191 最強を手にした果てに……
勇者達が雪山を下っていた頃。
ここは暗雲立ち込める魔界でも、一際闇が濃い魔王城跡地の大穴に新たに作られた地下施設。
壁にはレンガ調の建物が大穴の底まで建てられており、その間を鉄製の吊り橋で蜘蛛の糸の様に繋げられている。
視界は、ギリギリ大穴の全貌が確認できる間隔で松明等による炎の灯りだけで照らされた薄暗くも広大な地下空間が広がっていた。
そこでは、多くの人間が魔界の魔族達の自由を奪っていた。
女の魔族は幼い者だけ抵抗できないように、だが体に傷一つ付かないように鎖の手錠と首輪を繋いで縛り付けられながらも、自由に生活している。
大人の者は、四肢を鎖で繋げられ、首輪から伸びた鎖を人間の女性の手首に固定されて一人一人徹底的に監視されている。
服装は、全員薄い布切れの様な物を着させられている。
男の魔族は年齢関係なく、上半身裸の状態で一人一人が建物の中にある別の閉鎖的な小さな暗い檻の中に収監され、その前には屈強な人間の大人の男が立っている。
そして、その魔族達を監視している人間達は、男女関係なく全員銃器を所持して地下空間を循環しており、さながら刑務所の様な光景だった。
大穴の地上部分には、奴隷施設全体を見下ろせるように豪邸の様な二階建ての漆黒の建物が建設されていた。
建物の屋上には、漆黒を背景にし、そこに赤色の鹿が脳天に銃痕を刻まれている絵が描かれている不気味な旗が突き刺さっていた。
その建物には奴隷の中でも特に顔と体のシルエット整っている男女が収監されている。
そして、建物の二階のとある場所には重厚かつ巨大な赤黒い鉄の扉があり、その更に奥には広い部屋が広がっている。
広い部屋の中央には階段があり、そこを登っていくと禍々しさ漂う動物の毛皮で作られた漆黒の椅子が鎮座していた。
その椅子には、黒ずんだ灰色の短髪に深紅の瞳をした不敵な笑みを浮かべているスリムでイケメンな男が座っていた。
男は、赤い毛皮のファー付きコートを羽織り、黒い長ズボンを履いていて、黒い手袋を両手につけている。
「おい、魔族共。六年前の大戦で存在感を示したヘルホワイトやサンダーパラダイス、それとリサ女王が魔界の魔族との共生を望んでいるからって、それが世間の意見になる訳ねぇよな?」
椅子に座っている男の目の前には、モデルやアイドルも目じゃない程の美女が拘束された状態で座らされて並んでいた。
「ここに居る奴等は全員、俺も含めて魔素を産まれつき体内に保持出来ず、魔力を使えねぇ。だから、わざわざお前らの王が居た城跡に施設作って魔族の奴隷を調教してんだ」
男は片膝を椅子に付いて不気味な笑みを浮かべている。
「まぁ何だ、俺達がお前らにやってんのはただの八つ当たりだ。それでも、大陸の金持ち連中から金巻き上げれんだから辞める気なんてねぇぜ」
そう言った後、男は立ち上がる。
「天才科学者テンヤが発明した多種多様な乗り物によって、今や魔界と大陸の横断は当たり前の時代になった。やっとだ……」
男は並べられている魔族の女性達の元へと近づいていく。
「やっと自由に魔族の奴隷を作れる!!」
男は狂気的な高笑いをし始めた。
「お前らの体にはクズの遺伝子が刻まれている。そんなお前らでも、奴隷なら幾らでも使い道はあんだよー!」
男は高笑いをしながら、近くに座っていた二本角が生えているピンクロングヘアに黄色い瞳をした長身モデル体型のオーガ女性の横腹を蹴り飛ばした。
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同日、蜃気楼で景色が歪んでいるヘル砂漠にて。
「いや〜、子供なのにやっぱ竜は強いね」
無数に積まれた子供竜による屍山血河の頂上で、全身返り血まみれのラビッシュは座りながら伸びをしていた。
ラビッシュは、オレンジ色の短パンに白いTシャツのラフな私服を着ている。
ラビッシュから見える砂漠の景色は、そこら中に穴が空いていたり、魔法で生み出された藍色の大きな水溜まりやオレンジ色の旋風などが荒れており、ノア達の激戦を物語っていた。
「ま、今この世界にある脅威は、アビスがラスファートの地下に残した赤い樹によって強化された魔物が溢れ出てくる事ぐらいだからな。こんぐらい手応えないと暇すぎて死ぬから丁度いい」
