92 水竜との海上戦
突如として水竜達に襲われた僕達は苦戦を強いられていた。
それも当然。こっちは船と言う足場が無ければ満足に戦えない上、相手は空を飛び、水中も自由に動き回れる。
そして、僕達はこの状況のまま相手の攻撃から船を守り、相手を倒さなければいけない。かなり面倒くさい。
「切り裂け、『風切断』」
スズリは、碧い風で水竜の翼を斬った。
「もう一回、『風切断!』」
それに続いて、翼を斬られて落ちる水竜の首も斬った。
「包み込め、『包容神之水球』」
エマはピンク色の巨大な玉に水竜を閉じ込めた。
「私の愛で包み殺してあげる」
エマが両手で子供を抱きしめるような動作をすると、水竜を閉じ込めているピンク色の水球が小さくなっていき、最終的に水球もろとも水竜は爆ぜて消えた。
火翼海賊団と戦ってる時もちょっと使ってたけど、碧い風とピンク色の水という事は、魂之特性以上か。
どんな効果なのか気になるな。
そんな事を考えながら、ライムはゼーレとレイラと共に船首へ移動した。
「他の水竜達は私達の方でなんとかする。すまないが、君達にはプリュトロムを頼むよ」
エマは、鋭い目つきで水竜を睨んでいる。
「まぁ元々プリュトロムを倒す事が乗せてもらう条件ですし。エマさん達の分まで倒しますよ」
「頼むぜ。勇者パーティー!」
ケントは、ライフルで水竜に抵抗しながら叫んだ。
「ほら、エマさん達にも託されてる訳だしそろそろ覚悟を決めなよ、ゼーレ」
「うん、分かってる。でも、やっぱり竜とか悪魔と戦うのは恐いな……」
「はぁ~、本当にゼーレって勇者なのか怪しくなる。まだライムの方が勇者っぽいよ」
レイラは頭を抱えて杖でライムを指した。
「ぐっ、レイラ。何で今抉るんだよ」
ゼーレは、胸を押さえて沈んだ顔を浮かべている。
「抉られたくないなら、勇気を出して戦えば?」
レイラは低い声のトーンで、ゼーレ冷たい視線を送った。
「ら、ライム。何かレイラがいつもより冷たいんだけど」
ゼーレは、泣きそうな顔でライムの方を振り向いた。
「いや、まぁシンプルに今のゼーレは情けないし、しょうが無くね?」
「ライムまで抉るのかよ……」
「まぁまぁ、そんな怯えるなよ。後ろからはレイラがサポートしてくれるし、横では僕がゼーレに合わせて一緒に戦うからさ」
ゼーレは、数秒の間黙り込んでいた。
「わ、わかった。ライムがそこまで言うなら頑張るよ」
ゼーレは両拳を強く握り、プリュトロムを睨んで言った。
「よし、じゃあレイラ。足場を出してくれ」
「了解……。『反射水之空支配』」
レイラが杖に魔力を込めると、上空に無数の水の足場が出現した。
「行くぞ、ゼーレ」
「うん!」
僕達は近くの足場に飛び乗った。
すると。
「クュュュュュ!!」
プリュトロムは咆哮をし、怒っていた。
水球に込められた魔力は高まり、水の光線が放たれる。
「来るぞ! 臆せず一気に近づくからな」
「分かってる」
ライム達は水の足場を踏みつけ、反射の効果を発動させてを繰り返した。
「ぐっ」
ライムとゼーレは、剣で光線を弾きながら、水の足場の反射を利用して近づいていたが、ゼーレは何度か体を掠っているようだった。
数秒後。
ライム達はプリュトロムの少し下の位置に到達した。
「ふぅー……」
ゼーレは深呼吸をしながら剣を鞘に収め、居合の構えをした。
っ! 居合か。たしかにこの距離なら正しい判断だ。
僕も『破滅帝』を使わない居合でゼーレに合わせるか。
二人は魔力を高めた。
「行くよ、ライム」
ゼーレは白い光に包まれた。
「いつでもどうぞ」
ライムには一筋の雷が落ち、黄色い獅子の雷獣が姿を現した。
暫く辺りに静寂が訪れた。
しかし、次の瞬間。
ゼーレとライムは水の足場を思いっきり蹴って、水の足場に反射されたことで猛スピードでプリュトロム目掛けて上空へと飛び上がった。
いきなりの事でプリュトロムは体が動かなかった。
プリュトロムの目には白い光と雷獣が襲ってくるように見えていた。
空には白と黒の二筋の光が眩く光る。
「悪を照らせ、『天の一太刀』」
「噛み砕け! 『獅雷一閃!!』」
空駆ける2つの光がプリュトロムを通過した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「えぇ~、今の躱されるの!?」
ゼーレが見据える先には、体を水に変化させた後、体の形状を変えてライム達の攻撃を躱したプリュトロムが居た。
くそっ! エマさんから聞いてたけど、体を水に変化させるの結構面倒だな。てか、神と一緒で実体が無いから物理攻撃効かないよな? それって下手したらヘルグランより強くないか?
