28 神の一撃
ライム達はラヴィーネを倒し、ダンジョンの入口で寝ている。
深夜になり、草木が揺れる音だけがする静かな頃、ライムはディストラに起こされた。
「起きて下さい。ライトニング様」
「どうした、さみしくなったのか?」
ライムは冗談交じりにそう言った。
「冗談を言ってる場合じゃないんですよ」
「そうなのか。それでどうしたんだ」
「ホノカ達によると、遠くからこちらに向かってきている者たちが数十人いるとのことです」
「へぇーでも、通りすがりの冒険者とかじゃないの?」
「いえ、それが話を盗み聞くとどうやら前にホノカ達とライトニング様が倒した、山賊の仲間みたいです」
「まじか。ならここに来る前に倒すしか無いな」
ライムはそう言い、ライトニングの姿に変身する。
「うっゔん。よし行くぞ。ホノカ達も連れて来い」
ライトニングはそう言い、月明かりの元へと歩を進める。
「はいっ」
ディストラは、影の中は入ってどこかへと行き去った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数分後。
ライトニングはホノカ達と合流し、山賊達のもとに向かいながら作戦を伝えた。
「ホノカ、今回は一人だけでも残すぞ」
「どうしてですか?」
「仲間が来たということは今回全員倒してもまた来る可能性が高い。それならいっそ拠点ごと消すほうが早いからな」
「なるほど、流石はライトニング様だな」
それから数秒後。
ライトニングたちは山賊達のもとに到着した。
ライトニング達は歩いている山賊達の前に雷鳴と共に突然現れた。
「なっ何だ!」
「我は雷鳴の猫王、ライトニング……。雷鳴の覇者と成る者」
「生きたければ逃げろ……。もし、此処から先に進むと言うのなら、お前らはここで死ぬ」
だが、山賊達は怖気付く事なく、真っ直ぐにライトニング達へと突撃してきた。
なぜなら、目の前に居る漆黒を纏った者たちが自分たちより強いとは思えなかったからだ。
それもそのはず、ライトニング達は魔素を極限まで圧縮して山賊達からは魔素が全く感じられなかった。
それにそもそも、フードを深く被っているとはいえ、女が多いのは確認でき、数では圧倒的にこちらが有利。
それなのに何を怖気づく必要がある。
「何言ってやがる!」
「はぁ」
漆黒を纏った男はため息を付いた。
そして、誰かの名前を口にする。
「……ディストラ、やれ」
「はいっ」
次の瞬間。男の影から悪魔が出てきて、突撃して来ていた男の一人を影魔法で串刺しにした。
「グワァー!」
男はしばらくの間もがき苦しんだ後、絶命した。
「貴様らもこうなりたいか?」
その声は、恐怖を感じている山賊たちにさらなる恐怖を植え付ける程の低く、闇を感じるような声だった。
山賊達はその言葉を聞くや否や、武器を投げ捨て走り逃げる。
「くそが! 俺達の後ろにはナハト教団が居るんだからなぁ。覚悟しとけよ!」
「ナハト教団?」
ライトニングが不思議そうに呟くと、ホノカは何かを思い出したかのように目を見開いて報告をしてきた。
「ナハト教団とは魔王アビスとその息子、ナハトを信仰する教団で、魔王軍に情報提供などの援助をしている教団です……。報告が遅れて申し訳ございませんでした」
ホノカ達は頭を下げた。
おいおい新情報が多いな。
びっくりしたよ。
てか、この様子だと報告する予定だったのを忘れてたんだな。
「全然良いよ。それよりそんな組織があったのか。でも何でその教団は魔王軍に手を貸してるんだ?」
「私がラスファートで、情報屋から聞いた話によると、何でも組織に入っている者たちは種族問わず、皆故郷に捨てられた者たちだそうです」
なる程、自分達を除け者扱いした奴らに復讐するために、魔王軍に力を貸しているのか。
ていうか、ナハト教団には色々な種族が所属しているのか、戦う相手としては厄介だな。
それからは、山賊達の後をつけながら説明を聞いた。
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ある程度説明を受けたライトニングは、ホノカ達と共に逃げた山賊たちをつけて森の中にある古い教会に着いた。
「おぉーめちゃくちゃシンプルなアジトだな。まぁこういう雰囲気も唆るからありがたいけどね」
そんなライトニングを見て、ホノカは不思議そうにしながら質問してきた。
「そそるってどういう意味なんだ?」
「知らなくてもいいよ」
「そうなのか」
「そうだホノカ。一応ここにゼーレ達を連れてきてくれないか?」
「何故ですか?」
