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雷鳴の猫王と勇者達の旅路〜猫の獣人に転生した中二病、勇者達を魔王の元まで導かん〜  作者: 一筋の雷光
終極編

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180 あの日感じた運命の雷鳴

 景色は一瞬にして様変わりし、とある銀行の中へと変わっていた。


 銀行の中には、多様な武器を手に持って目出し帽で素顔を隠した強盗が六人いる。

 その視線が見張るは、ロープで両手を後ろ手に拘束されている人質や銀行員が数十人地べたに座らされていた。


 ライムとディヒルアは、人質達が集められている所に立っている。


 そんな銀行の中に、怒号が響き渡る。


「あ〜もうイライラすんな! 後十秒でその袋に詰め終わらねぇと、このガキを撃つぞ!」


 銃を見せびらかしながら怒鳴るガタイの良い男の太い腕には、白髪ショートに色白国際児な見た目をした小さな女の子が抱えられていた。


 銀行内には冷たい空気が張り詰めていた。


「ママー。助けてー」


 女の子は足をジタバタさせながら叫ぶ。


「おい、ここって……」


「あぁ。主の転生するキッカケ、心臓を鉄の塊で撃ち抜かれた場所じゃ。同時に、妾と主の運命が混じり始めた場所でもある。静かに見ておれ」


 ディヒルアが淡々とそう言うと、時間が早送りの様に進んでいき、突然窓が割れた。

 

 そして、冷たい空気が張り詰める銀行に一人の男が降り立った。

 銀行に居る者全員が視線を向けると、そこには猫の仮面を着けている高校生ぐらいの男子が居た。


 それは紛れも無く、影先(かげさき)夢芽(ゆめ)である。


 夢芽は鉄の棒を捨て、一瞬の躊躇いもなく、銃を持っている大男に抱えられている女の子の元に走った。


「この時の心境はハッキリと覚えておる。この時の妾は娘を守れぬ不甲斐なさで胸が締め付けられて絶望の淵に立たされておった」


 ディヒルアが話している間に事は終わっていた。

 夢芽は大男から女の子を取り返して大男は床で鼻を押さえながらのたうち回らされていたのだ。


 大男がやられる瞬間を見ていた強盗は、全員慌てて銃を夢芽に向ける。


「お前は誰だ!」


 近くに居た一人の強盗が声を荒げて言った。


 それを聞いた夢芽は、外から見ても仮面の下で嗤った様に見えた。


「じゃが、本来の力の末端にすら触れられぬ様なか弱き少年に妾の心は照らされた」


 ディヒルアがそう言い終わると、夢芽は自身に向けられている銃口を意にも介さず女の子をゆっくりとした足取りでお母さんの元まで優しく届けた。


「妾は、絶対的力などなくとも、己の強さを信じて悪に立ち向かう男に惚れた。猫の仮面を付けた男の勇姿を見たあの日、運命の雷鳴が妾の心を揺らしたのを感じたのじゃ」


 そう言うディヒルアは、感傷に浸る様に顔を上げており、赤黒い瞳は涙ぐんでいた。


「いや、そんな告白みたいなセリフ言われても。お前が誰なのかふんわりとしか検討が付いてない状態で、僕はどういう反応すればいいんだよ」


「まだ察しが付いておらんのか? なら、こう言おう……」


 ディヒルアは神妙な面持ちでライムを見つめてこう言う。


「あの時、命を賭して心結(みゆう)を助けてくれた事感謝する。絶望神の力が無いと娘もろくに守れないなんて無様じゃな」


 ディヒルアは、金色のメッシュが入っている腰まで伸びた艶やかな白髪を手で優しく弄りながら


 その後ろでは、夢芽が強盗を投げ飛ばして決め台詞を吐いていた。


「娘……。ってことは!」


 ライムがディヒルアを見ながら目を見開いてそう大声で言った瞬間、銀行内に一発の銃声が響いた。


「そう、妾の地球での身分は心結(みゆう)の母親、じゃ。地球では、絶望神という身分を捨てて普通の暮らしをする為に自ら力を封印しておる」


「そうか、あの娘は心結(みゆう)って名前なんだな」


 ライムは照れくさそうに笑いながら、夢芽が倒れている場所にゆっくりと歩いていく。


「あん時は、警察も突入できない状態だった。当然、銀行内に居る人にあの女の子を助ける心の余裕なんてある訳が無い」


 ライムは夢芽の体にそっと手を触れながら、先程までとは違うフランクな雰囲気でディヒルアに寄り添う様に話し始めた。


「あの場で動けるのは僕しか居ないと思ったんだよ。その時の僕がただ中二病の妄想を現実にしたかっただけなのか、ヒーローみたいにただ助けたい一心での行動だったのかは覚えていない」


