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雷鳴の猫王と勇者達の旅路〜猫の獣人に転生した中二病、勇者達を魔王の元まで導かん〜  作者: 一筋の雷光
終極編

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188 カルマ

 時は数分巻き戻り、ヒストア王国外れにあるヒストア図書館入り口付近。


「姉さん、こっちも丁度終わったみたいですね」


 返り血まみれのスズリが騎士達と一緒にヒストア図書館に帰ってくる。


「スズリ、街の方も終わったんだね」


 ヒストア図書館入り口付近で魔物達との戦闘を終えたエマは、『紡ぐ者』達や騎士達と協力して魔物達の死骸清掃をしていた。


「うん、ヒストアは大きな国土の割に騎士が少ない……。多分他国に比べたらちょっと遅いぐらいだろう。それでも、ボクがこの国に居る限りは魔物に手こずる事など無い」


 スズリは自信満々に言い放った。


 エマとスズリ、騎士達が装備の点検や怪我人の処置をしている所に、優しく頬を撫でる微風の様な声が届く。


「お疲れ様です、皆さん。細やかながら、水をお配り致します。それと、ここからは私達も協力致します。少しでもお身体をお休め下さい」


 クロエが前に出てそう言い終わると、後ろから図書館の職員達が出て来て長机の上にコップを並べて水を入れ始めていた。


「クロエ王女にオスカー王まで。魔物の相当は完了しましたが、まだ隠れているかも知れませんよ」


 エマや周りの騎士達が慌てていると、オスカー王が静かに前に出て穏やかな表情でこう言う。


「だとしたら、それこそエマ達の近くに居るのが一番安全ではないか?」


 オスカー王の言葉に、エマは誇らしげな笑顔が溢れ出ていた。


 それを聞いたエマ達と王国の騎士達は、クロエやオスカー王、図書館の職員達から手渡しで水を貰い、戦後の休憩に入った。


「ボク達は勝てたが、勇者達は勝てているのか少し不安だな」


 水を飲み終わったスズリは、夜空を眺めて緊張ほぐれぬ表情でそう言った。


「今考えても仕方がないよ。考える暇があるなら、私達はこの国を守る事に専念しないと」


 エマは、魔物との戦闘で遠目でも美しい街並みが崩壊しているのが分かるヒストアを見つめてクールに呟いた。


「大丈夫ですよ。勇者の皆様はこれまでの旅路で多くの善行を成して来た筈です。そんな者達には絶望の方から遠ざかっていく物ですから」


 クロエは希望に満ちた赤と水色のオッドアイで、星々が煌びやかに彩っている夜空を見上げている。


 そうして、休憩を終えたエマ達は再び戦火の残り火を消す作業に戻るのだ。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 時は戻り、魔王城跡地。