『混沌虹雷形態』を解放しているノアはそう言った後、ラビッシュが飛び降りたのを確認してから子供竜の死骸に右手を触れて、血肉を烈日の如き炎へと変化させた。
ノアは、腹筋を見せびらかす様にボタンを絞めていない藍色のシャツに黒の長ズボン、頭には黒のスポーツキャップを被っていた。
服には、所々返り血が付着している。
「ラビッシュ、少し力加減を覚えて。また返り血塗れじゃない」
白のスポーツキャップを右手で少し持ち上げて、ミズキはジト目でラビッシュを睨んでいた。
ミズキは大きめの水色の半袖シャツを着ていて、下には灰色のロングスカート履いている。
「ミズキ、お腹すいた〜」
ミズキに睨まれているのも気にせず、ラビッシュはミズキに突っ込んでいく。
「ちょっと近づかないで頂戴。この服、別に汚れて良いやつじゃないんだから」
突っ込んでくるラビッシュを見て、ミズキは慌てて後退りをした。
「じゃあ何で着てきたんだよ」
ノアは淡々とした口調で聞いた。
「そ、それはだって……、貴達二人が戦って私はそれをサポートするだけだもん」
ミズキは頬を赤らめて、髪を弄りながら恥ずかしそうに言った。
「それよりノア、貴方も魔力を抑えて。私の魂之力で貴方の魔法を相殺して無かったら、今頃地図が変わってるわよ」
ミズキは誤魔化す様に早口でノアに詰め寄った。
「いや、それを防ぐ為にボクとラビッシュのパーティーにミズキを誘ったんじゃん」
ノアは笑顔でそう言いながら服に付いた砂埃を払った後、『混沌虹雷形態』を解除した。
「ハァー、しょうがないわね。貴方達の手綱は私が握っていてあげる」
ミズキは溜息を吐いた後、はにかんだ笑顔を浮かべていた。
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午後三時頃、クレイエス。
高層ビルが立ち並ぶ島国でも一際目立つ大きなビルの最上階にある天の世界。
社長椅子に座り、机に突っ伏して眠っているテンヤがそこに居た。
エレベーターが天の世界に到着して扉が開くと、ソフィアの優しい声が聞こえてきた。
「アオハ君とカムクク君のあんな慌てた姿久しぶりに見たよ」
「そうですね。でも、仕方ありませんよ。ラスファート中央区にテンヤが設置した地震計が警告音を発してきたんですから」
アカネの落ち着いた口調の声も聞こえてくる。
「そうだね。テンヤ君がラスファートの大穴を塞ぐ工事の最高責任者として関わっていて、その後の管理も私達『理化学探求連合』の管轄だもんね」
暫く二人分の足音が聞こえた後、静寂が訪れる。
「お〜い、天才君。ラスファート中央区の地盤が不安定だって警告音が鳴ってて職員さん達大慌てだぞ」
暫くテンヤが顔を突っ伏して眠っていると、聞き馴染みのある、低めだがどことなく明るい雰囲気も感じれる声が耳元でそう囁いた。
「は!? 緊急事態じゃねぇか! ソフィアさん報告は向かいながらお願いします」
テンヤは勢いよく起き上がり、椅子にかけていた白衣を着て天の世界から出て行った。
「忙しくなるね〜」
その後を白衣姿のソフィアが、液晶端末を両手で持ちながら楽しそうに追いかけていく。
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混沌の大深林奥地にある『烈日之帝王軍』の軍基地。
そこでは、今日も多くの軍人が訓練に励んでいる。
一方執務室では、ホノカにシエルとアイ、そしてカルラが呼び出されて何やら深刻な雰囲気が漂っていた。
「シエル大将、よく来た。先ほど、『ヘルホワイト』の盟主、ハルカさんから応援要請が入った。場所は魔界南東方面の海岸だ、竜の出現も確認されている」
高級そうなふかふかの椅子に腰掛けているホノカは真剣な眼差しでシエル達を見ている。
「かなり攻め込まれていますね」
真剣な表情で俯いていたカルラは、冷静な口調でそう呟いた。
「あぁ、あそこで食い止めなければエルーリ山脈にも被害が出てしまう」
ホノカは重々しい口調で話しを再開する。
「魔族側として『ヘルホワイト』に協力しているディストラさんも応援に向かっているが、竜が居るとなると、こちらも主戦力を持って対処すべきと判断した」
