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95 魔王の采配が導く者達

 ライム達が孤島の遺跡から出航し、暗い海を進んでいた頃。


 場所は変わり、魔大陸の最北端に位置する魔王城。

 その最上階にある『玉座の間』。


 そこには、ディストラとソフィア、そしてミアを除く、残り6人の魔将軍全員とその他2人の悪魔が集まっていた。


 6人の魔将軍は、玉座の間で壁にもたれたり、各々自由に過ごしていた。


 そして6人の視線の先には、玉座の間の最奥に置かれた禍々しい玉座があった。


 玉座は、まるで血の様な赤と深淵の様などす黒い黒で染められている。


「報告は以上です。アビス様」


 男が深く一礼した後、アビスの前から退いていく。

 眼と髪の色は同じく水色。

 髪をセンター分けにし、肌の露出が殆ど無い青い軍服を着た二十代前半ぐらいの若い普通の人間。


 周りに魔族しかいないからか、はたまた別の要因があるのか定かではないが、確実に玉座の間において異質なオーラを放っている。


「……そうか、勇者達はヒストアに向かっているのか……」


 アビスは、足を組み直しながら低い声で一言小さく呟いた。

 容姿は三十代ほどだが、髭は綺麗に剃られていてかなりイケメン。

 体型も服の上からでも筋肉が分かる程ガタイが良い。

 頭には二本の金青色の角を尖らせており、髪は白髪、眼も白く、月明かりにより照らされてより輝いている。

 服装は、漆黒に染められたファー付きのコートを羽織り、紺色のズボンを履いている。


 力の半分を奪われている為か、若干弱々しくはあるものの、その場の空気を凍りつかせる程度の威圧感は放っていた。

 アビスの一挙手一投足、そして一言までもがその場の空気を一変させる。


 しかし、そんな重たい空気を一蹴する様に、玉座の間にあるソファーで寝そべる悪魔の男があくびをした。


「ん? ナハト、起きたか」


 アビスが優しい口調で言う。


「なぁ、あのヒストアには色んな秘密が眠っているんだろ? 勇者達に見つかると面倒何じゃないか?」


 気だるげそうにゆっくりと話す彼の名はナハト。魔王アビスの息子だ。

 外見は10代後半ぐらいのイケメンで、頭には悪魔の黒い角が2本。

 髪は黒髪ミディアムロングに銀色のインナーカラーが入っており、銀色と黒が入り混じった様な瞳。

 体型は、服の上からでは分かりづらいほど、極限まで鍛えられた無駄の無い細マッチョ。


「あぁその通りだ……」


 アビスは、低い声で一言そう呟いた。


「うふふっ、ナハト様は周りの雰囲気に流されずいつでも明るくてカッコいいです♪」


 背の小さい女の子がナハトにキラキラとした視線を送りながら頬を赤く染めていた。

 その体は以上なまでに色白く、思わず守ってあげたくなる程、か弱そうな体付き。

 右目が隠れている長い前髪だが、綺麗に整えられた深碧色のセミロングヘアにエメラルドグリーンの瞳。

 服装は緑と黒を基調としたゴスロリ衣装で、白のハイソックスを履いている。

 目の下にはクマがあり、気だるそうなオーラを纏った女の子。


「ふっ、単に楽観的なだけだろ……」


 柱にもたれかかっているオーガが、緑髪の女の子を鼻で笑った。

 髪型はショート。髪と眼の色は同じく赤に所々オレンジ色が混ざっている。

 服装は半袖半ズボンの少年の様な服装をしている。

 白色の角が頭に1本生えていて、高身長かつ細マッチョ体型の好青年だ。