「もしかしたらゼーレの練習相手に良さそうなのがいるかも知れないからさ」
そういうライトニングは、不敵な笑みを浮かべている。
「承知した」
ホノカはそう言ってゼーレ達の元に戻った。
「じゃあ、早速殴り込むとするか」
ライトニングはそう言い、重い教会の扉を押し開ける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ある男が古い教会の扉を勢いよく開けた。
山賊達は皆、扉の方を見た。
扉の方には漆黒を纏った獣人が数名居た。
「あぁん? てめぇ等何しに来た。迷ったんならさっさとどっかに行け、じゃねぇと殺さなくちゃいけなくなるからなぁ」
山賊は、懐に忍ばせていたナイフを取り出した。
すると、周りに居た山賊達も次々と武器を持ち始めた。
だが男達は一歩も動かずに、しばらく山賊達を見ていた。
暫くして、真ん中に居る男が口を開けた。
「何だ? 来ないのか?」
その聲は全てを見透かし、そして全てを飲み込む深淵の様な聲。
男の聲を聞いた山賊達は冷や汗をかきながらも、一斉に斬り掛かった。
「おぉー!」
「誰かは知らんが、お前達は知ってはいけないところまで首を突っ込み過ぎた。ここで死んでもらうぞ!」
「フッ」
男が不敵な笑みを浮かべると、周りに居た獣人達が一斉に飛び出し、山賊達を斬りつけた。
それを見ていた男が、悪魔の様に笑い出す。
「フハハハハ。死ぬのはお前達だ!」
男は向かってきていた山賊の一人を斬りつけた。
「グハァ」
男達はその後も教会の地下まで入り、山賊達を追い詰め続けた。
「後は頼んだ」
男は残りの山賊達の前を素通りし、一人でアジトの最深部まで行った。
「任されたぜ。ライトニング」
ホノカは、闘志に燃えたがった熱い瞳で山賊達を睨んでいる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
男がアジトの最深部に到達する頃には、男の仲間が山賊のほとんどを倒していた。
そして、男がアジトの最深部に到達すると、そこには騎士の男が居た。
「ようこそ、君達強いねぇ。私はこの近くの街で騎士をしているバートです」
バートは男に深くお辞儀をした。
その顔は笑っており、男を見下している様だった。
「まさか山賊達を全員倒すなんて。で、提案なんだけど君達さらなる力を求めていないかい? 私達と組めば魔王様の血を頂けますよ」
バートがそう言うと、漆黒を纏っている男が質問した。
「魔王の血を貰うとどうなるんだ?」
バートは、男を刺激しないように話す。
「魔王様の血を頂き体内に入れることで、私のように髪や体内の魔素に変化が起き、さらなる力を手に入れることができ、最強に成れますよ」
その言葉に男は驚いた。
なぜなら、自身が体験した進化の過程と酷似していたからだ。
男は少し考え、バートに返答する。
「フッ、つまらんな」
その答えを聞いたバートは剣を握り、居合の構えをした。
「そうですか、残念です」
次の瞬間、物凄い衝撃音と共にバートは姿を消す。
バートは神速の速さの居合い切りをした。
「これを防ぐか!」
しかし、男はそれを軽く受け流した。
男は動こうとしない。
そして、バートは男が放つ異様なオーラにより動けなくなっている。
少しして、バートは体を動かして男に斬り掛かった。
激しい攻防が続く。
しかし、男は最低限の動きだけをしていて、まるで弟子に稽古をつけている様だった。
そんな戦いをしていると、どこからか聞き覚えのある声がした。
「ライムー、どこに居るんだ〜」
「ここに居るなら返事しろよー」
声の主はゼーレとハルカだ。
良かったぁ。ホノカ、ちゃんと連れてきてくれたんだな。
男は少し顔色が変わった。
少しして、ゼーレ達がバートと男が戦っている場所に着く。
「なっ! お前はライトニングじゃないか!」
「本当だ! で、あんたは誰?」
男達は戦いを中断した。
「私はバートだ」
「へぇー、それで何で戦ってるの?」
「それは……」
バートが話し始めると、男が口を挟む。
「お前達が知る必要はない!」
「そうなのか……」
ゼーレがそう言うと、男達は戦いを始めた。
ゼーレ達は驚いた。
男達の戦いは自分達の常識を超越していたのだ。
「こんな強い人が居るのか……」
ゼーレ達は、思わず生唾を飲み込み、息をするのも忘れてしまう程に男達の戦いに見入っている。
ゼーレ達はしばらく男達の戦いを見ていると、あることに気づいた。
「なぁハルカ、あのライトニングとか言う奴全然本気を出してない」