ホノカが真剣に話している中、突然横から金属音とハムハムと咀嚼音が聞こえてきた。
「へぇ〜、やっぱヘルホワイトも自由彗星も大した事ないんじゃん」
シエル達が声のした方に視線を向けると、そこではアイがソファーに座り、フォークを使ってホールケーキを口一杯に頬張っていた。
「アイちゃん、ちゃんと話しを聞いた方が……」
カルラが慌てた様子で会いに駆け寄ろうとすると、シエルが肩を掴んで静止した。
「カルラ少将、アイ少将の事はほっておきましょ」
シエルは冷たい態度を取ったが、アイは構う事なくだらけてケーキを口に運び続けている。
それを見たシエルは溜息を吐き、冷たい口調で話し始める。
「私達『烈日之帝王軍』の軍事活動の目的は、混沌の大森林とエルーリ山脈の治安維持、そして『ヘルホワイト』の掲げる魔族との共存を手助けする事よ。怠け者に合わせている暇はないわ」
シエルの話しを聞いたアイは慌て始める。
「む〜……。もう、分かったよ! 終わったら、基地にあるお菓子を思う存分食べ尽くしてやる!」
アイはクリームが付いた口で可愛く起こりながらも立ち上がって部屋から出ていった。
それを見て、シエル達三人は顔を合わせて嬉しそうに笑っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時刻は夜八時。
ムーアの貴族エリアにあるコロシアムでは、簒奪祭決勝が行われている。
コロシアムには、夜の静けさなど全く感じさせない轟々しい歓声が響き渡っている。
その注目が集中しているのは、コロシアム中央に向かい合って立っているムーア国王ガンナーと魔力無しの最強ゼロである。
「ゼロ、二回も手加減してんの俺にはバレてんだよ。三度目の正直だ、今日こそ本気同士のぶつかり合い、しようぜ」
楽しそうに笑っているガンナーは、背中から両手剣を引き抜き、ゼロに向けた。
「悪い、俺様は王になる気なんて更々無いんだ」
ツカサもとい、ゼロは両拳を構えて楽しそうに笑いながら軽く流した。
数秒後、歓声すらかき消すゴングの音と共に両者の熱き戦いが始まる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所はライムの自室に戻り、夜の十時三十分。
ライムはライトニングの衣装に着替え終わり、ストレッチをしていた。
ディストラはライトニングの影に入っている。
僕とアンナ、そしてノアは二十四歳になった。
ホノカは二十六歳。
ミズキ、ツカサ、ラビッシュ、ユキネの年上組は、二十九歳。
皆んな立派な大人になり、それぞれの人生を謳歌している年齢だ。
つまり結果を言うと、サンダーパラダイスは解散した。
結成した目的を達成したのだから当然だ。
その影響で、『烈日之帝王軍』やルミナス商会は独立した組織となった。
だが、組織は解散しても、人の繋がりまでは解かれていない。
今でも都合が合う日があれば、偶に僕と虹雷剣、後はディストラとかシエル達、テンヤ達も集まって食事をする。
何故かフライムも勝手に来る時があるんだけど、終戦後のサンダーパラダイス本拠点で開いたパーティーにも本当に来たから、今ではアンナ達とも仲良くなっている。
そうそう人の繋がりで言えば、ホノカが元帥に成った『烈日之帝王軍』は、ユキネがトップを務めているルミナス商会と契約を結んで武器や食糧を混沌の大深林にある軍基地に輸送して貰っているらしい。
僕も仕事があるし、ゼーレ達も冒険しまくりみたいだから、この森付近をホノカ達が守ってくれるのは本当に助かる。
そして、サンダーパラダイスを解散した数ヶ月後には僕とアンナは結婚して、この豪邸で過ごさせて貰っている。
勿論、五階建ての豪邸に二人で住んでいる訳じゃない。
元々サンダーパラダイスの医療班やシェフとして住んでいて住み続けている者や、まだ自立出来る年齢でない獣人の子供も一緒に生活をしている。
豪邸の周りは数年前と変わらず、殆ど獣人が住む家が建っている。
数年前と変わったのは、大戦の後に聞いたルナとツカサがソルと戦闘した時に削れた地形が未だ修復途中である事ぐらいかな。
ドラゴン達の馬鹿力は恐ろしい。
そんな厄災レベルの怪物の一人は、アシュラがガンナーに頼んでムーアに住まわせて貰っている。