「まぁ言ってれば良いよ。でも、いい加減貴方の血、吸い尽くしちゃうから!」


「ハッ! 吸えるもんなら吸ってみろ!」


 赤髪のオーガの男の子と緑髪の吸血鬼の女の子は激しい睨み合いをしばらく続けていた。


「コラコラ、エスメ、ガルノ。アビス様とナハト様の前ですよ」


 睨み合いがしばらく続いていると、玉座の間で一人、礼儀正しく立ち続けているエルフが優しい声色で言った。


 立ち振舞いはまさしく高貴な者らしく輝き、塩顔イケメンでオレンジ色のロングヘアに黄色い瞳をしたエルフの男。

 白基調の半袖の服を着ていて、ズボンは白とオレンジ基調の長ズボンを履いている。

 筋肉はあまりついておらず、弱々しそうだが、魔王に引けを取らぬ量の魔力を放っている。


「うっせぇな。ルーク」


「ふん、今回は見逃しましょう」


 エスメとガルノは、お互いに顔を逸らしながら不満そうな顔を浮かべていた。


「ハァ〜」


 ルークは、ため息を付いてから話し始めた。


「今や魔王軍は、『雷鳴の猫王』を名乗るライトニングが率いるサンダーパラダイスに大きく戦力を下げられました」


「そして、そのライトニングはどうやら勇者パーティーの近くに現れることが多いとの情報を魔物から聞いております」


 ルークは淡々と話を進めた。


「つまり、これ以上好き勝手されたくなかったら、ヒストアで叩くのが一番って事ですね」


 自信に満ち溢れたしっとりお姉さんボイスが玉座の間で呟かれた。


 声がした方向にルークの先には、悪魔の女の人が立っていた。

 桔梗紫色に澄んだ瞳をし、艷やかな黒のロングヘアに所々青のメッシュが入っている。

 その頭には悪魔の角が2本、お尻付近には悪魔の尻尾も生えており、色はどちらも紫。

 服装は、胸元の開いた青と紫基調で着物を着ていて、隙間から真っ白な素肌が露わになっており、自信に満ち溢れたオーラを纏っている色気漂う大人な悪魔の女性。


「フレヤさんの言うとおりです」


 フレヤの隣に居る小さな女の子が元気よく話した。

 金髪ツインテールで、暗い赤色をした瞳が輝いている。

 頭には二本の赤い悪魔の角が伸び、お尻付近には黒い悪魔の尻尾。

 服装は、薄い生地の赤いTシャツに黒色のスカートを履いていて、黒いニーハイから褐色肌の太ももが露わになっている元気な悪魔の女の子。


「ハッ。そうと決まれば、ヒストアに今すぐ行こうぜ。勇者達が来る前に戦場の立地把握ぐらいはしとくべきだろ?」


 ガルノは己の拳をぶつけ合い、燃えたぎる熱い眼差しでアビスに向けた。


「そうだな。ライトニングの実力は疾うの昔に分かっている。地の利や情報戦、準備の時間確保でぐらい勝っておくべきだろう」


 アビスは目を閉じ、重い空気と共に言葉を発した。


「まぁオレ的には、ライトニングにここまで来て、魔王になったオレと一騎打ちして欲しいんだけどな」


「それは最終手段として残しておくと決めた筈だ」


 アビスは威圧的にナハトに警告した。


「そうでしたね。父さん」


 ナハトはあくびをしながら返事をした。


「ハァ〜、まぁよい。では、ヒストアに誰を向かわせようか……」


 アビスが悩んでいると、突如として膨大な魔力が玉座の間の中に現れた。


 アビスと魔将軍達は戦闘態勢に入り、武器を構えて魔力の発現源を睨んでいる。


 一方、ナハトはソファーから起き上がり、気分が高揚しているのか、嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「あの~、大事な話の途中にすみませ〜ん」


