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163 ボス戦

 時を数分戻して、勇者パーティーがアビスに敗れて地面に倒れていた頃のラスファート王城正門前。


 そこではシエルとアイ、そしてカルラの三人と少数のナイトサンダーズが、無尽蔵に流れ込んでくるアビスの産み出した魔物達から王城を守っていた。


「カルラは魂之力ソウルを使わずにそのまま遠距離攻撃を続けて」


 シエルは赤雷纏いし黒い剣で魔物を切り伏せ、城門の上から影の矢で援護射撃をしているカルラにそう言った。


 シエルの戦う姿は勇ましく、アイの魂之力ソウルによる白いオーラに包まれた黒基調に黄色が映える雷鳴スーツと赤雷纏いし黒い剣、そして紺色の長髪と瞳が戦場を彩る。


「とりゃとりゃとりゃ!」


 アイは、複数人の進化した獣人達と共に最前線で暴れている。


 白いオーラを纏って一心不乱に魔物を殴り続けるアイの美しく淡い碧眼は、鋭い眼光を敵に向けて怯ませていた。


「敵の数が多いですね」


 カルラは城門の上からそっと降りてきて、シエルに言った。


「そりゃあ、ここの地下に産みの親が居る訳だからね」


 アイは最前線から一旦下がって、魔物達を獲物を狩る肉食動物の様な目で見ている。


「負傷者も多くなってきてる。それに、我らナイトサンダーズはライトニング様直属のサンダーパラダイス精鋭部隊。この魔物達の強さはアビスの力が乗っている筈……」


 シエルは小さくそう呟いた後、考え込んだ。


「どうしましょう。他のサンダーパラダイス戦闘員に増援を要請しますか? 獣人なら遠くからでも直ぐに駆けつけてくれますし」


 カルラは考え込んでいるシエルを見て、咄嗟に提案した。


「いや、今回の作戦では虹雷剣様方やライトニング様にラスファート中央区及び、その他の区の殆どをナイトサンダーズに任されている。その信頼に応えたい」


 シエルは真っ直ぐとした紺色の瞳で前を見つめて言い放った。


「それに、今や世界中が戦火に包まれている。他の所から戦力を削ぐのは得策では無い……」


 シエル達が城門前で考え込んでいると、先の方から甲高く悍ましい咆哮と神々しく煌めく白い魔力が放たれた。


 城門前の戦場は、敵味方関係なく生物全てが動きを止めた。


 暫くすると、丘の下で爆発音が轟き、煌めく白い魔力が荒波の様に戦場に押し寄せてくる。


「総員、集中しなさい! この威圧感、一体今までどこに隠れて……」


 シエル達が丘の下を見ていると、再び悍ましい咆哮が轟いた。


 そして、丘の下から途轍もない威圧感を放つ魔物が姿を現す。


「ギャアァァー!!」


 咆哮の先では、白基調に金色の模様が入っている鎧を全身に装着し、右手には金色に輝く剣を握った体長二メートル程の人型魔物が飛び上がって月下の下更に白く輝いていた。


 人型魔物の全身を守る純白鎧の周りには、白く煌めく炎が揺らめいていて、そんな太陽の如く眩く光る人型の魔物は、まるで太陽神の使いの様であった。


「竜に匹敵する存在感……」


 シエルは怒りの咆哮を放つ白炎纏った騎士の様な魔物を見つめて息を呑む。


 シエルの視線に騎士の魔物が気がつくと、顔の鎧の隙間から殺意を乗せたオレンジ色の瞳でシエルを睨んだ。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 一方その頃、ラスファート北西区では。