アシュラがライトニングだった事は世間的にもバレてるんだけど、一応アシュラとしてガンナーに会った。
その方が親しみやすいと思ったからね。
だけど、もう二人は家で面倒を見る事になった。
ルナはメイドとして、ソルはこの豪邸の警備員として雇い、今の所上手くやっている。
ライトニングがストレッチを終え、新たな漆黒の剣『黒染の雷鳴』を腰に刺していると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「入って良いよ」
ライトニングがそう言うと、ドアを開けてメイド服姿のルナと私服姿のソルが入ってきた。
「ライトニング様、お着替えは終わりましたね。アンナ様はもう少々掛かるので、玄関でお待ち下さい」
拙い敬語で恥ずかしそうにルナは言った。
ソルはその後ろに隠れている。
「うん、分かった。てか、様付けは普通に出来るのに敬語はいつまでも慣れないな」
「だって、ライトニング様は尊敬してるけど、それと同じくらい友達として好きだもん。どうしても言葉が砕けちゃう」
ルナは恥ずかしそうに目線をライトニングから逸らせている。
「ま、ルナ達に寿命は無いし、僕の寿命は五百年あって魂が繋がっているアンナも同じ寿命を手にしてる。いざとなれば『魂神』の力で転生すればいいし、焦ることは無い」
ライトニングは扉の方に歩いていき、ルナとソルの間を通った。
「それじゃあ行ってくる」
ライトニングは二人に手を振って豪邸から出て行った。
「「任せてください」」
ライトニングの背中を見ながら、二人の滅竜は嬉しそうに返事をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数十分後。
ラスファート東南区の一角で存在感を放っているルミナス商会本部の社長室。
そこに、ライトニングとアンナが到着していた。
ライトニングとアンナが隣り合わせに座っているソファーの前には、リサ女王が座っている。
「失礼します」
座っているライトニングとアンナの横から、スーツ姿に長い緑髪を綺麗に纏めたサリファがお茶を置いていく。
「ありがとう、サリファ秘書」
ライトニングが顔を上げて例を言うと、サリファはお盆で口元を隠しながら、嬉しそうに微笑んだ。
その後、サリファはお盆を持ったまま社長室から退出した。
ライトニングとアンナがお茶を飲み終わると、社長椅子に座っているユキネが話し始める。
「お二人とも、お久しぶりです。早速ですが仕事の話をしましょう」
ユキネは真剣な表情で言った。
「あぁ」
ライトニングは顔に陰を作り、不気味に笑う。
「仕事内容は私が話します。ライトニングさんの雇い主は私ですからね」
真剣な眼差しでライトニング達を見つめながら、リサは書類を持って話し始める。
上は装飾が多く付いている赤基調のコートに下は白い長ズボンを履いて凛々しい女王の風貌が出ていた。
「今回の依頼は、四年ほど前から密かに活動を開始していた国際テロ組織『穢神組織』、の殲滅です。では、『穢神組織』の情報をお伝えいたします……」
「ふっ、世界の陰で秘密裏に暗躍する王直属の諜報員……。燃える要素しかない」
ライトニングは思わず笑みがこぼれ出ていた。
その視線の先には、漆黒を背景にし、そこに赤色の鹿が脳天に銃痕を刻まれている絵が描かれている不気味な紙が置かれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時刻は深夜零時。
魔王城跡地に作られた奴隷施設は、二人の獣人によって荒らされていた。
止めどなく押し寄せる銃声の中に悲鳴が混じり、狂気的な音楽が奏でられて闇夜を騒がしく包み込む。
大穴の壁に建てられているレンガ調の建物からは、拘束が解かれた魔族達が協力して脱出をしていた。
大人の男が列を統率し、大人の女が子供を連れて大穴の外を目指して歩いていく。
そんな希望に満ち溢れた開放的な瞬間に、アンナは魔族の男達と協力して戦っていた。
「皆さん、今日だけは罪悪感なんて捨てて下さい。ここで『穢神組織』が掲げる思想を破滅させないと、差別の輪廻から脱却する事は不可能です」
黄色のシャツに黒の長ズボンを着た私服姿のアンナは、銃弾の雨の中を黒雷の軌跡を描きながら返り血を浴びるのも躊躇せずに駆けていく。
