73 記憶を蘇らせるトリガー
科学と技術の国クレイエスに入国した僕達は、クレイエスの情報を集める為、ひとまず散策することにした。
ビル群が立ち並んでいるものの、車などは走っていない為、地面は他の国と同じ砂の地面だった。
「うぉー! 近くで見ると更に凄え。何だこの建物の数は! それに中央付近にはもっとでかい建物があるぞ」
そう言うゼーレが指差す先には、他のビルとは比べ物にならない程に大きく、雲まで突き抜けているビルが立っていた。
「数もそうだけど、千年ぐらい生きてきたけど、今までこんな外観の建物は見たこと無い。それに、地面は土でもレンガでも無い何かで固めてあるみたい。どうしよう、本当に頭が追いつかない」
2人は、眼の前に広がる未知の景色に興奮と困惑が耐えない様子だった。
まぁ、そりゃあこの世界の人がこんな景色見たら驚くよな。
この世界の建築技術ってあまり進んでないし、魔法と魔力が便利すぎるから、進む必要もないもんな。
それにしても、この国を囲っている半透明のドーム。黒雷無双でやっと壊せるかもってぐらい、膨大な魔力量が常に巡らされてるな。一体これほどの魔力を誰が維持させてるんだ?
まぁ普通に考えて、複数人で維持させてるんだろうけど。それにしても、人間の魔力量じゃ厳しいよな。エルフか悪魔でも居るのか? だとしたら、キサラギテンヤが敵の可能性も出てくるな。
僕がそんな事を考えながら歩いていると、遠くの方で邪悪な魔力を放出している赤黒の髪でオールバックの男が、何やら独り言を喋りながらこちらに歩いてきていた。
「ハァー。ミアだけでも十分テンヤ達を監視できるって言ってんのに、あいつ等本当にミアのことを信用してねぇな。まぁ問題はなかったし、早く帰って寝るとするか」
っ! あの魔力量と異質なオーラ。邪神か! ゼーレ達と居る時に気づかれる訳にはいかないな。
僕は邪神らしき男に気づかれぬように、平静を装いながらゼーレ達と共に通り過ぎた。
「ん? おい待て小僧」
っ! 気づかれたか!!
僕は邪神との戦闘を想定して、一瞬で『黒雷無双』の準備をした。
クソッ! この姿で『黒雷無双』は使いたくなかったのに。
「神を撃ち抜け! 『ブラックゴット・ライトニ……』」
僕は小声でそう言いながら、男の方に振り向いて漆黒の矢を放とうとした。
しかし、男はこちらを向いては居なかった。
「小僧、足を怪我してるな。見せてみろ」
男は街を歩いていた男の子に話しかけただけだった。
男は男の子の怪我を直してあげた後、再び何処かへと歩いていった。
「ん? どうしたんだライム。汗がめっちゃ出てるぞ」
「いつもとだいぶ雰囲気が違うけど、どうしたの?」
2人は僕の様子を見て、心配して声をかけてくれたようだ。
「いっいや〜、ちょっと熱くてな。ほら、僕寒いのも暑いのも苦手だからさ。あはは〜」
僕は軽い感じではぐらかした。
「まぁこの国の位置的に赤道付近だし、建物がガラス張りみたいだから、反射光で結構暑いもんね」
「ライム。僕が荷物を持とうか?」
ゼーレはそう言って手を差し伸べてきた。
「ありがたい提案だけど、僕が持つよ。この中では僕が一番力持ちなんだから。僕が持つべきだし」
それに、さっきの邪神が襲ってこないとは限らない。
そうなった時にゼーレがこの重い荷物を持っていたら逃げ遅れる可能性があるからな。僕ならこの荷物を背負った状態でも戦えるし。
僕達はその後もお昼ご飯を食べたりして、暫くクレイエスを散策した。
散策している途中、カメラ付きドローンやニュース番組らしきものが流れている大きな液晶などがあり、ゼーレ達は終始興奮状態だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数時間後、辺りが夕日に照らされ赤く染まってきた頃。僕達はクレイエス中心部にある巨大なビルの真下に来ていた。
「わぁー、どうやって建てたんだろう」
僕達がビルの大きさに驚き感心していると。
「どうかなされましたか?」
黒髪センター分けで黒のスーツを着た黒い糸目の男の人が後ろから突然話しかけてきた。
っ! なんだコイツ。気配が一切感じ取れなかったぞ。
「ちょっと、いきなり話しかけたらびっくりするじゃん」
僕達が糸目の男のいきなりの登場に動揺していると、ビルの中から赤髪ツインテールに黄色い瞳の幼い容姿をして、赤色のスーツを着た女の子が出てきた。
「それもそうですね。勇者パーティーの方々、この度は誠に申し訳ございませんでした」
糸目の男は頭を下げ、不敵な笑みを浮かべながらそう話した。
「いや、全然大丈夫ですよ」
「なっ! ゼーレ」
「ハァー。こういうのはライムがすると思ってたのに」
「え? あっ! いや、別に僕達はここの人間ですよ?」
「クフフ、別に嘘を付く必要はありませんよ。貴方達が勇者パーティーなのはわかっていましたので。勿論、名前も知っていますよ」
糸目の男は、全てを見透かしたかのような様子で僕達を見ていた。
「そうか……。それで、お前たちは何者何だ?」
僕は相手のペースに巻き込まれぬように質問をした。
「あっ! 申し遅れました。わたくし達はこの国の支配者にして絶対的守護者であらせられるミア様にお仕えする者。『ロイヤルティーナイト』が一人、黒の騎士ブラントと」
