表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷鳴の猫王と勇者達の旅路〜猫の獣人に転生した中二病、勇者達を魔王の元まで導かん〜  作者: 一筋の雷光
終極編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

180/192

178 貴方の剣として

エスメが己の無力さに打ちひしがれている間にも、息を呑む暇の無い混戦は続いている。


 数秒の間、上空から降り注ぐ白雷の隕石群と、それに下から向かっていく様々な属性を持った無数の藍色の玉が断続的に衝突し合い、ディヒルアはそれをまるで花火を見ているかの様な楽しそうな表情で静かに見上げていた。


 一方エスメは、女の子座りになって虚ろな顔で下を俯いたまま、アンナに負わされた首の火傷跡を隠す様に優しく右手で触っていた。


 そんなエスメに、リサとフィオナが一回目の奇襲の時と同じ技を用意しながら遠くの方から襲い掛かる。


「今度こそ!」


 フィオナは力一杯白い大剣を振り上げて白黒の炎の翼で羽ばたきながらエスメの左側から近づいていく。


「確実に!」


 リサは、紫色の激しく波打つ魔力を白い剣に纏わせ、鬼の形相でエスメを睨みながら右側から走って近づく。


 二秒後。

 フィオナの方が若干早かったが、殆ど同タイミングで技名を叫ぶ。


死誘之別世界炎地獄タナトス・ザ・スケルトンインフェルノ!!』


崩壊之空想ファンタジー・ザ・コラプス!』


 リサとフィオナがエスメを技の射程内に捉える少し前、リサの方からフィオナの所まで一気に一筋のマゼンタ色の雷が駆けて行った。


 その(かん)一秒にも満たず、リサとフィオナは視界で何か光ったと言う事しか認識できなかった。


 そして、ほぼ時が静止している時間軸では、この時だけ姿を露わにしたフレヤがリサ達のことを見てほくそ笑んでいた。


 時間軸は正常な物に戻り、フレヤは再び姿を消す。


「っ! 口だけ動く、何だこれは」


 エスメを目指して二色の炎の翼を羽ばたかせていたフィオナは、宙で体の動きが停止している。


「その雷痕、誰かに触れられたのか?」


 そう言うリサの視線の先、フィオナの発達の良い大きな左胸にマゼンタ色をした十字星の雷痕が刻まれていた。

 雷痕は、胸元の開いた白い隊服を着ているせいで余計に目立っている。


 一方リサは、ポニーテールで露わになっている頸に十字星の雷痕が刻まれていた。


「何も理解できぬまま、飛んで行きなさい。『超越之空間トランセンド・ユニバース』」


「どんどん空へ浮いていく。重力系の魂之力(ソウル)も駄目だ」


 エリー! どうしよう、どうしよう。

 私、このまま宇宙まで行って死んじゃうの!?

 怖いよー、エリー!!


