57 漆黒達の出会い
イーサン・ブラウンとの戦いに勝利し、次の試合へと駒を進めた僕は、次の試合は休みの為、控室へと帰っていた。
「ふぅ〜、なんとか『黒雷無双』を誤魔化せれたな。それに、さっきトーナメント表を確認したら、このまま後一回勝てば、決勝で戦うのはツカサになるから不安が消えて良かったよ。ツカサの方には注目選手も居ないみたいだし、居てもツカサが負けるとは思えないからね」
そんな事を言いながら、控室の扉の前までやって来た僕は、ある違和感に気がついた。
「あれ? 影の中にディストラの気配がなくね? 何かあったときの為の保険として、ディストラには近くに居といて欲しいんだけどなぁ。それに、あいつがどっかに行くときってなんかまずいことをしようとしてるときなんだよな……」
僕は、嫌な予感を感じながらも控室の扉を開けた。
「お疲れ様でした。ライトニング様」
僕が扉を開けて前を見ると、視線の先にはディストラとシエルの2人が頭を下げてそう言ってきた。
「はぁ~、やっぱり勝手に来てるじゃん。見つかったらどうするんだよ?」
僕はため息を吐きながら、シエルにそう聞いた。
「申し訳ございません。ですが、魔力と気配は完全に消していますし、ここに来るのも、ディストラさんに協力してもらって、陰の中に入りながら移動したので見つかる心配は無いと思われます」
「まぁそうかもだけどさ、ディストラの発動した魔法の痕跡は残るんじゃない?」
現に、この部屋にはディストラの魔力の粒子みたいのが微かに残ってるし。
「それも心配ありません。本来、魔法の痕跡や魔力の感知などは、魔法を極めたごく一部の者かライトニング様同様に進化をした者にしかできませんので、人間が私達の存在に気づくことは無いはずです」
「まぁそうなんだけどさぁ」
やっぱり、細かい所まで妥協はしたくないじゃん。妥協をするのはなんか格好良くないし。
「それに、気が付かれても消せばいいのですから」
シエルは、そっぽを向いてほくそ笑み、そう言った。
「おいおい、そういうのは最後の切り札にしとけよ」
「はい、もちろんでございます」
シエルはそう言いながら、お腹に両手を添え、頭を下げた。
「それで? 何をしにここに来たんだ?」
僕は少し声のトーンを下げ、そう言った。
「それは、エンペラーズとこの大会の調査報告をしにやってまいりました」
「ほう、そうか。聞かせてくれ」
「了解しました」
「先ず、エンペラーズの調査報告ですが、この国にはエンペラーズの一人、紅の牙と呼ばれる者が一人いることが判明しました」
「紅の牙……」
「はいそうです。そして、その紅の牙の正体は、ライトニング様が最近行動を共にしているヒストア王国の王女。クロエ・ヒストアの弟、アカキ・ヒストア改め紅の牙がこの国の王をしていることがわかりました」
「そうか……」
つまり、僕らは絶対にクロエの弟を倒さなければいけないんだよな。ナハト教団の最高戦力のエンペラーズはどう考えても敵側だし。
「ライトニング様。どうされましたか?」
シエルは、僕が顔をうつ向かせて考え事をしていたので、心配して声をかけてきた。
「いや、何でも無い……それで、この大会の調査って何をしたんだ?」
「大会に関しましては、ライトニング様が次の試合で戦う、ダークネスについて、ツカサ様から調査とライトニング様への報告依頼されていたので調べたのですが、どうやら普通の人ではないのは確定のようです」
「普通の人じゃない?」
まぁ、勝てば一国の王になるチャンスがあるとはいえ、力が全ての武装国家ムーアで開催される殺しでもなんでもありの大陸随一の猛者しか集まらない大会に出る時点で普通の思考をしているとは言えないけどな。
「はい。この大会でのダークネスの戦いの様子を調査させた所、異常なほどの魔力量と強さが判明しました」
まぁ確かに、遠目でもわかるぐらい雰囲気が異質ではあったな。
「先ず戦闘スタイルについては、一瞬で決着が着く為、定かではありませんが、おそらく闇属性の魔法のみでの戦闘だと思われ、戦闘開始と同時に闇魔法を展開し、闇の中へと引きずりこみ、闇の世界の中で相手を殺す方法だそうです」