 ライトニングとナハトが無限世界から放り出されて直ぐ。


「もっとライトニングの役に立てると思ってたのに……。私、何で貴方の弱点になってるんだろうね?」


 アンナは無限世界から放り出され、空に浮かんでいるライトニングを見て悔しそうに泣いていた。


 アンナの言葉を聞いた瞬間、ヘライトから告げられた仲間が殺される未来の話しがライトニングの脳裏をよぎった。


 そして、ナハトも無力感漂わせて座り込んでいたエスメの姿と今のアンナを重ねて少し涙ぐんでいた。


「せめて、勝たないとな」


 ナハトは今までの楽しい雰囲気から一転、凛々しい表情でライトニングを睨んだ。


「我らが最後まで勝つ。一度たりとも負けは要らない」


 ライトニングも真剣な表情でナハトを睨む。


 生暖かい夜風が吹き、空に浮かんでいる二人は互いに殺意を隠す気など無い。


 暫く見合った後、ライトニングが動く。


「もう、終わらせよう! 『万雷之黒衝撃(万雷インパクト)!!』」


 咆哮と共に一瞬で空に雷雲が生成されて、ライトニングによる渾身の一撃が落下していき、轟く雷鳴と共にナハトに直撃した。


 一つになった漆黒の万雷は、魔王城跡地を飲み込んで大穴を開けていく。

 ディヒルアは白雷でその身を守り、アンナは金色の雷による拘束が黒雷で破滅し、自由になる。


 が、ライトニングの技を両腕で受け止めているナハトは押されている様子も無く、ライトニングを見上げて不気味に笑っていた。


「なぁライトニング。魑魅魍魎は、世界を何色に染めるんだろうな?」


 ナハトが笑い混じりの声でライトニングにそう問いかけたその時、ライトニングの背後に多数の強大な魔力が突如として出現した。


 壮大な魔力量を背後に感じたライトニングは焦りながら後ろを振り向く。


「どう言うこ……。イッ!」


 後ろを振り向き切る前に、ライトニングの背中を何かが切り裂いた。


 ライトニングが振り返ると、金属音に似た不快な咆哮が放たれた。


 咆哮の主は肉や臓器の無い竜の姿をしていた。

 そう、先程までラスファートにてミア達ロイヤルティーナイトと戦っていた死竜(デライパス)がいたのだ。


 その様子を見て不気味に笑うナハトの右手の甲には、白龍ソルを使役していた時にもあった白い紋章が浮かび上がっている。


「ライトニング!」


 アンナは血の気の引いた顔色でライトニングに駆け寄る。


 それを見たナハトは、歯を食いしばって怒りを燃やす心を鎮めてこう話す。


「あの日の怒りと悲しみも、この戦争に勝った後、エスメと平和に過ごす事で洗い流せたら、そう思ってたんだ」


 そう話すナハトは徐々に感情的な口調に変わっていく。


「オレの本当の仲間はエスメだけだった。恨んでもおかしくないオレを、心が空っぽで孤独なオレを、それでも好きで居てくれた。心の居場所を示してくれた。他の魔将軍が殺されたとは訳が違うんだよ!」


 ナハトが無数の白雷と金色の雷を身体から放出しながら叫んだ。


 ナハトの身体から放出され、地面に直撃した雷からは、それぞれ白と金色の光を纏った多種族の魔物が生み出されていった。


 魔王城跡地を埋め尽くさん程の魔物の群勢。

 数は計り知れず、頻繁に新たな魔物が大地を踏み締める為生まれる。


 その光景は集合体恐怖症には耐えられないであろう魑魅魍魎の集まり。

 限界などとうに超えているライトニングはアンナの腕を強く掴んでこう告げる。


「何だ、この数。アンナ、逃げろ……」


 それを聞いたアンナは優しくライトニングの腕を退け、覚悟の決まった表情で立ち上がる。


「私、貴方の彼女だから! サンダーパラダイスを任されてる立場だから。盟主がピンチの時は真っ先に体を張るべきでしょ?」


 アンナがそう言っている間に、魔物達は迫って来ていた。


 アンナはライトニングの側を離れる事なく戦闘体制に入り、戦いが始まる。


 アンナは必死にライトニングを守りながら魔物達と戦っている。


「ありがとう。疲れてたとか言い訳でしか無い」


 ライトニングは立ちあがろうとするが、傷が痛むのか立ち上がれず、悔しそうにそうアンナに伝える事しか出来なかった。


「良いからアンナに守られてて!」


 アンナは魔物達の返り血を浴びながら必死にライトニングを守り続ける。


 数分後。

 アンナは全身魔物の返り血で染まりながら息を切らして、座っているライトニングに寄りかかっていた。


 その周りには魔物の死骸が多数転がっていたが、それ以上の魔物がライトニング達を少し離れた所から静かに狙っていた。

 勿論、死竜(デライパス)もその内の一体である。


 ナハトは地面に座っているライトニングとアンナの目の前に降り立ち、見下した視線を向けている。


「アンナって言うのか……」


 ナハトは顔に陰を作り、見下しながらアンナの顔をまじまじと刺す様に睨んでいる。


「なぁアンナ、お前はオレのエスメを殺した。だから、やった事をやり返されても文句言えねぇな。悪い事したら、悪い事が返ってくるんだ。こう言うのを、他の世界ではカルマっつうらしいぜ」


 ナハトは不気味に笑っている。

 その姿はまさしく魔王。


「まぁ悪の権化である魔王には、神の恩恵のお陰で適応されないがな」


 ナハトはディヒルアを振り返りながら言った。


「それにしても……」


 ナハトは、疲れ切って地面に座り込んでいるライトニングに見下した視線を向ける。


「おいおい、魔王の一族は魔物を産み出せる。油断しすぎじゃないか?」


 煽られながらも、ライトニングは冷静な態度でアンナと一緒にゆっくりと立ち上がる。


「油断など、してる訳無かろう……」


 ナハトを睨みつけながら低く禍々しい相手を威圧する声色で小さく呟いた。


「どんな敵が相手だろうと、妥協は許されない! からな」


 ライトニングは右手を前に出し、拳を強く握りながら不敵に笑った。


 つまり、ライトニングは完全に隙を突かれたのだ。

 肉体の疲労か、トドメの一撃を放つのに精一杯だったのか、如何なる理由も言い訳に過ぎない。


 それがライトニングとナハトによる決戦であれば尚の事。


「大丈夫だ、アンナ。我はサンダーパラダイス盟主、最強の雷鳴の覇者ライトニングだ!」


 ライトニングは恋人を守る為、咆哮と共に黒雷纏った右ストレートを放った。


 しかし、その拳はナハトの左の掌に易々と受け止められてしまう。


「最強? 確かにちょっと前はそれに足を踏み入れていたが、今や見る影も無いな。お前も所詮、生き物の、理の範疇に収まっている凡人か」

 

