18 束の間の休息
ソフィアの居るダンジョンからエレベーターを使って地上に上がると、ちょうど外は太陽が登ってきていた。
「いやー、ダンジョンにずっと居たから体内時計が狂ってるかと思ったけどちゃんと朝に起きれてたんだね」
僕がそう言うと、ディストラが影から出てきて説教をしてきた。
「それは私が寝る時には布団につれていき、起きるときは、私が叩き起こしてたからでしょ。それをあたかも自分がきちんとしてたみたいに言って、ちゃんと感謝してくださいよ」
「ごめんって、ちゃんと感謝してるよ」
実際、ソフィアも体内時計が狂ってたみたいだから、ディストラが居なかったら僕も危なかったのはほぼ確実だろうな。
僕って結構だらしない所あるし。
「それでさぁディストラ。この森を抜けた先にはいっぱい街や村があって、そこを通ることになるけど絶対に出てこないでね」
「もちろんわかってます」
「それじゃあまずは、この森を抜けますか」
僕は勇者が居る最南端の村に行くため森を抜けた。
森を抜けると地平線に街が見えた。
「おっ! 街じゃん。太陽の光を浴びるの久々で頭が痛いから様子見がてらあの街で今日は休むか」
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数分後。僕が街に来ると、街の人達に話しかけられた。
「獣人とは珍しい来客ですな」
「貴方まだ若いのにあの混沌の大森林から一人でここまで来たの?」
そっか、獣人は普通混沌の大森林から出ないから、人間にとってはほぼ幻の存在なのか。
自分が獣人だからってすっかり忘れてた。
「そうなんです。僕の故郷は魔王軍の侵攻を受けて壊滅させられたので、魔王に復讐をするために勇者様の所に行くところなんです」
「まぁそんな事があったのね」
「辛かったわねぇ」
街の皆さんと話していると、一人のおじさんが話しかけてきた。
茶髪に茶色い瞳、そして茶色い顎髭を蓄えたふくよかな風貌の優しそうなおじさん。
「私はこの町の町長をしている者だ。その話詳しく聞かせてくれないか?」
町長の提案で僕は、街の広場で僕の身に起こった出来事を町の皆に話した。
もちろん、ディストラやソフィアのことは話していない。
僕が話し終わると、町長さんが前に立ち皆に話しかけた。
「私は、この幼い獣人の勇気に心を打たれました。ので、この者を安全に勇者のもとに辿り着かせるために、今日はこの町に泊まってもらい、町の皆でおもてなしをしたいと思うが、この意見に反対の者は居るか?」
町長がそう言うと、誰も手を挙げなかった。
「よし、それじゃあ君。今日はこの街で休んでいきなさい」
「町長さんありがとうございます」
「私は町長さんではなく、フレディ・アンダーウッドですよ」
フレディさんは、優しい笑顔を浮かべていた。
「フレディさん、ありがとうございます」
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フレディさんの計らいで泊まらせてもらうことになった僕は、町のホテルにやって来た。
「この部屋でいいかい?」
小さなホテルに着くと、ホテルを経営している水色髪のスレンダーな女性が、とある一室へと案内してくれた。
「お部屋を用意していただきありがとうございます」
「良いのよ。これからも頑張りなさいよ」
「はい、ありがとうございます」
僕はそう言って扉を締めた。
「いやー、まさかこんなところで休めるとは思ってなかったよ」
「そうですね。しかもこの部屋風呂があるみたいじゃないですか」
「そうなんだよ。勇者パーティーに入ってからかなぁって諦めてたから本当にフレディさんには感謝しないとな」
僕は、伸びをしてからベッドに寝転んだ。
「それで、僕は街の子どもたちと遊んでくるけどディストラはどうする?」
「見つかったらまずいし、ライトニング様の影に居ることにします」
「そっか、じゃあ入って」
「はい」
ディストラは僕の影に入った。
「よし入ったな。それじゃあ子どもたちと遊びに行こっと」
僕はベッドから飛び上がり、子どもたちと約束していた町の広場に行った。
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ライムが広場に着くと、茶髪をポニテールに結んだ活発で純粋無垢な少女がいきなり抱きついて来た。
「わぁー尻尾もふもふだぁ」
女の子はライムの細い尻尾を優しく撫でている。
「うわっ! びっくりした。ちょっと歩けないので離れてくださいよ」
「はーい」
僕がそう言うと、茶髪の女の子は不満げな表情をしながら離れた。
「君の名前を教えてくれるかな?」
「うん。私の名前はね、ミラ・アンダーウッドだよ」
アンダーウッドって、この娘町長の娘か。
フレディさんが見て無くて良かった。
少しすると、子ども達が続々集まってきた。
「おっ、皆んな集まったな。それじゃあ公園に行こうか」
僕は町の子供たちと一緒に公園に向かった。
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「公園と言っても滑り台とかの遊具はないんだな」
僕たちは公園でサッカーをすることにした。
「ライム兄ぃちゃんボール行ったよー」
「オッケー任せろ。おりゃ!」
僕は、オーバーヘッドでシュートを決めた。
「わぁー凄い」
「はーはっは、凄いだろ」
前世では趣味で、よく友達とサッカーをやってたからな。
実力が落ちて無くて良かったぜ。
まぁ最強を目指すために色々削ったから、仲の良かった友達も愛想尽かして僕の元をどんどん離れて行って、最終的にボッチになったんだけどね。
それから子供達と夕方頃まで遊んだ僕は、皆んなと別れてホテルに帰っていた。
「クソぉ。あいつら帰り際にさみしいからって、僕に抱きついてきやがってお陰で髪の毛がボサボサじゃねぇか」