「赤の騎士リタだよ。よろしくね」
リタを名乗る少女は、ニコっと笑いながらそう言った。
「さて、我々の自己紹介も済んだことですし、早速ビルの中に入っていただきましょう」
「僕達に何をする気なんだ?」
「何もしません。ただ貴方達と会いたいという人が居るので案内するだけです」
「そうか、2人共行こう。どうせ行くしか無いみたいだ」
「そうだな」
「そうね」
僕達はブラントに連れられ、ビルの中に入った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ビルの中に入ると、中央にはエレベーターが6個あり、白衣を着た人達が忙しそうに働いていた。
「ここはエントランスという所です。このビルでは主に、魔法と魔力を使った機械の発明をしております」
「へぇ~、どんなのを作ってるんだ?」
「そうですね。例えば、我々ロイヤルティナイトのスーツと手袋、そして靴は光の屈折率を魔力でコントロールすることができ、服の色を変えたり、透明になることができます」
「へぇ~。でも、頭の色は変えれなくない?」
「それも問題ありません」
ブラントは、そう言いながら手袋に魔力を込めた。
「この手袋に魔力を込めると、別空間に繋がっている小さな穴が出現します」
そう言うブラントの手には、中が宇宙のようになっている穴が出現していた。
穴を出現させたブラントは、早口で話し始めた。
「この穴は、テンヤが助手達と研究を重ねて発見した空間とこの世界の空間を魔力で繋げているらしく、この別空間はテンヤが異世界転移? をした際に存在に確証を持ったらしいです」
「そして、この空間は無制限に物をしまうことができ、ここにテンヤに貰ったヘルメットを入れていて、それで頭を隠すことができるのです」
話し終わったブラントは、穴から出したライダーヘルメットをもう一度入れて、穴を閉じた。
へぇ~、ちょっと理解できないけどそうなんだ。
というか、やってる事は空間操作みたいなことだし、フライムと同じようなことだよな? テンヤって奴、神と同じようなことをできるようにするとか、いい意味でどんだけ頭イカれてんだよ。
「そして、実は手袋とさっき出したヘルメット、それと今履いている靴には隠された機能がありまして……」
ブラントは、早口のまま永遠に話す勢いだった。
「ちょ、ちょっと落ち着こうよ、ブラント」
リタは、早口で話し続けるブラントの肩に手を置いてそう言った。
「ゔっゔん、発明品の説明は久しぶりだったので、興奮して少し話題がずれてしまいましたね。それでは、我々はこれからエレベーターに乗ってこのビルの最上階『天の世界』へ向かいます」
そう言うブラントに連れられ、リタと共に僕達3人はエレベーターへと乗り、ビルの最上階へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
最上階に着くと、柱や家具などが無く、真ん中には社長椅子と机、ソファーが2個あるだけだった。
うぉー、視界を遮るものがないから、メッチャ見晴らしいいじゃん。
「それでは先にお進みください」
ブラントに案内された僕達は、前へと進んだ。
「おぉー、君達が噂の勇者パーティーか」
進んだ先、社長椅子には黒髪に水色のメッシュがまばらに入っており、水色の瞳をしていて水色レンズのメガネを掛けた白衣を着ている男が座っていた。
そしてその隣には、紺色ボブヘアにピンクのインナーカラーが入っており、紺色の瞳をした高校生ぐらいの女の子が、黒のスーツに身を纏って真っ直ぐ立っていた。
こいつがキサラギテンヤか。ふっ、割とイケメンじゃないか。
そんな事を思いつつ、僕達はテンヤ達の前まで来た。
「ブラント、リタ、俺達だけで話したい。席を外してくれ」
「承知しました」
「はーい」
ブラント達は、そう言ってエレベーターで下に降りていった。
「さて、先ずは自己紹介をしよう。俺はキサラギテンヤ、天才科学者だ。そして、俺の隣りにいるのが……」
「私はシノノメアカネ。テンヤの一番助手兼ミアさん不在時にはこの国の大まかな決定権を持つ大臣をしております」
へぇ~、高校生ぐらいの年だろうに、ずいぶんとしっかりしてるな〜。それに、少し派手めな容姿をしているが、やはり日本からの転移者で間違いなさそうだな。
まだ味方と決まったわけじゃないが、今のうちに仲良くなっとけば、後々助けになってくれるかもしれない。
テンヤ達が自己紹介を終えると、ゼーレが前に出て話し始めた。
「自己紹介ありがとございます。ブラントさん達の様子からして、貴方達も私達の事は知っているということで良いでしょうか?」
「はい。その解釈で大丈夫です。これから少しの間よろしくお願いします」
テンヤはそう言うと、ゼーレ、レイラの順番で一言挨拶をしながら握手をした。
「ライムさんでしたよね? これから何日になるかはわかりませんが、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
こうして、僕とテンヤは握手を交わした。
その時、僕の目の前は真っ暗になり、そのまま床に倒れてしまった。
目の前が真っ暗になる寸前、テンヤも倒れそうになっていたが、ライムはもう真相を知ることが出来ない。