ヘルグランは、鱗さえ貫通すればダメージ入るし。
何で大陸から離れた孤島を縄張りにしてるだけの水竜が、魔将軍の竜より強いんだよ。パワーバランスおかしいだろ! まぁヘルグランの場合、プリュトロムの体が水に変化したら蒸発させたら良いだけだけど。
ん? 蒸発させれば良い?
ライム達は水の足場を伝い、再びプリュトロムの正面へ移動した。
「クュュュゥゥウゥゥ!」
プリュトロムの高い叫び声が大気を揺らす。
「あれは……、津波!? マズイよライム!」
ライム達の視線の先には、プリュトロムの咆哮に応えるように、30m近い巨大な波がプリュトロムの後方から海賊船へと押し寄せていた。
体を水に変えるだけじゃなくて、水の操作、しかも海を操るレベルの能力も持ってたのか。バケモンだな。
だが、それで良い!
ライムは不敵な笑みを浮かべていた。
「レイラ! 君の魂之力であの波を押し返してくれ!」
ゼーレは、レイラにそう叫んだ。
「わかってる! ウォーターリフ……」
レイラが杖を頭上に掲げ、そこまで言うと、スズリが割って入ってきた。
「その必要はない……。道を作れ、魂之特性『覇道之軌跡』よ、『暴風之道!』」
スズリは碧い風を纏った右手を横に振るった。
放たれた碧い風は、物凄い轟音と共に大きな波を薙ぎ払った。
薙ぎ払われた波は横一線に割れ、大量の水が宙に浮いていた。
幻想的な光景。普通に生きていて、横一線に割れた波を見ることができただろうか? まさに自然と魔力の生み出す芸術。
僕は、その光景に水竜達との戦闘中と言うことを一瞬忘れて見惚れてしまった。
「凄いスズリ君!」
レイラは子供を褒めるかのように拍手をしながら褒めた。
「このぐらい当然です……。姉さん、後は任せるよ」
スズリが呟きながら船首の方に視線を送った。
「お姉さんに任せなさい。神授之権能『包容神』、『包容神之水球』」
エマは両手を前に突き出すと、ピンク色をした巨大な水の玉が出現した。
その後、ピンク色をした水の玉は、斬り裂かれた大量の水を徐々に包みこんでいった。
「その量の水が海に落ちれば、この船が転覆しかねない。全て消えてもらおう」
エマが両手を強く握りしめると、ピンク色をした水の玉と共に大量の水も消え去った。
「エマさん、凄いですね」
ライムは空から大声で言った。
「えっへん」
エマは、胸を手で叩いて自慢気に鼻を鳴らした。
ライムとゼーレは船沈没の危機が去ったことで気が緩んでいた。
「グギュュュゥゥ」
ライムとゼーレが海賊船の方を見ていると、至近距離にプリュトロムが近づいており、ブレスを溜めていた。
「マズイ! 油断してた! 避けるぞ、ゼーレ」
「ご、ごめんライム……」
僕がゼーレの方向を見ると、ゼーレは体が固まってしまっていた。
「あ〜もう、勇者ってピンチの時こそ無意識に体が動くもんだろ! レイラ、プリュトロムを水で囲ってくれ!!」
「分かってますよ! 『水之檻』」
レイラが杖を頭上に掲げると、プリュトロムを囲うように水の球体が出現した。
「クュュュュ!!」
プリュトロムのブレスはレイラの出した水球の内側に当たった。
「なっ! 反射が出来ない!」
プリュトロムのブレスは水の膜を徐々に押していき、辺りには大量の水しぶきが舞っていた。
マジか! レイラの反射魔法でも反射できないのか。こりゃあ本当にヘルグラン超えだな。
ライムは、ゼーレを抱えて船に戻っていた
乗組員達やエマとスズリ、そしてゼーレは皆、レイラとプリュトロムの攻防に目を奪われていた。
あれ? もしかしてレイラとプリュトロムの攻防に皆んなの目線が集まっている今なら、僕が『破滅帝』を使ってもバレないんじゃないか?