 魔力の発生源の空間に突然紫の穴が空き、少女の声が聞こえてきた。


 艷やかな黒髪ミディアムヘアと紺色の瞳が月明かりに照らされる。

 体格は幼い少女ながら、妙に神々しいオーラを纏っている。


 そう、フライムが単身で玉座の間に突然現れたのだ。


「何故、神である貴方がこの場にいるのです? 他の神の皆さんは別室にて話し合いをしているはずですが……」


 ルークは敵意を隠そうともせず、嫌悪感混じりの鋭い眼光でフライムを睨んだ。


「いや〜、余は別に魔王の側近になったわけじゃないし。それに、余はお兄ちゃん。時の神へライトの伝言を伝えに来たんだよ」


「時を司る神からの伝言は、いくら神を信用していない君たちでも聞き逃したくないんじゃない?」


「フライム、話すが良い」


「オッケー。えっと、お兄ちゃんからの伝言は、『策を決行するなら1週間後だ』だってさ」


「まぁ、お兄ちゃんも従うか従わないかは自分達で決めれば良いって言ってたから、気楽に考えたら良いよ」


「それじゃあ、余は伝言を伝えに来ただけだからここらへんで……」


 フライムはそう言うと、空間に穴を開け、そこを通って何処かへと消えていった。


「父さん。それでどうするんだ? 神の言う事を聞くのか?」


「ふん、本来なら今まで好き勝手動いてきた奴等の話しに耳を貸したくはない……。だが、時の神からの伝言となると聞くしかあるまい」


「ルーク、セイカ。1週間後に作戦を実行次第、直ぐに魔王城へ戻ってこい。結果がどうであれ、お主らの命を最優先にしろ」


「ちっ。私が人間風情と一緒にですか……」


 ルークはセイカに舌打ちをして冷ややかな目線を向けた。


「ふん、俺だっていつも見下してくるあんたと一緒なのは気に食わない」


「お互い気持ちは同じ、ですか……」


 セイカに見下した視線を送るルークは、不敵な笑みを浮かべた。


「良いでしょう。色々と準備する必要もあるでしょうし、今からヒストアへ向かいましょうか」


「そうだな」


 こうして、ルークとセイカは、玉座の間から出ていった。


「エスメ、ガルノ。お前達はラスファートに行き、黒キ盾と共に作戦を実行しろ、作戦は黒キ盾から聞くと良い」


「了解です」


「了解しました!」


 エスメとガルノもアビスの命令の元、玉座の間を後にした。


「フレヤとエミリアは、魔大陸にて魔族共の近況を視察しろ。もし、魔大陸まで勇者達が来るのであれば、戦力になってもらう必要がある」


「それに、エミリアには中々腕のたつファンが数十名いるらしいじゃないか。そいつらにも働いてもらいたいからな」


「了解いたしました。アビス様」


「了解です!」


 フレヤとエミリアも、仲良く玉座の間を後にした。


「じゃあ、オレは魔王に成る為にトレーニングしてくるわ」


 ナハトは勢いよくソファーから立ち上がり、アビスを後ろ目に玉座の間から出ていった。


「あぁ行って来い……」


 ナハトが玉座の間から出た後、アビスは溜息を吐いた。


「ハァー、我の血を百パーセント引き継いでいるからか、生意気過ぎて親としては大変だ。まぁ戦力としては頼もしいが……」


そう言った後、アビスは不敵な笑みを浮かべた。


「勇者ども、ここからが我らの真の実力だ。せいぜい楽しませてくれよ……」




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 時は進み、1週間後。


「おっ! 陸が見えてきたぞ!」


 ライムは、船から身を乗り出して興奮気味に言った。


「ほんとだ! エマさん! あれって大陸ですよね!」


 ゼーレは大陸を確認した後、エマさんの方を振り向いて話しかけた。


「あぁ、近くの港町から少し東に移動すれば、直ぐヒストアに着く筈だ」


「こら、2人共船から乗り出さないの! 落ちたらどうするの!」


「ふっ、勇者パーティーがはしゃいで船から落ちて行方不明とか笑えるな」


 スズリは、はしゃぐライム達を見ながら嘲笑を浮かべていた。


 こうして、ライム達はエマ達『紡ぐ者』の力を借りて大陸の反対側、ヒストア王国近辺の港へ到着したのだった。

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