』、何でしょ? 頑張ってください」


 ミズキが落ち着いた様子で淡々と竜人の背中を押した。


「いやいや、コロシアムとか、ナハト教団の下っ端共とは、強さの次元が違いすぎるだろ」


「おい、魔将軍共! 人数不利だからって、魔王に泣きつくなよ?」


 ホノカは、指をポキポキと鳴らしながら煽るように言った。


「ハァ〜。ホノカ……、立派になったな」


 セイカはホノカを見て、感泣していた。


「あ?」


 ホノカは、セイカの様子を見て引いていた。


「なぁ、サンダーパラダイス。話し合いは終わりで良いか?」


 ガルノがイラついた様子でニヤリと笑みを浮かべた。


「生憎ですが、私とガルノはここの2人とは違って、長い話し合いは好きじゃないんです」


 エスメは落ち着いた表情でアンナ達に冷たい視線を送る。


「そうさ、だから……」


「さっさと退きやがれ! 害獣共!」 


 ガルノはそう叫びながら、漆黒と黄色が光沢を放つスーツを着たアンナ達に突っ込んだ。

 エスメもガルノの動きに合わせて、自身の体内から無数に枝分かれした細く赤い糸状の物体を出し、アンナ達に向かわせた。


「ハァ〜、人数不利だというのになんて無謀な……」


「別にいいだろ。ガルノも魔王様の命令を最優先にするはずだ」


「まぁ私達の勝つ条件は、ここを突破することですしね」


 そう言って、ルークとセイカも戦いを仕掛けに行った。


「皆んな『統治者』を発動するから、そのつもりで体を動かしてね!」


 アンナがそう言い魔力を込めると、ノアとツカサ、ミズキとホノカ、そしてラビッシュは異常なまでに魂の中に蓄えられている魔素、そして体中を巡る魔力量が急上昇していた。


「ふっ、これが“最強“の力か。やはり次元が違いすぎるな」


 ノアは自身の拳を何度か握り、力を確かめていた。


「おぉー! この筋力なら勝てる気しかしないぜ!」


 ツカサは大声を上げて高揚しているようだ。


「何だ、急にこいつら全員の魔力がアホみたいに上がったぞ。でも……」


 ガルノは警戒しつつ、ミズキへと向かった。


「どっちみち最初っから人数不利なら、少しでも弱そうな奴を叩くべきだろ!」


 ガルノの右腕には、赤い小さな竜巻が渦巻き始めた。


「吹き荒れろ! 『紅蓮激情之暴風クリムゾン・テンペスト!!』」


 ガルノはそう咆哮しながら、竜巻を纏った右腕をミズキ目掛けて振り下ろした。


「確かに、この中では私が一番弱いでしょうね。でも、そんなことは私の魂之力ソウルの前ではなんの意味もない! 『水之盾(ウォーターシールド)』」


 ミズキは右腕を前に出し、自身の前に渦巻く藍色をした水の盾を生成した。


 そして、ガルノの赤い風を纏った拳とミズキの生成した藍色をした水の盾がぶつかる。


「なっ! 俺の風が止められた!」


 ガルノの風を受け止めている水の盾は激しく水しぶきを上げている。


「ふふっ、私に力でのゴリ押しは通用しませんよ」


 ミズキは楽しそうに余裕の笑みを浮かべていた。


 ミズキとガルノが力比べをしている間、ツカサは遠くから、両手の周りに浮かんでいる赤い血の塊から赤く細い物体を放出して遠距離攻撃を続けるエスメを観察していた。


 あの女の子が操ってる赤い物体、もしかして血か?

