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168 違和感

 時を戻し、現在。


「俺達の暮らしを知らねぇくせに、決めつけてんじゃねぇよ!」


 ステラは怒りに任せて叫んだ。


「兄弟が生きる意味なのは俺たちも同じだ。でも、それで他人に迷惑かけんのは違ぇだろ」


 マーシは冷静な口調で話しているが、その周りては金と黒の魔力が重力で地面を破壊しており、怒っているのが目に見えた。


「その腐った性根、俺が洗い流してやるよ! ま、その前に粉々になってるけど」


「てかどんな理由があろうと、二十六にもなってシスコンが治ってないの……。だいぶイタイよ、お兄ちゃん」


「うぅ〜、兄ちゃんの歳覚えてくれてるんだな」


 セイカは軍服の袖で涙を拭いながら上を向いた。


「あっ! ちなみに、ちゃんと兄ちゃんもホノカが今年で二十歳になったの覚えてるからな。いや〜、小ちゃい時から強気なお姉さんって感じだったけど、更にお姉さんって感じになって、兄ちゃん的にグッドだ」


「今のは普通にキモいぞ」


 ホノカは低い声でそう言い、ジト目でセイカを睨んだ。


「ウッ、今の最っ高」


 セイカは気持ち悪い笑顔を浮かべていて、ホノカに罵倒されたのが嬉しそうだった。


「え? アイツ、そんな年上だったのかよ」


 ライアンは予想外の事実に言葉を漏らした。


「分かる、同い年ぐらいかと思ってた」


 マーシはライアンの方を見てそう言った。


 マーシとライアンの言葉を聞いたホノカは、何かに気付いたのか考え込み始める。


「そうか、何で気づかなかったんだ。明らかにおかしいだろ」


「マーシ君達は私より年下、お兄ちゃんは私より六歳も年上。なのに、お兄ちゃんの容姿はマーシ君達と同い年ぐらい。魔王の血にどんな力があるか全部分かってる訳じゃ無いけど、いくら何でも若すぎる」


 ホノカがそう話すと、セイカは静かに微笑んだ。


「つまり、お兄ちゃんは肉体の時を数年巻き戻し、その状態で止めている」


 ホノカは、セイカをまっすぐ見つめて言い放った。


「いや、それこそおかしいだろ。アイツは戦闘中、何回も自分の体の時を止めたり進めたりしてるんだぞ。巻き戻した状態を維持してるってのは矛盾してる」


 ライアンが疑問をホノカに投げかけた。


「じゃあこう考えたらどう?」


 ホノカは自信満々な表情で話し出す。


「あの纏っている水色の炎は、通常時はお兄ちゃんの体の時間を操作してるんじゃ無く、炎が触れている空間の時間を操作してる。そして、体の傷などを治す時だけ体の時間を操作してる、と 」


「その証拠に、この前大森林で他の魔将軍の時間を早めた時、魔将軍はお兄ちゃんと別の場所に向かった。もし体の時間を早めてるなら、幾ら長寿の魔族でも別行動は躊躇うんじゃないか? そして、時間操作なんて芸当、魔王の血を貰ってるとは言え、人間がそう長い間出来る事じゃ無い。必ず隙がある筈だ」


 ホノカの説明を聞いたライアン達は、納得した様な素ぶりで黙り込んだ。


「流石はホノカ、敵の言葉に惑わされはしないか。賢く育ってくれて嬉しいよ」


 ライアン達が黙り込んでいる中、セイカは大きな拍手をホノカに贈った。


「でも少し違うな」


そう言うセイカの声は少し低かった。


「だって、体の時を止めてたら動けないだろ? だから、お兄ちゃんは年齢と言う概念を巻き戻し、十八歳ぐらいで止めている。そうすれば肉体は若返り、肉体の時間を固定せずに済む。若い体の方が自由に戦えるし、若い外見の方が、再会した時ホノカに思い出してもらえる確率が上がる。だから魂之力(ソウル)を鍛えた」


 セイカは、熱い信念感じる圧を乗せた低い声で話しを続ける。


「時間を早めたり、巻き戻したりする時は、その間ずっと魔力を消費してしまう。でも、時間を固定する場合は、固定する時と解除する時だけの魔力消費で済む。時間が止まってるんだから当たり前だよな」


 セイカはニヤリと笑みを浮かべた。


「ホノカが輝けるなら、俺は脇役や悪役、何にだってなれる!」


 セイカは急にハイテンションでそう叫んだ。


「仕組みが分かったのは良いが、見分けが付かないのと、完全なる不意打ちでしか傷を負わせられない以上、不利な戦況は変わっていない」


 ステラはそう言いながら、自分の影を蛇の様に地に這わせ始める。


「ほんと、神授之権能(ゴットソウル)ってズルいよな。ま、私の魂之力ソウルも負けてない、押し勝つぞ!」


 ホノカは白く輝く刃をセイカに向けて叫んだ。


「ホノカ、勇者は勇気ある一撃で戦況を一変させると言う。期待してるぞ」


 セイカは怪しく微笑んだ。


「俺の原動力(熱源)はお前だ、ホノカ。お前との戦いが俺の出す炎を熱くさせる」


 ホノカを見つめるセイカは、水色の剣と自分自身を覆い尽くしている水色の炎を更に燃え上がらせる。


「私の原動力(熱源)はお兄ちゃんだよ。お兄ちゃんや村の人達との思い出と覆しようの無い真実が、私の(太陽)の温度を急上昇させる」


 ホノカは剣をゆっくりとしたに降ろして目を閉じ、深呼吸をした。


 数秒後。

 深呼吸を終えたホノカが目を開く。


 それと同時に、金色と白に輝く悪滅光爆剣(デストライトソード)は、剣全体が烈日の如き赤き炎へと変化した。


 太陽の炎に変化した剣を持ったホノカは、猛スピードでセイカに接近して上から斬り掛かった。


 セイカはそれを水色の剣で軽く受け止める。


 ホノカの太陽の如き剣は、セイカの水色の炎で時間を止められ、セイカの剣を溶かすことは出来なかった。


「どんだけ早く熱い剣も、兄ちゃんには届かない」


 セイカは、剣越しにホノカに顔を近づけて言った。


 ホノカとセイカが剣で押し合っている中、セイカの後ろには腰を低くして、指と指をくっつけた左の掌でセイカを捉え、後ろに構えた右手で灰色の水を巡らせた白い剣を持っているライアンが居た。