そう思った僕は早速、破滅帝を発動して、『空を浮遊する最強』の効果が付いた漆黒の雷を全身に纏った。
そして、船に乗っている人達とプリュトロムの目を盗み、レイラの出した水球をほんの一部破壊してプリュトロムの背中まで移動した。
「なぁプリュトロム、知ってるか?水分子に電波を照射したら水分子が揺れて温度が上がるんだぜ。そして今のお前は全身が水でできている。普通の生き物にやるよりうまくいくとは思わないか?」
ライムはそう呟いた。
「僕はテンヤみたいに科学知識がないから詳しくはわからないけど、レイラの反射する水と僕の雷を使えば多分電子レンジと同じようなことができてお前を蒸発させられる筈、だ……」
「まぁ無理でも破滅帝の破壊力のゴリ押しで水の状態を解かす事ぐらいはできるでしょ」
ライムは、プリュトロムをあざ笑う様な余裕の笑みを浮かべている。
プリュトロムの方はライムに気づかず、未だレイラとの押し合いを続けている。
「皆んなに見つからない為に、後ろからやるからカッコ悪いけど、しょうがないよな……」
両手を上げ、黒雷を纏わせた。
ライムは、漆黒の雷を纏っている両腕を全身が水に変化しているプリュトロムの体に突っ込む。
「クュウ?」
ライムが両腕に纏わせている雷がまだ微弱な電流だった為、プリュトロムは背中に違和感を感じただけだった。
「レイラさん、頑張って!」
下では、エマとスズリがレイラを後ろから支えていた。
「じゃあ、ちょ〜っとビリっとしますよ〜」
ライムは、両腕に魔力を一気に流し込んだ。
「彼の者を蒸発させよ。『蒸発起動之黒雷拳!』」
ライムの流した電波が、プリュトロムの体を中心に水球全体を照射した。
電波はレイラの水の膜に当たり、反射してプリュトロムの水分子を揺らしたり、回転させてたりして水の温度が上昇していく。
「グュュュュゥゥ!!」
プリュトロムは直ぐに水の状態が解除され、破滅帝で体の至るところが焼け焦げていた。
「破滅帝での手助けはここまでで十分かな? 最後までやってるとバレかねないし、さっさとゼーレの所に戻ろっと」
ライムは、風も起こさずゆっくりとゼーレの元へと戻っていった。
それと同時に、プリュトロムのブレスが弱まったことでレイラがブレスを反射し始めていた。
「ん? なんかブレスの威力が弱まった? まぁどんな理由であれ好都合。このまま押し返す!」
レイラは、杖に魔力を更に込めた。
すると、段々プリュトロムのブレスは反射されていき、遂にプリュトロムを直撃した。
「クュュュュゥゥゥ!!」
プリュトロムの耳を貫くほどの高い悲鳴が鳴り響く。
レイラの反射したブレスはプリュトロムの体を貫き、雲をも貫いて、辺りには雲一つ無い青空が広がった。