 昔、ユキネから聞いた話では、血を操れるのは吸血鬼達だけだって言ってたから、多分あの子は吸血鬼か。


 てか、後方からずっと血の枝みたいなのを飛ばされたら面倒だ。

 一気に詰めるか。


「ラビッシュ! 俺達であの女の子を止めるぞ!」


「了解なのです!」


 ラビッシュの足にはオレンジ色の暴風が吹き荒れ始めた。


「グシャグシャになれー! 『破滅之暴風(ルイン・テンペスト)!』」


 ラビッシュは脚の暴風と脚力を使い、一瞬でエスメに接近し、エスメのあばら目掛けて足を振るった。


「進化した兎の獣人と言えど、流石に早すぎじゃない? まさか、基礎体力や筋力まで上がってる?」


 想定以上のラビッシュの速さに、エスメは戸惑いを見せた。


「でも……、防御も考えない派手なだけの技ね」


 オレンジ色の暴風により、深碧色の髪が吹き乱れる。


 エスメの両手の周りに浮かんでいる無数の赤い血の塊から糸状の物体が数本、空に浮かんでいるラビッシュの体を狙う。


「ラビッシュ!」


 赤い糸状の血がラビッシュに当たる寸前。

 ツカサがラビッシュを突き飛ばし、赤い糸状の血がツカサの腕に突き刺さる。


「もう、後もうちょっとだったのに〜。なんて……」


 目元のクマが目立つ緑色の瞳がジメッとした視線でツカサを見る。


「ぐっ! 何だこれ? 力がうまく入らない」


 ツカサは、拳を握ろうと震える自身の右手を見ながら話した。


「アハハ、私の毒はそんじゃそこらとはレベルが違うんだよ。何せ、私の持つスキルは神授之権能ゴットソウル毒神(アダプン)』だからね。アハハハ」


 エスメは狂ったように甲高い声で笑っていた。


 そして、アンナとノアは、ルークと戦闘していた。


「貴方たちの中にも神授之権能ゴットソウル持ちが居るのね」


 アンナの黄色い雷と、ルークの闇のゲートが拮抗している。


「にも、と言うことは、あなた達の中にも居るのですね」


 ルークは、右腕を前に出し、闇のゲートで雷を吸い込みながらアンナを睨みつけた。


「そうだぜ! 行け、生を吸い込む不可避の斬撃よ。『死闇斬(しえんざん)』」


 アンナが体を反らし、後ろに居たノアがルーク目掛けて手を突き出すと、ルークの首元に突如として黒に揺らめく斬撃が出現した。


「ちっ!」


 黒に揺らめく斬撃は、一瞬にしてルークの首元を搔き切り、首元から大量の血を垂れ流させた。


「痛いじゃないですか」


「痛い、……か」


 ノアは突き出した手に残る魔力を振り払いながらルークを睨んだ。


「今のは、『斬撃帝』に神授之権能ゴットソウル闇神(シューゼ)』と神授之権能ゴットソウル死神(デハス)』の効果を付け加えた斬撃だからな。普通なら痛いじゃ済まないんだが……」


「にひっ」


 ルークが気味の悪い笑顔を浮かべたかと思えば、次の瞬間。

 ルークの首元にある切り傷はみるみる内に塞がっていったのだ。


「クハハハッ、癒しの極地にある能力ソウル究極之魂アルティメットソウル不屈魂(ふくつこん)』……。私の魂が生きている限り、この高貴な体にどの様な傷であろうとも残ることは許されない」


 ルークは気色の悪い笑みを浮かべて言った。


「ちっ、『次元防御』と『魔神(タルタロス)』があるとは言え、長期戦はダルいんだけどな」


「なら、一撃で終わらせましょう」


「アンナ、まだ耐えられないんじゃないのか?」


 ノアの背後には、漆黒の雷を自身の周りに纏わせているアンナの姿があった。


 アンナのスキルが発動して、破滅帝の力を使ってルークに傷を残す


「っ! 何かヤバいぞ! セイカ、早く魂之力ソウルを使え!」


 ルークがそう叫ぶ先には、ホノカと剣を交えているセイカの姿があった。


「ホノカ、よくぞ生きていてくれたな。今からでも遅くない、お前が“勇者“になるべきだ」


 ホノカとセイカの力は拮抗しており、ホノカの赤い炎を纏う赤い刀とセイカの水色の炎纏う水色の剣がぶつかる金属音が鳴っている。


「あんた、まさか……」


 互いの炎が飛び散る中、近くでセイカの顔を見たホノカは、何かを思い出した様に目を見開いた。


「ぐっ!」


 他のことに気を割いていたホノカを見て、セイカは剣に纏わせている炎を消し、交えている剣を透かしてホノカのお腹を蹴飛ばした。


「ごめんな、俺達悠長に戦ってる暇ないみたいだ」


 黒いフードで目元は隠れているが、ホノカには確かにセイカが楽しそうに笑っているのが分かった。


 そして、セイカは剣を鞘に納め、右手に水色の炎を纏わせた。


「効果は大体2時間ぐらいにしとくからな。行くぞお前等! 神授之権能ゴットソウル時神(へライト)』」


 セイカはそう言いながら、自身と他の魔将軍達の体に水色の炎を纏わせた。


 その瞬間。セイカとルークは大陸の南西に、ガルノとエスメは大陸の南側に異常な速さで走っていった。


「なっ! 待て!」


 それを見たホノカは、瞬時に足を前に出し、炎魔法による火力と共にセイカとルークを追いかけて消えた。


「ホノカ行っちまったけど、どうする? アンナ」


 ホノカの走っていった方を見て、ノアが話す。


「そうね。あの方角的に目的地はヒストアでしょう。そこには、ライトニングも向かっているとホノカも知っているから無茶はしないと思うわ」


「なら、私達が考えるべきは南に行った魔将軍ね」


 ミズキは、服の汚れを払っていた。


「彼奴等の行き先は、多分ラスファートだろうな」


 ツカサは痺れた手をほぐしながら話した。


「えぇそうね」


「あそこは、ルミナス商会の商売拠点でしょ? ユキネのことが心配だよ」


 ラビッシュが汚れた耳の毛を整えながら話した。


「ノア、ラビッシュ、貴方達は私と一緒にラスファートに行くわよ」


「了解」


「了解なのです!」


「ツカサとミズキは残り2人の魔将軍が来る可能性があるから残って頂戴。私の持つ権限も、一時貴方達に譲渡するわ」


「了解です」


「任せてください」


 こうして、虹雷剣と魔将軍4人による、陰の戦いは幕を下ろした。

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