159 破滅すべき存在
ラスファート南西区の一角。
そこでは、ジャスティスクローの三人とラストナイトの一人、ファティー・グララスが魔物相手に共闘していた。
ジャスティスクローとファティーが共闘している戦場には、大量の血が飛び交っている。
しかし、その血は人間や他の種族の者が流した物では無かった。
何故なら、同じ創造主に産み出された者同士である様々な魔物達が、逃げ遅れた人間や他の種族の者達には目もくれずに互いに傷つけ合ったり、共食いをしたりして争っているからだ。
「オラオラ! 魔物共、勝手に自滅してろー!! アッハッハッハ!」
黒い炎を4本の足から放出している馬の魔物、『深淵馬』に乗っているファティーは、黄色い炎纏わせた鞭を無差別に振り回して多種多様な魔物達を従えながら、高笑いを響かせていた。
「あの人、本当に味方なんですよね? スレングって生き返ってましたっけ?」
サキは逃げ遅れた人を光魔法で癒しながら、周りを守っているエイダンに聞いた。
「いいや、味方な筈だよ。風貌は完全に狂った敵側だけど……」
エイダンは苦笑いを浮かべながらファティーを見ている。
「ま、このくらいぶっ飛んでた方が頼もしい!」
イーサンは、斧で『炎熊』の体を縦一線に引き裂いた。
その後も、ジャスティスクローとファティーは共闘しながらラスファート南西区を守り続けるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、ラスファート東南区では。
エリー・リフネイトが、ナイトサンダーズや雷鳴スーツに着替えて顔を隠しているルミナス商会職員ら、そして商売人達と共に街を魔物から守る戦いをしていた。
混戦の中、雷鳴スーツに身を包み、刀を持った赤髪ロングに水色の瞳をしたエルフの少女の背後から、雷を全身に宿したワニの魔物『雷爆鰐』が、顎を広げながら突進していっている。
「赤髪エルフの人! 右に飛んでください!」
エリーの緊迫した声を聞いた赤髪エルフの少女は、エリーの言葉通り右に飛ぶ。
すると、雷爆罠は先程まで赤髪エルフの少女が居た場所を左に顔を振りながら噛みつき、その空間に雷を帯びた爆発を起こした。
「助かった。ありがとう!」
赤髪エルフの少女は太陽の様に眩しい満面の笑みをエリーに向けた後、キリッとした表情で戦場に身を投げる。
「貴方達との繋がりは深く無いので、『共存者』は使えませんが、『見透眼』でのサポートは任せてください」
エリーはそう呟いた後、戦場のあちこちに視線を向けながら未来を見続けて味方をサポートして行くのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『星神巨樹の森』の北側。
ここでは、ラビッシュが強烈な足蹴りの連撃でフォパースを押していた。
「オリャオリャオリャ!」
ラビッシュは、橙色の風を纏わせた横蹴りから入り、後ろ蹴り、浴びせ蹴り、刈り蹴り等を両足で連撃して行く。
ちっ、同じくエネルギーの向かう方向を操れる俺達では、相手の攻撃の衝撃を反転させる事が難しいのか。
フォパースは、ラビッシュの連撃を避けながら考えていた。
なら……。
「甘い!」
フォパースは連撃の隙を見て、ラビッシュが来ている服の裾を掴んだ。
技で圧倒するまでだ!
フォパースはそのまま大外刈りを決めて、ラビッシュの左足を浮かせて後ろに転ばした。
が、ラビッシュの連撃は止まらない。
「そっちがね!」
後ろに転ばされたラビッシュは、直様両手を地面に向けて橙色の突風を起こして体を上へと浮かせる。
フォパースに接近したラビッシュは体を宙で捻りながら、裏回し蹴りをしてフォパースの頭部を蹴り飛ばした。
一方、それを遠くから見ているシューゼとテンヤ達はと言うと。
「ふんっ、手こずりやがって」
シューゼはそう呟いた後、体を闇へと化して森の奥へと進んで行った。
「っ! テンヤ、奴が逃げちゃう」
アカネはラビッシュ達の戦闘に気を取られているテンヤの肩を叩いて知らせた。
「待て! 一体ぐらい邪神を倒さなきゃ、この長い旅の意味が無くなるだろ!!」
テンヤは焦った表情を浮かべながら、急いでバイクを走らせて森の中へとシューゼを追って行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「神の魔力は無限。進化した獣人の私達でも勝てないのは明白」
ミズキはそう言いながら、自身の前に六角形の小さな水の盾を出現させた。
水の盾はその後、數十個に及ぶ六角形の水の欠片に分離してミズキの周りに漂っている。
數十個に及ぶ水の欠片を辺りに漂わせてクールな立ち姿をしているミズキは、まるで水神が如く神々しいオーラを放っていた。
「だから、そっこーで終わらせるのです!!」
ラビッシュは威勢良く言い放ち、己の両足に更に激しい橙色の風を纏わせ、そこに更に漆黒の暴風も纏わせた。
「ライトニング様の力を借りて! ラビッシュが今、全てを破滅させる!!」