 ミア達ロイヤルティーナイトが金色の亡霊達にエミリアへの道を阻まれ続けていた。


「くっ、キリがない」


 ブラントは斬られた首を元に戻しながら立ち上がる腹筋が綺麗に割れた美しい金髪ロングオーガの金色の亡霊を糸目で睨んで苛立ちを見せていた。


「このままじゃ、直ぐに魔力切れになっちゃう」


 リタは赤いハンマーを杖代わりにして今にも座り込みそうな程疲れている。


「やはり、敵の大将を早めに倒す他無い様じゃな」


 シュランは冷徹な視線で二つの工場に挟まれた道の数百メートル先に移動しているエミリアを見ながらそう言った。


「そうね……」


 ミアはゆっくりと右手をエミリアに向けていく。


「皆んな、道を作って。アタシが大将を攻め落とす!」


 ミアは夜風でウェーブショートボブのピンク髪を揺らし、右手で指差したエミリアを碧眼の鋭い眼光で睨んで力強く言い放った。


「承知しました!」


 ガンマはミアの指令にいち早く行動を起こし、斧を構えてまるで鉄塊が迫り来る様な気迫を放ちながら亡霊達に突っ込んで行った。


「『亡霊災害(ソウル・ディザスター)』、あいつを抑え込んで!」


 エミリアはガンマの気迫に一瞬怯んだ様子を見せたが、直ぐに亡霊達に命令を下した。


 エミリアに命令された亡霊達はガンマの前に立ち塞がる。


 炎熊(フェルアー)や金髪ロングオーガの女性等、体格の良い亡霊達数体がガンマと体を衝突させた。


「ぐぬぬ、流石にキツイか……」


 ガンマは汗を流しながら、亡霊達と押し合いをしている。


 暫くしてガンマが押し切られそうになったその時、後ろから黄色い光が差し込んできた。


 黄色い光がガンマ達を照らしたその瞬間、ガンマと押し合いをしていた亡霊達の体は全員細切れに斬り裂かれていた。


「こんな所で躓いている場合では無いぞ」


 シュランは光の尾を引きながら、先を阻んでいる亡霊達を斬り伏せて行った。


「分かってますよ!」


 ガンマは額の汗を腕で拭い、斧をしっかり持ち直して亡霊の群れに向かって走って行った。


 それを追う様にブラントとリタ、そしてミアも道中にいる亡霊達を薙ぎ倒しながら工場に挟まれた大きな道を進んでいく。


「アハハ。この構図、まるでエミリアが魔王でお前達が英雄の様だね」


 エミリアは楽しそうに笑いながら亡霊達を薙ぎ倒して進んでくるミア達を見ている。


「おい、お前。大鎌を持っててくれてありがとう。褒美をやる」


 エミリアは隣に居る痩せ細った体付きの黒髪黒目の男から大鎌を受け取った後、男に褒美として足を舐めさせた。


「お前、早めに退いたほうが良いぞ」


 エミリアが見つめる先では、ミア達ロイヤルティーナイトがものすごい剣幕とスピードで迫ってきていた。


「後少し……」


 ミアがハンドガンを持っている右手の力を強めてエミリアを睨んだその時。


 エミリアは不敵な笑みを浮かべて平たい胸に両手を当てて金色の光を放ち始めた。


「っ! 全開放と言っただろ!」


 ブラントは叫んだ。


「人の言葉は全て嘘で出来ている。”疑う心”、それが長生きのコツだよ」


 エミリアがにこやかに微笑んだ後、金色の光は11個に別れて、それぞれ道を挟んでいる二つの工場の屋上に五個ずつとエミリアの側へと飛んで行った。


 そして、金色の光の中から出てきたのは、各々細かい特徴あれど、(みな)鉄の様に固そうな鱗に身を包んだ二足歩行、背中には夜空を隠してしまいそうなほど大きな翼を持つ、体長十五メートル程の様々な属性をした竜だった。


 ミア達はその圧巻の景色に思わず足を止めた。


 何頭もの竜が乗った工場は重さに耐えきれずに二つとも折り紙で出来た家の様に押しつぶされ、辺り一帯は更地と化した。


「この子達はエミリアの持つ竜の中でも特に強い個体達で、炎竜(えんりゅう)水竜(すいりゅう)雷竜(らいりゅう)天竜(てんりゅう)岩竜(がんりゅう)とそれぞれ二体ずつ居る」


「そこにいるのが、炎竜と水竜達だよ」


 エミリアから見て右を指差した先には、目と口と大きな翼、そして尻尾の先から炎を放出しており、頭に燃え上がっている炎の立て髪がある炎竜と、美しい顔立ちをしていて、尻尾の先に尾鰭がある二本足という神秘的な姿をしている水竜が二体ずつ居た。


「その子達は雷竜と天竜」


 エミリアが指差した先にいる竜は、引き締まった筋肉をしていて、顔も細くイケメンでスタイリッシュな竜の姿をしている雷竜と、奥には翼が四羽生えていて、腕には風を纏わせている細長い胴体の天竜が居た。


「そして、両脇に居るゴツいのが岩竜だよ」


 エミリアがそう指さす竜達の一番奥側には、ミア達を挟む様にして睨んでいるゴツい竜がいた。


 その竜達の体は厚い岩の装甲で覆われており、そのせいか、体格が他の竜より大きく見えているが、腰が曲がっているので、ミア達から見ると身長はさほど変わらない様に見えていた。


 十体の竜の紹介を終えたエミリアは、近くにいる一際巨大な全身骸骨の死竜(しりゅう)に近寄る。

 その竜は金色に染まってはいなかった。


「そして、この子は一番特別。死の力を持った世界に一頭の竜、死竜(デライパス)なの」


 エミリアは愛おしそうに死竜の骨の腕を撫でながらそう言った。


 月明かりに照らされながら赤黒い大鎌を片手に持ち、巨大な骸骨の姿の竜を撫でる少女とそれを嬉しそうに受け入れている白骸骨の竜。

 その光景はまさに余裕の表情を浮かべる死神とその使いと戦うボス戦の雰囲気が出ており、不気味な光景であった。

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