「そうね、バートとか言う騎士は本気でやってるみたいだけどライトニングの方は、無駄が一切ない動きをしているのに、何処か手を抜いてる感じがするわね」
男達はしばらく剣を交えていた。
そして、バートの顔が男に近づいた時、男が口を開いた。
「フッ、この程度で最強に成ったつもりなのか?」
挑発されたバートの攻撃はさらに激しくなる。
バートの剣筋は、常人では全く見えないスピードに達していた。
だが、それでも男には通用しなかった。
男は呆れていた。
「そんなゴリ押しをして、本当に自分が最強だと思っているのか?」
「黙れー!!」
バートは声を荒げながら、剣を思いっきり突き出した。
「フンッ!」
男はバートを吹き飛ばし、剣を捨て、右腕を上げて魔力を込め始める。
辺りは、男の右手から漂う漆黒の雷が暴れていた。
そう、男はその膨大な魔力を制御しきれていないのだ。
「隙だらけだぁ!」
バートは男に一瞬で近づき、突きの構えを取り力を込め突きを放った。
「なっ!?」
だが、バートの剣は男を貫くこと無く、折れたのだ。
「その程度の突き、我には効かぬ」
そして男の圧縮していた魔力が限界を迎えた。
「全てを破壊する神の如き最強の一撃を持って、お前の全てをこの世から消し去ってやる」
男がそう言うと、教会と空気、周りを漂う魔素が揺れている……。
否、世界を構築する全てが揺れ始める。
バート達はその圧倒的な圧により動けなくなった。
すると、建物の影からホノカ達が現れ、ゼーレとハルカを教会の外に連れ出して行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕は最強に成りたかった。
どんな理不尽にも屈しない最強に。
だが、死ぬほど鍛えても最強には程遠かった。
一発の銃弾で僕の今までの努力の全てが否定されたのだ。
悔しかった。
どんなものでも一撃で消し飛ばす核に到底及ばないただのピストルに負けたのだ。
僕はひたすらに考えた。
人の手では届かないほどの最強になるために、二度と武器に負けないように。
その末に編み出したのが、何でも切断する無限の斬撃を出す、『魂斬之無限黒雷斬撃』だった。そう、僕はあの時点で既に前世の世界ではあり得ない最強の技を手に入れていたのだ。
だが、僕はあの技では満足できなかった。
何故なら、あの技は一撃で相手を倒すことができないからだ。確かに、一度あの技に当たれば無限の斬撃に囚われ続け、いつかは必ず魂もろとも滅びるだろう。まさに、最強の技にふさわしいとも思う。
でも、核は一撃で全てを壊すのだ。つまり、同じ一撃必殺の土俵で戦わずに勝ったなどと言えるわけがないのだ。
そして、考えに考えた末にたどり着いたのが神の力だった。
核以上の破壊力のはずである神の力を手に入れれば、僕を殺したピストルなど越えてさらに人間の持つ最大の武器を超えたことになる。そして、一撃必殺の土俵にも立てるかもしれない。
そう、核に挑みようがないなら自分が核以上の強さになればその時点で僕の一人勝ちとなる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「僕は最強を更新していく。かつての世界の最強など比べ物にならないぐらいの最強に!!」
男は少し時間を置いて、黒雷纏う右手を振り下ろした。
『万雷之黒衝撃!』
男は、重々しく低いデスボイスでゆっくりと言い放つ。
すると、無数の黒雷が一つの巨大な黒雷と化し、教会に落ちた。
その黒雷は物凄い衝撃音と共に、月光で少し明るい紺色の夜空を漆黒で染め上げた。
少しして。
ライトニングの放った黒雷が消えると、森には底の見えない巨大な穴が空いていた。
ライトニングはすでにその場には居なかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゼーレ達を運んだホノカ達は、ゼーレ達を安全なところに運ぶと、一瞬で姿を消した。
「なっ! 待ってくれ」
「行っちゃったわね」
「くそっ! サンダーパラダイス、一体何なんだ!」
ライムは着替えて、そっとゼーレ達の元に戻った。
「あっライム。貴方また大変なときにどっかに行ってたでしょ」
「いやーごめんごめん。すごい魔法だったね」
「えぇこの世のものとは思えなかった」
「まさに神の一撃だったわ」
よし、評価はいい感じだな。
ライムは心の中で拳を握った。
「まぁとりあえず夜も遅いしダンジョンの入口に戻るか」
「そうだな」
ライム達はダンジョンの入口に戻り、再び寝た。




