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雷鳴の猫王と勇者達の旅路〜猫の獣人に転生した中二病、勇者達を魔王の元まで導かん〜  作者: 一筋の雷光
終極編

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182 限界を越える者達

 影の世界。

 ディストラとフレヤが戦っている所にリサとフィオナが現れたその時。


漆黒之闇圧(ノワール・ドルック)


 ディストラがそう呟いた。

 すると、フレヤの頭上に途轍もない黒い雨粒として形作られた重力がのしかかり、フレヤはその場に拘束された。


「お前の全てを奪って、正義の糧にする!」


 白い大剣に黒炎と白炎を纏わせ、黒く長い髪は黒炎に変化し、左右に白炎の翼と黒炎の翼を生やしているフィオナが、翼で落下スピードを上げて逆さの体勢のまま、リサより先にフレヤへ向かって落ちていく。


「この世界から出ていきなさい」


 フレヤがそう呟くと、リサの頸とフィオナの左胸に刻まれたマゼンタ色の雷痕が淡く光り始めた。


「空想は超越をも凌駕する……」


 フィオナと自身の体が浮き始める前に、リサは人々の空想の力を宿している紫色の魔力で二人の肉体を覆ってマゼンタ色の光りを抑え込んだ。


「あり得ない!」


 フレヤは焦りつつも、マゼンタ色の雷で全身を強化して尻尾に巻き付けている槍の先を正面に向けた。


 数秒後。

 フィオナの二色の炎纏う白い大剣がフレヤのマゼンタ色の雷を放出している青色の槍と衝突する。


 衝突した瞬間に両者の炎と雷は宙に散り、フレヤは斬撃となった黒炎が青と紫基調の着物に引火した。


 フィオナはそれを見て素早く後退する。


 着物に引火した黒炎は瞬く間にフレヤの全身を包み込み真っ白な肌に火傷跡がどんどん拡大して行った。


「力が、抜けていく……」


 黒炎に身を焦がされているフレヤは、桔梗色の美しい瞳で力強くフィオナを睨んでいるものの、弱々しい声を出している。


「飛ばされた借り、返させてもらうぞ! 無限に溢れ出る空想に押し潰されろ!!」


 リサは黒炎の中で悶え苦しむフレヤに向かって紫色の魔力纏った白い剣を振り下ろした。


 が、その剣は空を斬る事になった。


「居ない?」


 リサが慌てて視線をあちこちに向けていると、妖艶な声がフィオナの方から聞こえてきた。


「常識を知らない貴方も私を越えられないと言っているのに、人間が超越を越える事は万に一つも無いわ。さっきのはまぐれよ。ディストラさん、貴方は超越の意味を理解してるのかしら?」


 声の元では、着物も真っ白な肌も無傷な状態に戻っているフレヤが、フィオナの後ろから体を密着させた状態で抱きついて鋭利な刃物へと変化させた悪魔の尻尾の先を首元へと突きつけていた。


「この御二方には常識等ありませんよ。有るのは無限の可能性、人は自らの限界を定義しない限り、超越へと歩み続けることが出来るのです。その道のりが自由な空想による思考的な物であっても、他者から何かを奪う物理的なものであってもです」


