160 七色の騎士VS金色の亡霊軍
ラビッシュとミズキ対フォパースの戦いが終わりを迎えていた頃。
テンヤが発明したヘルメットや靴などを着用しているロイヤルティーナイト達は二つの工場に挟まれた大きな道に戦場を移し、エミリア率いる『亡霊災害』に苦戦を強いられていた。
「ブラント、リタ、もう少し抑えて。建物はなるべく壊したく無い」
ミアはハンナと一緒にガンマの大きな体で亡霊達から守られながら、ロイヤルティーナイトに指示を出していく。
「すみません。こう数が多いと狙うのが面倒でして」
ブラントは戦場を縦横無尽に駆け回りながら、黒剣を振って斬撃を亡霊達に飛ばしていく。
「私も、器用な戦い方は嫌いだから無理!」
リタは、赤いハンマーで知性なきオークの男を頭から叩き潰した。
「ハァー。一応、『皇帝之支配』でアタシの支配下にある筈なんだけど……」
ミアは、依然として周りを気にせずに全力で戦う二人を見て苦笑いを浮かべている。
「安心しなされ、ミア様。建物に近い亡霊は、儂が全て片付ける」
黄色い光線の尾を引きながら、シュランは亡霊達を次々に切り伏せて行き、月に照らされた暗夜の戦場を照らしている。
そんな戦場に一発の銃声が鳴り響く。
「さっきから鬱陶しい!」
エミリアは銃弾を大鎌で斬り裂き、弾道からスナイパーの位置を特定して、工場の屋上に居るメグを睨んだ。
エミリアの視線の先では、緑のヘルメットを被っているメグが緑色のスナイパーライフルのスコープから透明状態を解除してこちらを覗いてきていた。
「私の魂之特性『確定未来』で見た未来は百パーセント現実となる……。なのにいつ未来を見ても塞がれ続けてるから、はっきり言ってノアさんと同じぐらいめんどくさい」
メグはダウナーな雰囲気を纏って溜息を吐きながらリロードしている。
リロードし終えたメグは、マックスの背中によじ登っておんぶして貰った。
「リロードの時には透明を解除しないと魔力が持たない。敵の大将は私が足止めするから、マックスは私の足として頑張って」
「おう、任せとけ!」
メグをおんぶしたマックスはエミリアを睨みかけした後、直様水で作ったボートに乗って工場の屋上から飛び立って姿をくらました。
「流石に物量で押し切るのは無理だよね」
エミリアはそう言いながら軽いステップを踏んで後ろに下がっていく。
「「届け!」」
後ろに下がっていくエミリアの前には、亡霊を蹴散らしながら進んできたブラントとリタが武器を構えて飛んできていた。
先にエミリアへ走り出していたブラントの漆黒の剣がエミリアを捉えた。
「届いても意味は無い」
エミリアはブラントの漆黒の剣を赤黒い大鎌の柄で軽く受け止めた。
「神出鬼没、『透過斬撃』」
ブラントがそう言うと、エミリアの背後に突如として魔力が出現し、エミリアの小さな背中を横一線に切り裂いた。
「くっ」
背中を切られて意識がブラントに集中したその時、エミリアの右から赤いハンマーが迫ってきていた。
「砕け散れ! 『粉砕波動!』」
リタは勢いよくハンマーをぶん回したが、エミリアは体を後ろに宙返りさせて避けた。
避けられたハンマーはエミリアの居た場所から波動を放ち、直線上にある工場の壁を突き破っていく。
攻撃を避けられて焦っていると、赤黒い大鎌がリタのお腹を右から左へと切り裂いていった。
「元魔王軍と言えど、所詮は人間。動きが遅すぎる……」
エミリアがカッコつけているのを他所に、リタの腹部は無傷であった。
「ふぅー、ちょっとひやっとした。やっぱりテンヤ様の発明品は最強だね」
リタはエミリアは大鎌が通った腹部を摩りながら笑顔を浮かべている。
「ちっ、まるで空気の鎧を纏ってるみたい。これもその奇妙な装備の効果って事か」
エミリアはそう呟きながら、リタ達から距離を取った。
「て言うか。くそー、当たんなかった」
不満げに頬を膨らませているリタと落ち着いた様子のブラントは、一度ミア達の居る所まで下がっている。
「亡霊は復活しますが、この調子だとまだまだやり合えそうですな」
シュランは音も無くミア達の元に戻っていた。
「うん、皆んなこの調子で行こう」
ミアはヘルメットを外して手袋の穴にしまい、頼もしく鋭い眼光放つ碧眼でエミリアを睨んだ。
「全亡霊解放とは言ったが、まさか敵の言葉を信じてしまう程甘い集団になっていたなんて……」
エミリアは溜息を吐いた。
「何でお前らロイヤルティーナイトが“魔王軍2番目の戦力“って呼ばれてるのか忘れたのか?」
エミリアは不敵に笑う。
「お前の魂之力は信頼されている味方か、お前より弱い者しか支配出来ない。それに比べて、私の究極之魂『死之暴君』は、自身が殺した生物の魂を使役する力。この手で命を奪えば奪う程、際限無く戦力を強化し続けられる」
「それは仲間であっても例外じゃ無い。皆んな、起きて……」
そう呟くと、エミリアが先日魔界で首を刈った白皙な肌に痩せ細った体付きの黒髪黒目の男や、黒髪ボブヘアに赤く染まった瞳をした10代半ば程の美少女等、三十人程の魔族の亡霊達がロイヤルティーナイトの前に現れた。
「エミリア。まさか、その人達って……」
ミアは嫌悪感マックスの鋭く青い眼光でエミリアを睨んでいる。
「あぁ、私を慕ってくれている者達だ。一度死んでもらった方が、私が心置きなく戦えるからな。コイツらも喜んで亡霊になってくれた」