一方、大穴付近にある豪邸の様な建物も同様に激しい戦火に包まれていた。
無数の銃声が鳴り響き、業火が広がっていく中、ライトニングは自身の周りを漂う黒雷で弾丸を防ぎながら堂々と突き進んでいく。
ライトニングに向けて銃口を向けている人間達は、皆ライトニングが何をするまでもなく意識を失って倒れていく。
「やはり雑魚相手だと便利だな、『破滅帝の威圧』は……」
禍々しい仮面で素顔を隠し、漆黒のコートに身を包んだ細マッチョの猫獣人が業火と弾丸の中をゆっくりと歩んでいく姿は、恐怖の象徴と言っても過言では無い程の威圧感を放っていた。
数分後。
ライトニングは巨大な鉄の扉を開け、部屋の中央まで歩いていく。
部屋にはピンクロングヘアに黄色い瞳の魔族の女を残して、他は武装した人間すらも居なかった。
「人と魔界の魔族共存を嫌い、ヘルホワイトに許可を得て大陸に滞在している魔族を攫い、拷問や実験に使って挙げ句の果てには奴隷市に売り飛ばす極悪非道のテロ組織、『穢神組織』。そのトップに君臨する男の名は、デュラザム」
ライトニングは歩みを止め、中央の椅子に座っている男に向けて『黒染の雷鳴』を突き立てる。
その頃には、外で豪雨の様に鳴っていた銃声も止んでいた。
ライトニングとデュラザムが睨み合って硬直している隙を突き、ピンクロングヘアの女性は
「ふっ、そういやお前ら獣人も魔族なんだよな……」
デュラザムはそう呟いた後、椅子の横に立てていた赤い剣を取ってライトニング目掛けて走り出した。
銃声が鳴り止まぬ中、両者の剣が激しく衝突する。
金属音が連続で鳴り響き、建物を包んでいる業火すらかき消してしまいそうな程の風圧が巻き起こる。
「十万年前のあの日、聞き届ける側である筈の神に牙を剥かれて一度折れた儚い願いは、五年前の大戦で今我らの手で叶えられる所まで手繰り寄せた」
目で追えぬ速度で両者は斬り合い、建物は燃え広がった業火によって崩れていく。
「まだまだ長い道のりかもしれないが、世界は一つになろうとしている」
ライトニングは体を少し後ろに逸らした。
すると、デュラザムの剣は空を斬り、体の重心が前に持っていかれる。
その時、頭上から天井が崩れ落ちてくる。
「社会から見放された俺達の居場所は無かったんだ! 気分はまだ晴れてねぇぞ!!」
デュラザムはそう叫びながら崩れ落ちてきた天井を細切りに切り刻んだ。
が、その隙にライトニングは懐に入り込んでいた。
漆黒の一閃が放たれる。
「それを邪魔しようとする者は、何度だってこよ雷鳴の覇者、ライトニングが破滅させよう」
不敵な笑みで決め台詞を吐いたライトニング。
デュラザムの肉体はお腹付近で横真っ二つに割れていた為、完全に油断していた。
そして、崩れていく建物に一発の銃声が鳴り響く。
「ハッ、調子に乗りすぎだ小僧」
振り絞った怒りを感じる掠れた声が聞こえた。
そう、デュラザムは散り散りに崩れていく中でも復讐の念に駆り立てられてコートの中に仕込んでいた拳銃の引き金を引いたのだ。
しかし、ライトニングはデュラザムが最後の力を振り絞って撃った弾丸を、視界に入れる事も無く黒雷で防いでいた。
「僕も、世界も変わった。もう、そんな物に殺される事もない……」
ライトニングは呟きながら、部屋の外へと歩み始める。
その間にディストラが影で覆い隠し、ライムの姿に着替える。
数秒後。
崩れ去る建物を背に、ライムは血塗れで自分の事を待っているアンナの元へと歩いていく。
「お帰りなさい、ライム」
アンナは月明かりで輝く綺麗な金髪を風で靡かせながら優しい笑顔でそう言った。
「うん、ただいま」
ライムは居場所に戻ってきたからか、幸せそうな明るい笑みを浮かべてそう返事をした。
『雷鳴の猫王と勇者達の旅路』、これにて終極。
筆が乗りすぎて戦闘描写を書いてしまいましたが、強さ的にもカッコ良さ的にもナハトがラスボスで間違いないでしょう。
デュラザムはRPGで言う裏ボスみたいな奴です。
ライムの最後の台詞は、一話を読み返して貰えれば分かって下さると信じています。
宜しければ感想などを書いて下さると、とても嬉しいです。
最後に、長い間『雷鳴の猫王と勇者達の旅路』を読んで下さり有り難う御座いました。