「ふむ」
いや、闇魔法でも普通は引力で相手を自分の所に引き込んだり、強力な引力を持った玉を作り出したりとかしかできないから、その方法は確実に魔力の覚醒をしてるよな? てか、ディストラと戦い方が被ってるじゃねぇか。まぁ、対策しやすくて助かるけど。
「ということは、確実に魔力の覚醒をしているな」
「はい、おそらくはディストラさんと同じ様な魂の特性なのかもしれません」
「まぁ、ディストラとは2回も戦ったことがあるし、大丈夫でしょ」
僕らは、その後も何分か話を続けていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数分後、会場の方から歓声が聞こえて少しして、ドアを叩く音がした。
「アシュラ様。試合のご準備をお願いします」
どうやら、大会の人が呼びに来たみたいだ。
「おっ! やっと出番か。ほら、2人は僕の影に入っていてよ」
「はい」
ディストラはそう言うと、僕の影に隠れた。
「ディストラさん。失礼します」
シエルもディストラと一緒に僕の影へと入っていった。
「アシュラ様。ご準備は宜しいでしょうか?」
「はい、今行きます」
僕はそう言って、控室を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、次の対戦は……この二人です!」
コロシアムには、明るく大きな、実況のお姉さんの声が響き渡っている。
「今大会のダークホースと言えばこの人でしょう! 先の試合では、あのイーサン・ブラウン選手に圧倒的な差を見せつけ、一撃KO勝ちをした、アシュラ選手!!」
アシュラは、実況のお姉さんの声に合わせてコロシアムの廊下から、姿を表した。
「うぉ~! アシュラ今回も勝ってくれよ。俺ぁお前に大金賭けてんだからよ」
アシュラが廊下から出ると、後ろの観客席から身を乗り出して、大きな声で話しかけてきている貴族っぽいおっさんの姿があった。
「へいへい、分かったよ」
流石は、半無法国家だな。賭け事も普通にやってるんだな。
アシュラは苦笑いをしながら、軽く返事をしてその場を後にした。
「そして! こちらもすべての試合で試合開始と共に勝利を勝ち取ってきた今大会のダークホースの一人。ダークネス選手!!」
実況のお姉さんがそう言うと、アシュラの目線の先にある廊下から男が一歩一歩ゆっくりと歩いてきた。
その男は、漆黒に染まったローブを羽織り、フードを深々と被った漆黒の短髪で赤い瞳に黒の瞳孔をした細身の男が、黒く禍々しい邪悪な死のオーラを体に纏いながらゆっくりと登場した。
「ふっ、その姿最高に唆るぜ」
アシュラは相手の中二心くすぐる姿に思わず笑みがこぼれた。
「アシュラ、俺はある作戦実行するまでの暇つぶしに来てたんだ。だが、お前の影からは何故か魔力が微妙に感知できるんだ。その理由を聞くまでは、この戦いは終わられねぇぞ」
「っ!」
アシュラはその言葉を聞いて心の中で動揺してしまった。
おいおい、全然バレてるじゃねぇか。つまり、こいつは魔法を極めてるか、本当に人間じゃなくて、進化をしたら魔法の扱いがうまくなる系の種族なのかのどっちかだな。
わっかんねぇ〜。どうしよう、まぁ取り敢えず知らないフリをするしか無いか。
「ハッ、何を言ってんのか分からねぇな」
アシュラはニヤリと笑いながらそう言った。
「そうか、まぁ良い。直に分かることだ」
ダークネスは、ジッとこちらを見つめながらそう言った。
「すいません。お二人共試合の準備は出来ましたでしょうか?」
アシュラ達が二人で話していると、実況のお姉さんがそう聞いてきた。
「あっ、すみません。俺は出来てます」
「俺も出来てる……」
アシュラ達は、各々準備をしながらそう答えた。
「それでは! これよりアシュラ選手対ダークネス選手の試合を開始します!」
実況のお姉さんがそう言うと、審判の人が赤い魔法を上空に放ち、爆発音と共に試合が始まった。