 ライムの話しを聞いていたディヒルアも、段々気の緩んだ表情でライムの話しに耳を傾けている。


 そうしている間に、銀行内には警察官が大量に突入してきて強盗全員を取り押さえて人質達の無事を確認していた。


「でも、助けた女の子が今も無事に生きているなら、あの時の選択は無意味じゃなかった、そう思える」


 ライムは感傷的になり、悲しくも嬉しそうな表情で自分の遺体を見つめている。


「主の両親や主の葬式についてだが。主の両親は息子を失ったショックは消えていないものの、健康に毎日を送っておる」


 ライムを見て、ディヒルアはおもむろな表情で語り始める。


「主の葬式には、妾も娘を救って貰った身として参加したのだが、両親や祖父母は勿論、親戚全員が参加をしておった。遺体は無事に火葬され、骨は綺麗な状態で墓に埋められたとも聞いたのじゃ」


「そうか。死んだ後の体の行く末が大体決まっているとは言え、知るのは何か複雑だな。でも、教えてくれた事には感謝する」


 ライムはそう言いながら立ち上がる。


「後、地球に居る両親の現在を知れたのも良かったよ……」


 ライムはディヒルアから顔を逸らしながらも感謝を伝えた。


「そうか、ならもう一度聞こう。主よ、妾と一緒に地球での暮らしに戻らぬか?」


 そう提案するディヒルアは、少し顔が明るくなっていた。


「妾の力ならば、お主の死をも無かったことに出来る。妾の夫は主と趣味嗜好が似てるのじゃ、家族絡みの付き合いも悪くはなかろう」


 ディヒルアは優しい声色でライムに話しかけている。


「ん? そう言えばディヒルアって既婚者か。それなのに、他の男を愛しい人とか言って良いのか? こりゃあ旦那さんが知ったら僕が怒られるな」


 ライムは苦笑いを浮かべてディヒルアの方を振り向いた。


「大丈夫じゃ。愛しいと言っても、主に対しての愛しいは子供に向ける物だからの。妾の男としては、旦那の方が何倍も魅力的じゃ」


 ディヒルアは裾で口元を隠して、妖艶な雰囲気で言った。


「そりゃあ良かった。人間じゃ無い絶望神様にも倫理観と言う物が存在してて」


 ライムは鼻で笑ってそう言った。


「そう言う物を理解する為に、地球で暮らしてるからの」


 暫くの沈黙が姿の後、空気は一変する。


「話しを戻すが、ディヒルア。今の僕はこの世界に生きてる。一回終わりを迎えた世界に帰る為にこの世界に居る仲間と離れる事は出来ない」


 そう話すライムは、ゆっくりと右手を挙げた。

 その手は、指パッチンの準備をしている。


「この戦いにあやふやな結末は要らない。そうだろ! ノア!!」


 そう叫ぶと、右手に膨大な黒い魔力が収束し始める。

 魔力が一点に集まる際に起こる風と轟音で、ライムの黒と金に輝く髪が激しく靡く。


「この世界は、地球の一部分しか模倣していない。なら、この技で充分。『黒雷之超新星爆発スーパーノヴァ・ライトニング』」


 ライムが指を鳴らすと、ディヒルアが作った偽の地球の空間は、大気の揺れの広がりと共に漆黒一色に染め上げられ、時空もろとも消え去る。


 その筈だった。


「無限のエネルギー相手じゃ一回破滅させても意味ないのか?」


 ディヒルアは平然と立っており、空間は見る見るうちに修復されていっていた。


 そんな中、時空の裂け目から聞き馴染みのある声がライムの耳に届く。


「雷剣、ホノカぷらすユキネ! 『聖炎之極冷冬爆散ウィンター・オブ・ザ・フレアブレイブ!!』」


 程なくして熱波の赤と冷気の白い光が時空の裂け目を押し広げ始める。


 数秒後。

 ライムとディヒルアは混沌の世界に引き戻された。


「信じてたぞ、ノア」


 姿が元に戻ったライトニングは、不敵な笑みを浮かべながら立ち上がる。


「もう少し遅かったら、ボクがナハトを倒すところだった」


 威勢のいい態度でそう言い放つノアは、ついさっき『創星黒爆雷覇リバイブ・ザ・ライトニング』で回復したのにも関わらず、服はボロボロになり、体中に切り傷を大量に作っていた。


 その少し先には、余裕の笑みを浮かべているナハトが立っている。

 ガルノは悪い笑顔を浮かべて瓦礫の上に座っているが、フレヤの姿は見当たらない。


「タリア達やサリファの様子はディストラさんが見に行ってるわ」


 アンナは小さな声で心配そうに言いながらライムに歩み寄った。


「ライトニング様、申し訳ございません。フレヤを見失ってしまいました。ですが、必ずや私があの女を捉えて見せます」


 ライトニングの横から現れたディストラは、真剣な表情で宣言した。


「あぁ、頼んだ。あの無法悪魔、お前の闇の中へと引き摺り込んでやれ」


 ライトニングはニヤッと笑ってディストラを頼りにしている事を暗に伝えた。


「はっ、必ずや皆さんの邪魔はさせないと誓いましょう」


 ディストラは上品な所作で頭を深々と下げてそう言った。


「やっと帰ってきたか! んじゃ、もっともっと、気が済むまでとことんやり合おうぜ!!」


 ガルノは高笑いしながら大声で言い放った。

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