「ふふっ、特にあのミラという女の子は凄かったですね」
「そうだな、あの子は最初っから僕に興味津々だったからな。多分僕と同じケモナーなんだよ」
そんな事を言いながら耳と尻尾の毛づくろいをしていると、夜ご飯の時間になった。
僕はフレディさんに我が家で夜ご飯を食べましょうと誘われていたので、急いでホテルを出た。
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「ここがフレディさんの家か。流石町長さんだな豪邸じゃんか」
僕が豪邸に目を奪われていると、またミラが抱きついてきた。
「すぅー」
ミラは、僕の尻尾の付け根部分に顔を埋めていた。
「ちょっ、吸うなってくすぐったいじゃんか」
「コホン、ライトニングさん」
ミラと戯れていると、ディストラが小声で話しかけてきた。
「何だ? ディストラ」
「前見て下さい」
「あっ……」
前を見てみると、フレディさんとフレディさんの奥さんが立っていた。
フレディさんの奥さんは、ウェーブロングヘアの茶髪に淡い茶色の瞳をした色っぽい雰囲気を纏った大人な女性だった。
「あのー、これはちがくてー」
まっずい、これは怒られる。
そう思い覚悟を決めていると二人が近づいてきた。
「いや、まじですみませんでした。別にロリコンとかではないんですよ。この娘が勝手にですね」
僕が必死に弁明しようとしていると、二人共僕に鼻を近づけて吸ってきた。
「うわっ、びっくりした」
「すみません。実は我が家は皆んな獣人が大好きで特に匂いを嗅いでみたいと思っていたんですよ。あっ、私はグレースと申します」
グレースさんは、流石に恥ずかしいのか、少し遠慮気味に僕の匂いを嗅いでいた。
何だ、怒られるかと思って焦ったぁ。
それから数分間、フレディさん達に吸われてから家に入った。
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家に入った僕達は、グレースさんが作ってくれたテーブルいっぱいに並ぶ豪華な食べ物を囲んで座った。
「いやー、先程は吸わせていただきありがとうございます」
フレディさんは、豪快に笑いながら話した。
言葉だけだと、僕がなんかやばい奴みたいだな。
「まぁ減るもんじゃないですし、別に良いですけど。いきなりは流石にやめてくださいね」
「はい、以後気をつけます」
僕の言葉を受けて、ミラとフレディさん、そしてグレースさんは小さな声で返事をした。
「本当に気をつけて下さいよ……。それじゃあいただきます」
「「「いただきます」」」
「ハムハム。アチッ」
猫舌なの忘れてた。
「私の料理はお口に合いましたか?」
グレースさんは落ち着いた様子で、穏やかかつ、優しい声色で話しかけてきた。
「はい。すごく美味しいです」
「良かったです。いっぱい食べてくださいね」
獣人も火を通して肉を食べることがあるから、人間の料理を食べても問題無いんだよな。今日はお言葉に甘えていっぱい食べちゃおっと。
僕が美味しそうに食べていると、影の中に居るディストラが羨ましそうに見てきた。
「もう、しょうがないな」
僕は、フレディさん達に気づかれないようにしてディストラにお肉をあげた。
「なんか犬みたいだね」
「うるさいですよ」
その後も僕とディストラはご飯を堪能した。
「ご馳走様でした」
「ライムさん。良ければ今日はこの家に泊まってミラと遊んでやってくれませんか?」
「良いですけど、ホテルに荷物があるんですけど……」
「それは私が連絡をして明日の朝に持ってきてもらいますから」
「ありがとうございます。それじゃあ遊ぼうかミラちゃん」
「わーい」
僕はフレディさん達の死角に移動した。
「おいディストラ」
「はい、なんでしょうか」
「あのリュックには大事なものが入ってるから、ホテルに行って盗まれたり中身を見られないか見てきてくれないか?」
「了解しました」
それから数時間後。
ミラといっぱい遊んだ僕は、ミラの部屋でミラと同じ布団でくっついて眠っていた。
「ふふっ、ライムさんったら、ミラと一緒に寝ちゃったわね」
グレースは、ライムに抱きつくミラを見て、微笑ましそうに笑った。
「そうだな。ライムさんは明日には町を出ていくから、ゆっくりしてもらおう」
フレディも微笑ましそうに微笑んでいたが、少し寂しそうだった。
「そうね。ミラ、ライムさん。おやすみなさい」
そうして、フレディとグレースは部屋の扉を閉めた。
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翌朝、ホテルの人に荷物を届けてもらった僕は町の広間に行き皆とのお別れをしていた。
「ライムさん。またこの町に来てくださいね」
「うん。今度は勇者パーティーとして来るよ」
「ライムお兄ちゃん。また家で、もふもふさせてね」
「良いよ」
「やったー」
「それじゃあ皆んなまたね」
皆んなとのお別れを済まして僕は街を出た。
「さて、これからどうしようか」
「そうですね。まだ寄り道をするなら、良いダンジョンがここから南西に進んだ先にありますよ」
「うーん。まだ村を出てから1ヶ月も経ってないし、もう少しゆっくり旅をするか。それで、そのダンジョンには魔将軍はもちろん居るんだろ?」
「はい。しかも魔将軍では二人しか居ない魔物に分類されない魔将軍です」
「へぇーどんなやつなんだ?」
「そいつは魔将軍で唯一制御ができなさすぎて、魔王様に封印された『炎竜 ヘルグラン』。全てを焼き尽くす滅龍に並ぶ程強いドラゴンです」
「ちょっと待ってくれ、封印されてるのにどうやって戦うんだ?」
そもそも、ドラゴンって魔物扱いじゃないんだな。
「封印は魔将軍でも解けるようになっているので私が居れば解けます」
「へぇー、まぁソフィアにもらったこの剣の強さも見たかったし、そいつに戦いを挑むか」
そう言って、ライムはヘル砂漠へと向かった。




