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雷鳴の猫王と勇者達の旅路〜猫の獣人に転生した中二病、勇者達を魔王の元まで導かん〜  作者: 一筋の雷光
終極編

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181 陰の者VS超越者

 ガルノの高笑いの後、暫くの沈黙が訪れる。


 それを利用して、ライトニングは深く深呼吸をしてからアンナ達にこう伝える。


「お前達はよくここまで我を支えてくれた。手を掴むのも背中を押す言葉なども不要。ただ信じて隣に居てくれ、我が絶対的最強であると」


 ライトニングは、緩やかな夜風で漆黒のフードを靡かせ、絶対的自信に満ち溢れた鋭い目付きでナハトを睨みながら言い放った。


 それを聞いていたアンナは、ゆっくりとライトニングに近づいていく。


「当たり前でしょ。もう絶対に、私を置いて遠くになんて行かせてあげないから」


 右手と自身の左手で恋人繋ぎをし、フードの中にある顔を覗き込む様にうっとりとした表情で上目遣いをしながら、暖かくて穏やかな黄色い瞳で真っ直ぐ目を見つめて言った。


「ライトニング様の強さは私が一番理解しております」


 ライトニングの左側に居るディストラは、誇らしげな表現を浮かべながら落ち着いた口調でそう話した。


「ちょっと! 私が一番なの! いくらディストラさんでも、そこは譲れない」


 アンナは慌てた様子でライトニングの背中側に上半身だけを向けて不満そうに言い放った。


「そうでしたね。すみません、アンナ様」


 ディストラもライトニングの背中側に上半身だけを乗り出して、アンナと顔を合わせながら落ち着いた雰囲気のまま謝罪した。


「後ろはボク達が片付ける。今までで一番の夜明けを見に行こう」


 ノアは前に出ていき、ライトニングと目を合わせること無く、クールに言った。


 その後、ノアは再び『混沌虹雷形態カオス・サンダーパラダイス』を発動し、色々なインナーカラーが入ったウルフカットの白髪が漂う黒雷による静電気で少し逆立ち、カラフルな瞳は白い魔力を帯び始める。

 そして全身も、再びツカサを除く虹雷剣それぞれの魂之力(ソウル)の色に光り輝く魔力が包み込んでいる。


「我の夢はまだまだ先だ。それでもナハト、お前の魂が破滅する終極を迎えたなら、それがこの世界の黎明となる。永遠の夜など無いんだ、誰かが望んでなかろうとも、太陽は勝手に世界を照らしてくる」


 ライトニングが漆黒の剣を鞘から抜いたのを見て、アンナとノア、そしてディストラは完全に臨戦態勢へと入る。


 それを見て、ナハトとディヒルア、そしてガルノは嬉しそうに笑みを溢していた。


「眩しいよな……。恨めしいよな! 我らには出来ぬ生き方だ……」


 ライトニングがセンチな気分を漂わせながらそう言っていると、突然マゼンタ色の雷が後ろで光り、魔力を感じたライトニングは素早い剣技で何かと漆黒の剣を衝突させた。


「私達に太陽は要りません。ナハト様と言う月が有れば十分なのです」


 耳元に妖艶な声が囁かれた瞬間、ライトニングは誰かに喉元を掴まれている感覚に襲われた。


 ライトニングが首を誰かに掴まれて直ぐ、元凶は姿を現した。


「どうなってる?」


 ライトニングがポーカーフェイスで聞くその先には、マゼンタ色の雷で宙に浮き、尻尾で掴んだ槍でライトニングの剣を受け止めながらライトニングの首を両手で締めていたのだ。

 それも、ただ両手をライトニングの首に伸ばしているのではない。

 前腕から先を切り離し、幾つもの線と成ったマゼンタ色の雷で上腕と繋ぎ止めているのだ。

 そして、切り離された腕から血は一切出ていない。


「超越者に人体の理屈等、意味を成さない」


 フレヤがそう言った後、体から切り離された両前腕はマゼンタ色の雷へと変化し、ライトニングの体へと吸収される様にして入って行った。


「私の体は何で構成されてるのでしょうね?」


 不気味に笑うフレヤが魔力を両腕に込めると、失った両前腕は見る見る内に生えてきて、次第に完全な状態へと回復した。


 少しして、フレヤが変わらず不気味な笑みを浮かべてライトニングを見つめていると、影が一瞬にして大波の様な勢いで、ライトニング諸共フレヤを呑み、ドーム状に固まった。

 その影は上方向にだけ凄まじい引力を帯びていて、上空の空気を吸い込んでいる。


「『影之門(シャドウゲート)』。フレヤ、ライトニング様は安易に隙を見せるお方ではありませんよ」


 ディストラは、ライトニング諸共呑み込んだ影に語りかけた後、スッと己の影の中へと溶ける様に消えて行った。

 それから少しして、目で追えぬ速さでライトニング諸共呑み込んだ影の中に二つの影が吸い込まれて行った。


 数秒後。

 ライトニングが影から解放されると、目の前には既にナハトとガルノが接近してきていた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ここは影の世界。