 ディストラがそう話している間に、影の世界のあらゆる所から伸びた幾つもの一際黒い影で形作られた鉄の鎖が音もなく、フレヤの足元に忍び込んで行く。


「そして貴方の言う通り、私は常識に疎く、主は最強。私も無限に強くなり続けなければなりません」


 ディストラは影の鎖に気づかれぬ様、フレヤの意識を自分に向けようと生意気で挑発的な目で睨みつけている。


「この世界では、影魔法も闇魔法も自由自在。この世界の空間全て私の攻撃範囲……」


 ディストラはゆっくりと手を開いた右手を自身の前に上げる。


漆黒世界之闇影鎖ノワールヴェルト・フェッセン


 そう呟きながら、ディストラは開いた右手を力強く握りしめた。


 その時、瞬く間に影で作られた数多の鎖がフレヤを取り囲み、逃げる隙も与えぬまま全身を緊縛した。


「ふっ、結局貴方も悪側じゃ無いですか。人間二人を肉壁にして、最後には疲弊した私を狩るんですね」


 影の鎖で全身を硬く縛られたフレヤは一切身動きが取らずに居たが、超越者と言う自信から来る余裕の表情とディストラを捉える桔梗紫の鋭い眼光だけは失わずに居た。


「言ったでしょう? 私は陰の者、自ら功績を上げるつもりはありませんよ。そして、犠牲者を出すつもりもありません」


 ディストラの言葉に呼応する様にお姉さんイケボが呟かれる。


「あぁ、その通りだ……」


 リサが地面無き影の世界で両足を力強く踏み込んだ。

 足を踏み込んだ瞬間に空気は揺れ、紫色の魔力が一瞬にして広がる。


 程なくして、薄暗い影の世界の色と紫色の魔力が合わさって黒紫色の景色に染まった。


「全ての人が思い描く悪を滅ぼす空想、確かに受け取った」


 リサの背後には、様々な色をした淡い光を放つ魂の様な物がリサを囲む様に半円状に出現し、次々と灯が灯っていく。


「悪の座に居座る超越を引き摺り下ろし、教えてやろう。空想に限界等無いと!!」


 リサの咆哮に反応した魂達は、引き寄せられる様にリサの持つ白い刀身に吸収された。

 吸収された魂達は、白い刀身内部から漏れ出る光で影の世界を照らしている。


「な、本当に斬るつもり!?」


 フレヤは慌ててフィオナから離れようとするが、時既に遅し。

 引力を持った巨大な闇の釘がフレヤの内部から体を固定し、それに加えて引力が付与された影の鎖がフレヤの肉体を外側から吸着しながら締め付けて離さない。


 闇の釘は諦め、鎖だけでも解こうと慌てているフレヤに、フィオナがこう話しかける。


「おい、悪魔。超越者が限界を認識したらお終いだぜ?」


 フィオナはフレヤを背にしたまま、イケメンな笑顔を浮かべてリサを待っている。


 そして、遂にリサが剣を振るう。


 リサの払った十人十色の魂が放つ光纏った白い剣がフィオナに触れる寸前、フィオナは全身を白炎で包み込み、白い剣は体をすり抜けて奥で影や闇に縛られているフレヤだけを捉えた。


「空想は現実で起こり得ない事、それを可能にするのが私だ!」


 リサがフレヤを一刀両断した。


「空想を具現化せよ、『空想之世界ファンタジー・オブ・ワールド!!』」


 フレヤは綺麗に腹部を横一線に切り離され、たちまち薄暗い影の世界が白い剣が斬った箇所から、空間が押し広げられる様に白で染まっていく。


「血の要らないこの肉体を両断された所で、余裕を持って再生出来る」


 腹部を真っ二つに切り離されたフレヤは、一切血を流さず痛みを耐える仕草も見せず、自信満々に言った。


「この技は、斬った空間を通して空想を現実世界で具現化していく。世界全体に影響を与えるんだ。これまでの様に、ただ生物が産み出し、空想世界に蓄積されたエネルギーをぶつけるのとは訳が違う」


 リサがそう言い終わる頃には、影の世界全てが白に染まった。


「この世界の空間全てが、影と闇から反転して光と成ってる。お前が超越者でも、悪魔である以上この苦境を打破する事は出来ないだろ?」


 真っ白な景色へと変貌した影の世界で、内側から光を放出しながら体にヒビが入っていくフレヤ。

 そして、その姿を見ている全身を白炎で守られているディストラ。


「強さを得る方法に善悪等関係ありません。結局は結果が一番大切なのですから……」


 悪魔を拒絶する真っ白な世界で彼と二人の人間が自身を静かに見つめている光景。

 それが虚無感を抱いたまま、手や足先と言う体の末端部分から煙の様に消滅していくフレヤが見る最後の記憶となった。


「超越者の魂を持っていながら魔王の下、あるいは誰かの下に属している時点で、この日が来るのは避けられない運命だったのかもしれませんね」


 フレヤは超越者では無く、敗北者に似つかわしいか細く震えた声と哀愁漂う表情をディストラ達に向けながら、塵一つ残さず完全に消滅していったのだった。

 そう、これまで幾度と無く姿を消していた時と同じ様に。


 数秒後。

 真っ白な景色は、リサの剣が斬った空間から再び薄暗い影の世界へと戻っていく。


「リサ様、フィオナ様、お疲れ様で御座います」


 ディストラは薄暗い景色に戻った影の世界で背筋を正したままリサ達に頭を下げて敬意を示した。


「ディストラさんもお疲れ様です」


 リサは白い剣を鞘にゆっくりと収めながら何処かぎこちない笑顔で言った。


「私達二人だけじゃ越えられなかった」


 そう言うフィオナは、自身を包んでいた白炎を振り払いながら疲れた表情を浮かべている。


 疲れを隠しきれていない二人を見て、ディストラは和やかな微笑みを浮かべながら話し始める。


「それにしても考えましたね、リサ様。この世界に充満している影と闇の力を反転させて、私達魔族に極めて有効な光属性の魔素で満たすなんて。てっきり、空想の力で産み出す光で屠るものかと」


 ディストラの話を聞いたリサは、両腕を思いっきり上に上げて伸びをしながら答える。


「それも考えたが、せっかくの舞台だ。戦場で使える物は全て使って完全勝利を掌中に納めよ。これも、君の主であり、私の遠い昔の主から頂いた教えだ」


 煌めく赤髪ポニーテールを揺らし、澄んだ青い瞳でディストラを見つめて、リサは優しい口調で話した。


「そうですか……。あの人は、昔から頂点に立っておられたのですね」


 ディストラは純粋な崇拝の眼差しで影の世界の上空を見上げている。


「あぁ、遠い人だよ」


 リサもディストラに次いで上を見上げる。


 しばらく沈黙が続いたが、ディストラとリサから漂う空気に耐えきれなくなったフィオナは恐る恐る口を開けた。


「あのー……。私達は外の世界での戦いが終わるまで待機するだけ、だね」


 そう言ったフィオナは疲れているからか、甘えたがりで可愛らしい素のフィオナが若干出た感じの声を高さと抑揚のつき方になっていた。


 こうして、影の世界で繰り広げられた陰の者と二人の人間最強VS妖艶悪魔の超越者による戦いは幕を下ろした。

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