 渾身の一撃を軽々受け止められたライトニングは、似合わない絶望顔に染まりながらゆっくりと膝から崩れ落ちていく。


 精神的にも肉体的にも限界なライトニングと、魔物の群勢で体力を奪われ、こちらも限界状態のアンナ。

 その周りには今にも襲いかかって来そうな魔物の群勢と暗雲立ち込める夜空を支配しているかの様に飛んでいる死竜(デライパス)が待機している。


 そしてライトニング達の前には、無限の力と全てを無に帰す権能を持った最強で努力家な魔王ナハトと、古の神に数えられる絶望の神ディヒルア。


 勝ち目なんて無い。

 ライトニングすらそう認めてしまう絶望的な空間で、ナハトとディヒルアは楽しそうに不気味な笑顔でライトニングとアンナを見下ろしている。


 そして、程なくしてナハトの右拳がライトニングに振り下ろされる。


 だが、そんな絶望的な状況下にある戦場にピンク色の空間の穴が開く。


「星加護の肉体、『星授之掌握空間(ステラ・プエル)』……」


 ピンク色の空間の穴から、星加護を開放しているシュティモスが現れた。


 空間の穴から現れたシュティモスは、空中で一回転する左胴回し回転後ろ蹴りでナハトのお腹を捉えてアクロバティックに蹴り飛ばした。


「魔王の足止めでお役御免? 冗談じゃない、最後まで戦い抜くさ」


 そう言い放つシュティモスの後ろから、二つの人影が現れる。


「私、あれで終わりなんて納得しないから」


 空間の穴から出てきたタリアは、余裕の笑みを浮かべて言い放った。


「私もまだ頑張れます」


 サリファは完全回復した体で大地を踏み締め、それでも力強い決意感じる黄色掛かったオレンジ色の瞳でライトニングを見つめている。


 ライトニング達がシュティモス達に視線を奪われている時、ライトニングの影が遠い後ろまで伸びて大きな影となり、そこから一人の悪魔が姿を現す。


「漆黒の雷に仕える剣は完全勝利の瞬間まで闘志を絶やしません……」


 ディストラは影から姿を現し、それと同時に幾つもの人影が影から飛び出す。


 次第に人影がハッキリしてくる。


 姿が露わになった援軍の中には、虹雷剣の面々は勿論の事、シエル達三人やミア含むロイヤルティーナイト、そしてテンヤ達とリサ達までもがボロボロの状態でナハトを睨んで立っていた。


 そう、今ここにサンダーパラダイス最高戦力が集ったのだ。


「皆んなボロボロだな。有難いけど、そんな状態で来たって……」


 ライトニングは皆んなを見て嬉しそうに笑っている。


「ふふっ、そう言うライトニング様こそボロボロですね」


 ライトニングの黒いシャツに付いた汚れを、まるでお母さんの様に丁寧に払っているミズキの後ろで、サンダーパラダイスの面々も自信に満ちた表情でライトニングを見つめていた。


「ふっ。最強主人公は、追い込まれたってどうせ覚醒したりして一人の力だけでラスボスを倒せる。だから他人が割り込む必要なんて無い? 知るかよ。柔軟な判断を、お前が言った言葉だぜ」


 快活で余裕に満ちた表情でそう言い放つノアの手を借りて、ライトニングはゆっくりと立ち上がった。


「アンナさん、有り難う御座います」


 リサは、明らかにライトニングより傷だらけになっているアンナに手を差し伸べながら感謝を伝えた、


「うぅ、久しぶりの外だから酔っちゃったよ〜」


 真っ白なヨレヨレシャツを着た両腕がライトニングの背後から抱きついてきた。


「ソフィアさんまで……」


 仲間達が駆けつけてくれた状況に、ライトニングは一人一人の顔を見ながら自然と涙を流していた。


「ヘライト様がどんな未来を見て言ったかは分からないが……。確かに、ディストラはこの決戦に絶対必要な存在だな」


 ライトニングは幸せそうな笑顔でそう呟いた。


 仲間達がピンチに駆けつけて来て嬉しそうにしているライトニングを見て、ナハトは哀愁漂う表情でこう小さく呟いた。


「そうか、オレは孤独な魔王なんだな。父さんと同じだ。父さん、あの日の雨音をオレは忘れられない」

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