 リサとフィオナは、そのままどんどん空高く上昇し続けていき、次第にライトニング達が目視できぬ高さにまで飛んでいってしまった。


「エスメ、貴方はナハト様の大事な戦力よ。絶望してる暇なんか無いでしょ?」


 フレヤはエスメの近くに姿を現し、優しく言葉を掛けた。


「フレヤ、ごめん」


 エスメは下を俯きながら覇気の無い声色で小さくそう言う。


「エスメ、立て。お前はオレが死ぬまで戦い続けろ。そうすれば、オレの隣に居られる。いや、居てもらわないとオレが困る」


「ナハト様……」


 今ので否が応でも分かっちゃった。

 ほんっとうに認めたくないけど、魔王軍側で一番狙われてるのは私。

 近距離戦が出来ないんだから仕方ないわ。

 私、ナハト様の邪魔だ……。


 自己肯定感が最低まで下がったエスメは、重苦しい溜息を吐いた後、低い声のトーンで淡々と呟き始める。


「ナハト様に守られる人生最高な至福の経験をしてしまった……。もう、悔いは無い」


「おい、何ぶつくさ言ってんだよ」


 エスメのボソボソ声が聞こえたガルノは、ライトニング達を警戒しながらエスメに聞いた。


 が、返事が返ってくることはなかった。


「ナハト様!」


 エスメは急に顔を上げてそう叫んだ。


 エスメを心配していたガルノは、無視された事実とエスメの感情の起伏に驚きつつも呆れた表情を浮かべ、再びライトニング達だけに意識を向ける。


 一方、エスメに呼ばれたナハトは優しい表情でエスメと目を合わせた。


「私の全て、ナハト様に託します! ナハト様と共にエスメは歩みたい。そこが地獄でも……、貴方の剣として一生を添い遂げたい!!」


 唐突にエスメの口から発せられた告白の言葉に、フレヤは少し口角が上がる。


 そして、告白を受けた当の本人はと言うと。


「嬉しい言葉だな……。ならエスメ、オレもお前と共に戦い続けよう。その為に、先ずはこの戦いで魔王軍に勝利を捧げなくてはな」


 ナハトはすんなり告白を受け入れて、闘志に燃えた鋭い視線をライトニングに向けていた。


「フレヤ、私の考えている事、超越者の貴方ならお見通しでしょ?」


「エスメと言う存在が世界を鼓動させる時、側にはいつもナハト様が居た。ナハト様にもそうあって欲しい……。フレヤ、私の血と魂を全部使って、私をナハト様の剣にして!」


 エスメが必死にフレヤに訴えると、フレヤは仕方なさそうにエスメをマゼンタ色の雷で包み込んだ。


「いきますよ。『超越之変化フリーダム・クリエイト』」


 フレヤがそう言って技を発動しようとした瞬間、ライトニングがフレヤ達の前に現れる。


「妙策、潰しておくに限る。『魂斬之無限黒雷斬撃アンリミテッド・オール・スラッシュ』」


 ライトニングは無限の斬撃をフレヤとエスメに浴びせたが、二人に傷を作る事はできなかった。


「斬れない!」


 ライトニングが信じ難い現実に驚愕して固まっていると、後ろから肌を裂く突風が押し寄せてきていた。


「邪魔すんじゃねぇよ! 『紅蓮激情之突風(クリムゾン・ブラスト)!!』」


 ガルノは、拳が纏っている風すらも置き去りにす蹴りを放ち、銃声の様な爆発音が轟く。


「くっ!」


 ライトニングは持ち前の戦闘センスと反射神経で何とか漆黒の剣でガルノの拳を塞いだものの、速さだけに特化したガルノの技にノアの居る場所まで吹き飛ばされてしまった。


 一連の流れを見ていたナハトが、口を開いてガルノへ向けて嬉しそうにこう言う。


「ガルノ、やるじゃねぇか」


 ナハトは不敵な笑みを浮かべながら、天に向けて右腕を掲げる。


「オレも、エスメの覚悟を邪魔させるつもりは無い。『絶望神之無限金雷雨グレンツェンロス・ゴルデンドナーレーゲン』」


 ナハトがゆっくりと右腕を下ろしていくと、夜空には星々の様な金色の雷で出来た隕石が幾つも出現し、ナハトの右腕が完全に降り切って静止すると同時に流星群として面影の殆ど残っていない魔王城を襲い始める。


「行かせないつもりか。ノア、合わせろ!」


 ライトニングがノアの立っていた場所を振り向くと、既にそこにノアは居なかった。


「遅いんじゃね? ライトニングが合わせろよ!」


 『混沌虹雷形態カオス・サンダーパラダイス』状態のノアは、軽やかな身のこなしで金色の雷で出来た流星群の中を駆けていく。


「煽っているのか?」


 ライトニングは嬉しそうにニヤけた後、剣を鞘に収めて姿勢を極限まで低くして抜刀の構えを取った。


 姿勢を低くしたライトニングの元に、漆黒の雷が落ちる。


 そして、轟々たる雷鳴と共に漆黒の雷で作られた獅子がライトニングに宿る。


「王の道を阻める物無し! 『獅黒(しっこく)迅雷っ!』」


 再び壮大な雷鳴が鳴り響き、ライトニングとライトニングに宿った漆黒の雷獅子が、流星群の中へと飛び出していく。


 ライトニングに宿った漆黒の獅子は、金色の雷で出来た隕石が衝突しても怯む事なく、全てを押し除けながら覇道を突き進む。


 数秒後。

 ノアとライトニングがエスメ達の元へ到達した。


 ノアはガルノの前で止まり、ライトニングはフレヤの後ろに移動して黒い雷獅子を使って挟み込んでいる。


「雷剣、ライトニングぷらすアンナ! 『万雷烙印(スティグマ)』」


 ノアはガルノの近くまで一気に距離を詰め、反応される前にガルノの右手首を黒雷纏った右手で強く握って放電した。


「逃げられぬ暗闇。『獅黒(しっこく)暗影一閃(あんえいいっせん)』」


 そう言った後、ライトニングは漆黒の雷で自身の姿を模倣した分身を素早く作って姿を暗ます。


「雷鳴スタイル、風祭(かざまつり)雷霆(らいてい)


 分身の方から低い声がフレヤの鼓膜に届く。


 フレヤは分身の方へマゼンタ色の雷に包まれた槍を持っている尻尾を伸ばして分身を突き刺した。


「それは空蝉(うつせみ)の存在、『虚構の黒雷』だ……」


 フレヤの真正面に現れたライトニングは、黒雷纏った右拳を強く握りしめていた。


「雷鳴スタイル、アシュラ。『奥義、闇夜の黒き一閃』」


 そう言いったライトニングは深く踏み込んだ姿勢で拳を構え、漆黒の雷が全身を覆い尽くし、夜の暗さも相まってその場にいる者は、ライトニングの姿が殆ど見えなくなっていた。