 薄暗く、光が殆ど入ってこない世界。


 そんな世界に引き摺り込まれたフレヤは、全身からマゼンタ色の雷を放出して辺りを照らしていた。


「貴方が相手してくれるのね。元、名無しの魔将軍さん」


 やや興奮しているのか、フレヤは舌舐めずりをして笑っていた。


「私の名前はディストラです。ライトニング様から頂いた名前なのでとても気に入っています」


 興奮気味のフレヤとは真逆に、ディストラは冷静な口調で話す。


「へぇ〜。新しい居場所だけで無く、名前まで貰ったの」


 フレヤは尻尾を巻き付けている青い槍にマゼンタ色の雷を纏わせて戦闘体制に入る。


「はい。ですので、私はディストラの名を背負って一生をライトニング様に捧げると心に誓いました。ですが、貴方がこの名前を覚える必要はありませんよ」


 そう淡々と言ったディストラは、表情一つ変えずに全身から闇のオーラを放出した。

 闇のオーラを放出しているディストラが攻撃を始める。


漆黒之影大鎌(ノワール・シシェル)


 ディストラが呟いた瞬間、影の世界全てがフレヤを襲う。

 影の世界に充満している影は、何処からともなく大鎌の刃へと実体化してフレヤへ迫る。


 大鎌の刃は、超越者であるフレヤが感知する前に実体化されて斬撃が如くフレヤ目掛けて飛んで行く。

 たちまち薄暗い影の世界は、無数に飛ぶ大釜の刃による空を斬る軽い音に満たされる。


「凄い自信ね。私がその気になれば、この場から抜け出すなんて造作も無いのは知ってるでしょ?」


 フレヤは影の世界を泳ぐ様に移動し、影から実体化した無数の大鎌の刃の間を潜っていく。


「だけど、貴方は私達魔王軍の裏切り者。私が罰を与えるから、素直に受け入れて頂戴。貴方の心にもほんの少しぐらい罪悪感が残っている筈だよね?」


 フレヤはお姉さんな口調で上からものを言った。


「元魔将軍である私を裁けるとしたら、それは魔王の地位に鎮座出来る者だけ……。超越者だからと言って傲慢の椅子に座り続けていれば、いつかは地べたにひれ伏す事になりますよ。まあ、それが今日なんですけどね」


 ディストラが笑顔でそう言うと大鎌の刃の雨が止み、フレヤの背後に突如として引力を持つ巨大な闇の釘が現れた。


漆黒之闇縛釘(ノワール・ナーゲル)


 薄暗い空間に木霊する恐ろしい声に応える様に、闇で形作られた巨大で悍ましい漆黒の釘はゆっくりとフレヤに近づいていく。


「これは闇の力? それにこんな強力な引力今まで感じた事無い」


 フレヤは何とか逃げようと前に体を傾けて泳ぐ様に逃げようとするも、闇の釘が持つ引力によって、徐々に背中部分の着物へ釘先が食い込んで行く。


「影も闇も縛る力があります。例えどんな自由な者もこれらから逃げ仰る事は出来ないでしょう」


 ディストラの放つ屈託の無い笑顔を見ながら、無情にも闇の釘が背中に突き刺さっていくのをフレヤは受け入れるしか無い。


「そして闇は、暗ければ暗いほど引力が増す。影の世界の闇は、格別ですよ」


 ディストラは自信満々に言い放つ。


「勝ち誇った顔をして……。名も無かった日陰者が、超越者に勝ち得ると思っているんですか?」


 フレヤは背中に闇の釘が刺さって尚、余裕の笑みを浮かべている。


「私は、既に超越者の陰として生き、越えるべき目標とする事を心に決めています。そんな私が、かつて肩を並べた者に臆している暇などありません」


 薄暗い世界の中、闇を纏った悪魔の男が殺意の籠った視線で悪魔の女を突き刺す。


「理解など出来ずとも、全てを縛り、飲み込み、破壊して見せますよ。ディストラの名に賭けて……」


 そこまで言ったディストラは、一度気持ちを落ち着けて、冷静な口調で再び話し始める。


「ただ貴方の言う通り、私は陰の者です。自ら敵を倒し、功績を挙げるなど美徳に反する。貴方を屠るのは人間ですよ」


 ディストラがそう言いながら前方側の上へと視線を向けた。


「あのまま終われる訳が無い!」


「その魂之力ソウル奪わせてもらう!」


 勇ましい声の元には、手に持った武器に魔力を込めながら隕石の様に迫力満点なスピードで落下するリサと二色の炎の翼を生やしたフィオナの姿があった。

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