エミリアはさぞ当然の事の様に語る。
「エミリア、やっぱりアンタとは考えが合わないね」
ミアは怒りを乗せた低い声色でそう言い、手袋の穴から黒とピンクで塗装されたハンドガンを取り出して右手で握った。
「アハハ、やっぱりミアのその顔好きだな〜。もっと歪ませたくなっちゃう♪」
エミリアは赤黒い大鎌を華麗に振り回しながら嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「そうか。私はお前の眉間に穴を開けたいよ」
ミアは、メグとマックスを除いたヘルメット等で完全武装しているロイヤルティーナイトの一番後ろでそう言い放った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ほぼ同時刻。
『星神巨樹の森』の中では、バイクに乗っているテンヤ達がシューゼを追いかけて、まるで森の中でカーチェイスを繰り広げているかの様な激しい追いかけっこが行われていた。
「ちっ、しつこいな……」
後ろからバイクで追いかけてくるテンヤ達を振り返り、闇の姿で浮遊しているシューゼは舌打ちした。
その後もテンヤがバイクで追跡を続けていると、シューゼの前に心臓を貫かれているルークと、その近くで休憩しているハルカとユキネの姿が見えてきた。
「流石に負けてるか。ま、邪神には関係ねぇ」
シューゼはルークの遺体を眺めることなく、通り過ぎていく。
「ハルカさん、ユキネさん。やりましたね」
テンヤの後ろに乗っているアカネは高い声でそう言いながら笑顔を向けた。
「テンヤさん達も頑張って下さいね」
ユキネは明るい笑顔でテンヤ達が森の南方面に行くのを見送った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数十分後。
シューゼとテンヤ達は、地平線の先まで視界が開けている黒い大地の荒野を走っていた。
「パンクさせてやるよ。『闇神之弾丸』」
シューゼは一瞬後ろに振り向いて、自身の前に凄まじい速さで渦巻く闇で出来た弾丸を精製し、バイクのタイヤに向かって放った。
「そんぐらい対策してるに決まってんだろ」
テンヤが不敵な笑みを浮かべてバイクのスピードを上げていく。
すると、バイクの前輪が光を放ち始める。
テンヤはバイクを宙に浮かせて、バイクの前輪で弾丸を受け止めた。
光を放っている前輪は、闇の弾丸を浄化の力で打ち消して地面に着地した。
それを見ていたシューゼは、闇の姿を解いた。
「ハァー、しゃあねぇ。魔力切れになるまで追いかけられんのも目障りだからな。相手してやる!」
シューゼは赤い瞳の中にある黒い瞳孔を開き、殺気を放っている。
「やっと止まったか。邪神……」
テンヤは不敵な笑みを浮かべながらバイクから降りた。
アカネはバイクから降りながら、スマホを取り出して誰かに電話をかけ始める。
「アオハ、そっちの準備は出来てる?」
「はーい、出来てまーす」
アカネの持つスマホからは、アオハの気だるげな声が聞こえてきていた。
「アオハ、いつでも起動できる様に起きといてね」
アカネは優しい口調で話した。
「はい、任せて下さい」
アオハのその声は少しメリハリのある声だった。
アオハの返事を聞いたアカネは電話を切り、再びシューゼに視線を向ける。
「ふっ、お前らがどんな準備をしてようが、全て無駄……。決着は一瞬だからな」
闇を全身に纏っているシューゼはテンヤ達をバカにする様に鼻で笑い、右手を自身の左前から右へと移動させていく。
すると、手の移動した経路上の空間に闇のみで構成された禍々しく波打つ漆黒の刀が現れ、シューゼの右手に握られた。
「この刀にはブラックホールに匹敵する程のエネルギーと質量が秘められている」
シューゼはそう言いながら刀を軽く一振り振り払った。
「闇からは何物も逃れられない……」
シューゼはそう呟きながら、己の肉体を闇そのものへと変化させた。
闇と化したシューゼの肉体は徐々に強い風を巻き起こしながらテンヤとアカネを引きずり込んでいく。
「転移者であるお前達が、何故俺達邪神に拘るのか知らんが、凡人が神に勝つことなど出来ん」
シューゼは見下した目線をテンヤ達に向けて赤い瞳を暗雲の隙間から差し込む月明かりで光らせている。
「誰が凡人だって? それに勝った気になってるとこ悪いが、俺はお前が右手に握っている物を待っていた。闇の神がブラックホールを使わない訳無いもんな」
テンヤはニヤリと笑い、右の手袋に取り付けたブローチに嵌っているバイクの絵が描かれた水晶を取り外して白衣のポケットにしまった。
「このブローチは、嵌めた水晶に描かれている物体をラグ無しで創造出来てしまう代物だ……」
そして、少しポケットの中を探った後に黄色い水晶を取り出した。
黄色い水晶には、柄が黒色でその先に反りを持った刃が取り付けられている薙刀が描かれている。
テンヤは静かにその水晶を右手袋についているブローチに嵌めて右手を突き出した。
すると。テンヤの前に瞬時に水晶に描かれた物と同じ薙刀が出現し、テンヤはそれを右手で力強く握りしめる。
「創造魔法の明確な弱点は、物体の質量や複雑さにもよるが、魔力を流してから物体が完成するまで絶対に一秒くらいのラグが発生する所だからな。アオハには本当に感謝しないと」
テンヤは薙刀を見ながら優しい口調で言った。