 次の瞬間、黒い閃光が魔王城一体を包む様に一気に広がる。


「ちっ、これほど撹乱しても当たらぬか」


 空を殴ったライトニングが見上げる先には、余裕の笑みをこちらに向けるフレヤが全身にマゼンタ色の雷を纏っていた。


 そして、そんなフレヤと手を繋いで浮いているエスメもまた、全身をマゼンタ色の雷で包まれている。


「今から貴方は剣になりますが、意識は残ります。ナハト様の動きに合わせて血の棘を剣から伸ばし、毒神(アダプン)の力で一緒に戦ってあげて下さいね」


 フレヤが優しく微笑みながら言った後、エスメの体に変化ぎ現れ始める。

 エスメの肉体は溶けていくアイスの様に液体状に変化していき、それと共に体全体が赤黒く変色した。


 それを見て、アンナは高笑いを上げる。


「ふ、あはは、言ったでしょ? 私達は、貴方達を決して許しはしないって。幸せな気持ちだけを抱いて、好きな人の側に居られるなんて思わないで!」


 耳は完全にイカ耳状態になり、握った拳は震えている。

 いつもはしなやかに揺れる尻尾は真っ直ぐと伸びて激しく揺れて毛も逆立っている。

 怒りの感情籠った声色で放つ言葉は空気を凍りつかせ、殺意の乗った瞳孔が開き切っている黄色い瞳からは、視線だけでエスメの心臓を貫かん勢いを感じ取れる。


「は?」


 低く怒りの籠った声を発したエスメはどんどん変化していっており、もはや体は限界を留めていない。


「私の技量じゃ、魂之力ソウルを破滅させるなんて御業は出来ないけれど、貴方の意識を破滅させる事は出来る」


 そう言ったアンナは、少し落ち着いた様子だった。


「貴方が剣になっても共闘は出来ない。貴方はただの武器になるのよ。だから、魂之力ソウルが剣に宿ったとしても、貴方は完全に死ぬことになるわね」


 アンナは煽る様に鼻で笑った。


 自身が置かれた状況を理解したエスメは、狂った様に大声でアンナにこう罵声を浴びせる。


「っ! この、クソ女ァァ!! 絶対ぶっ殺してやるっ! 耳も尻尾も、全部! 全部ぐちゃぐちゃにしてやる! 獣人が感じる痛み、全部味合わせてやる!!」


 その姿を見て、アンナは軽蔑の視線で見下しながら、追い討ちとして上品な口調、声色でこの言葉をエスメに送る。


「あら、愛する人に聞かれる最後の言葉が暴言だなんて。可哀想ね」


 そう言ったアンナは、月明かりに照らされてまるで天使の様な風貌をしているが、表情は悪魔と言っても過言では無い悪い笑顔を浮かべていた。


 数秒後。

 エスメは完全な剣へと変貌し、フレヤの両手の上で丁寧に寝かせられている。


 深緑色の柄に二方向へギザギザ状に伸びたエメラルドグリーンの鍔。

 鞘は赤と黒の二色に染まり、剣全体から毒々しさが溢れ出ている。


「フレヤ、エスメをくれ」


「今、お手元にお届けします」


 フレヤは両手を前に突き出して剣を捧げる。


 ナハトは赤黒い剣を受け取り、腰に携えた。


 そして、剣を鞘から抜き出して赤黒い刀身を眺めた後にこう呟いた。


「オレが、あの女をこの剣でズタズタに斬り殺す……。エスメの分も含めてな」


 その視線は、当然アンナに向けられている。


「フッ、その前に我が魔王軍を破滅へと導こう」


「我のゴールはまだここじゃないが、この戦いを我の最高地点にしても良いだろう。我も全てを出し切って勝ちを手繰り寄せる」


 ライトニングが漆黒の剣を頭上に掲げる。


 その瞬間、魔王城を中心としたを漆黒の魔力が覆い隠した。


「おいおい、マジか……」


 ナハトは興奮してニヤけながら、空を見上げている。

 そんなナハトを守る様に、フレヤはナハトのそばに姿を現す。


 一方ディヒルアは余裕の笑みを浮かべ、ガルノは冷や汗を流しながら両拳を強く握り込んで警戒している。


広がった魔力は段々と剣先に集まっていき、次第に漆黒の魔力が剣先に全て集約される。


 すると視界は元に戻り、掲げられた漆黒の剣はけたたましい轟音を上げ、漏れ出た漆黒の雷は辺りに散らばっている魔王城の残骸を破壊していく。


 フードの下、禍々しい仮面の奥でライトニングが不敵に笑っている。


「妾は手を貸さぬ。主の手で仲間を守るのじゃ」


 そう言うディヒルアは、金色の光で身を包んでいる。


 一瞬の静寂の後、ライトニングは時間と言う概念すら置き去りにする恐ろしい速さで剣を振り下ろし、黒き一閃が放たれる。


創星黒爆雷覇リバイブ・ザ・ライトニング!』


 低く悍ましい声と共に、斬られた時空は裂けてガラスの様に黒いヒビが広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