「貫き、壊せ。『灰壊之水圧弾(ジェット・コラプス)』」


 ライアンは、後ろに引いていた白い剣を素早く突き出し、剣先から灰色の水圧ビームを発射した。


「その程度で不意打ちになるとでも?」


 セイカは、ホノカの剣を受け止めながら後ろに居るライアンに余裕の笑みを向けた。


 その瞬間、水色の炎に止められていた灰色の水が烈日の如き炎に変化して空中に散らばってセイカの体に降り注いだ。


 それを見て、セイカは意表を突かれた驚愕の表情を浮かべていた。


 しかし、赤い炎を粒は水色の炎に触れると止まった。


 やはり、体を覆う全ての水色の炎が時間操作をしているのか。


「怯むな! そのまま好きに攻撃し続けろ!」


 ホノカは、セイカから離れる為に後ろに飛びながら、マーシ達を鼓舞した。


 ホノカの掛け声で奮い立ったマーシ達が猛攻を仕掛ける。


「ステラ、援護しろ」


 マーシはそう言った後、水滴の様に地面に落ちて行く黒と金の魔力を体全体に纏わせて、セイカが居る所へ全速力で走り始めた。


 それを見たセイカは、剣と己を包んでいる水色の炎を消し、水色の剣をゆっくりと鞘に収めた。


「これこそ、時間を操る者の戦い方!」


 セイカは星空を仰いでそう高らかに叫びながら、両手を夜天に掲げる。


 そのあと直ぐに顔を正面に戻し、自信に満ち溢れた悪そうな低い声でこう呟く。


時神之燐火混沌雨カオスエージ・イグニスレイン


 その低い声と共に、無数の水色の炎球が空に出現し、白い月と星が照らしていた北東区の空をまるで水色の星々が輝く星空へと染め上げた。


 そして、セイカが両手をゆっくりと下げ、右手を前に左手を後ろにした形で礼儀正しく深いお辞儀をした。


 それに応えるかの様に、夜空に浮かぶ水色の炎球が流星群の様に地面に降り注ぎ始める。


「当たるかよ!」


 マーシは流星群の中を無重力状態でのパルクールをしているかの様な軽い身のこなしで駆け抜けて行く。

 崩壊した瓦礫を飛び越えたり、逆に傘にしたりしてパルクールの様に駆け抜けて行く。


 偶に避けきれない炎の球は、ステラが出した影の蛇が噛み砕いたり、ホノカが烈日の如き炎球で相殺したり、ライアンの灰色の水斬撃で崩壊させたりしてマーシを援護した。


 数秒後。

 マーシがセイカの懐まで潜り込む。


「宇宙までふっ飛べ。『足枷之無重力グラビティ・バードン・ゼロ』」


 マーシはセイカに触れようと、めいっぱい右腕を伸ばした。


 が、当然の様に水色の炎に触れたマーシの右腕は動きを止めた。


「ムカつく力だ」


 マーシは怒りの表情でセイカを見上げた。


 すると、セイカはニヤリと怪しい笑みを浮かべていたのだ。


 マーシが何かと思っていると、自身の腕が少しずつ成果の体に近づいて行っているのに気が付いた。


「アッチ! コイツ、炎が触れている空間の時間をゆっくりにしてやがる」


 マーシは水色の炎から反射的に手を外そうとしたが、勢いを付けて突っ込んだ腕は、ゆっくりになっている時間の中では中々戻って来なかった。


「普段は炎に触れた物の時間を止めたり、味方に使う時には炎の憑依と言う形で物理的な温度を感じない様にしてるからな。この炎も普通に熱いのを俺自身が忘れそうになる」


 セイカは不敵な笑みでマーシを見下している。


「そんな舐めプかまして良いのか?」


 マーシは熱さにある耐えながら、ニヤリと笑った。


 マーシの反応にセイカが戸惑っていると、両脇から影の大蛇二匹が口を大きく開けて突進した。


「喰らい付け!」


 ステラがそう叫んでいる間に、セイカは炎での時間操作を変え、目にも留まらぬ速さで上へと飛んだ。


 ゆっくり流れる時間に右腕が囚われていたマーシも解放され、前に転ぶ。


 その間一秒ちょっと。


 影の大蛇達は止まることが出来ず、マーシとぶつかって影が散り散りになって消える。


「下ばっか攻められたら、咄嗟に上に逃げちまうよな」


 マーシは火傷している右腕を押さえながら、セイカを見上げた。


 セイカはその言葉に反応して、自信の上に顔を向ける。


 そこには、水滴の様に下へ落ちる金と黒の小さな魔力の粒に支えられた、大量の瓦礫や廃ビルの残骸等が空を覆い尽くさん程浮かんでいた。


「お前に近づく為に触れた瓦礫とかを、全部浮かせといた」


 マーシは自慢げに言い放った。

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