ラビッシュはそう叫び、フォパース目掛けて突っ込んだ。
「やってみろ! 俺様が真正面から叩き潰してやる!!」
フォパースも両腕に橙色の魔力を纏わせて衝撃音と共にラビッシュに突っ込む。
「サポートは任せて。『相殺之水欠片』」
ミズキがそう言いながら両腕を滑らかに動かすと、水の欠片はミズキの腕の動きに合わせて素早く移動し始めて瞬く間にフォパースを取り囲んだ。
「お前達邪神は破滅すべき存在!」
ラビッシュはそう叫びながら、怒涛の蹴り連撃を打ち込んでいく。
フォパースは、ラビッシュの連撃を腕で防いだり、後ろに下がって避けたりしていた。
その間、二人は互いに相手の生み出すエネルギーのベクトルを相手に向けようとしていた。
しかしオリジナルとコピーとは言え、効果は同じ能力同士。
ベクトル操作の勝負はいたちごっこにしかならなかった。
が、単純な力の押し合いに関してはラビッシュの暴風による追い風を受けた何も考えていないゴリ押しを止め切るのは力の神でも不可能だった。
「ふん!」
ラビッシュは飛び上がり、右足を大きく振り上げる。
「カチ割れ! 『堕天風刀!!』」
フォパースは、ラビッシュの踵落としを華麗な身のこなしで右に避けた。
ラビッシュの右足はそのまま地面に突き刺さり、大地を割り、砂煙を起こす。
その砂煙の中で橙色の魔力が揺らめく。
ラビッシュが踵落としの勢いで体を動かさない時に、砂煙の中から左拳を握ったフォパースが顔面に殴りかかってくる。
フォパースの左拳がラビッシュの顔面に直撃する寸前、水の欠片が拳の前に突然現れて拳の衝撃を相殺した。
「ちっ、くそっ!」
思わず舌打ちしたフォパースは、ムカついたそのままの勢いでラビッシュに殴りや蹴りを打ち続ける。
だが、どの攻撃もラビッシュに当たる前に水の欠片に防がれて相殺され続けて行く。
フォパースの攻撃に合わせて大気に飛び散る水滴は、まるでフォパースの攻撃エフェクトの様になっていて、美しい戦闘風景が繰り広げられていた。
ラビッシュは、一度後ろに大きく下がる。
「逃げてばっかだな! そっこーで終わらせるんじゃ無かったのか?」
フォパースは煽り口調でそう言った。
「うん、終わらせるよ。このままじゃボク達は勝てないし」
ラビッシュは急に落ち着いた表情でフォパースを見据えている。
「ふぅー」
ラビッシュが深呼吸をすると、辺りの空気は一変した。
そして、ラビッシュは左足に纏わせていた突風を解除して、右足に魔力を集中させる。
右足に集中した橙色の魔力は橙色の暴風と漆黒の暴風に段々変化し、二色の暴風が完全に融合した。
「神に風穴ぶち開ける!」
そう言い放ったラビッシュは、右足で初速から光速にも匹敵する速さで飛び出して行く。
「最強まで突っ切りなさい……」
ミズキは誇らしげに微笑みながら、無数にある水の欠片全てを使って『星神巨樹の森』を守る防壁にした。
そしてフォパースへと飛び出したラビッシュは、空中で体を回転させながら勢いとスピードが増して行っている。
「来い! 俺様達の勝負にエネルギー操作など要らない、暴力こそが最強だー!! 『星爆核覇王拳!!』」
フォパースは雄叫びを上げて微笑しながら、烈日の様に揺らめく大きな橙色の魔力を纏わせた左拳を全力で振るった。
「神速の突風、『世界貫滅突風蹴!!』」
凄まじい速さで回転していたラビッシュは、左から右へと右足を空間を斬ってしまうかの様な速さで振って、飛び回し蹴りをフォパースの左拳と衝突させた。
大気を震わす程の爆発音が響き渡る。
その一秒後には、決着が付いていた。
「クハッ!」
フォパースは後ろに倒れながら口から血を吹き出し、見惚れてしまう程鍛え抜かれた腹筋がある巨体のお腹には大きな穴が空いていた。
その大きな穴は無の空間となっており、それは段々とフォパースの体を覆っていく様に広がっている。
そして、そんなフォパースの後ろには、フォパースのお腹を貫通したラビッシュが勢い余って更に遠くまで飛んで行っていた。
「ふぅ〜。ミズキー、ボクやったよー!」
ラビッシュは満面の笑みを浮かべて、突進する様な速さでミズキに抱きついた。
「えぇ、偉いわよ。ラビッシュ」
凄まじい勢いで抱きつかれたミズキは後ろに転けそうになりながらも、優しくラビッシュの頭を撫でてあげている。
「あれ? 居なくなってる」
ラビッシュがそうい言う先には、漆黒が広がる無の空間だけが残っており、そこにフォパースの姿は無かった。
「あの神なら、広がっていく無の空間に飲み込まれて死んだわよ。無の空間はライトニング様曰く、空間の神様が元に戻してくれるらしいから、私達はひとまず休憩しましょ」
ミズキはそう言って、一足先に岩に腰掛けた。
「うん、そうするー。ボク、もう足が限界だよ〜」
ラビッシュはそう言って、ミズキが座っている岩まで移動して大の字で寝転んで直ぐに寝息を立てた。
「ふふっ、本当に頑張ったね」
ミズキは優しくラビッシュの頭を撫でながら、ラビッシュが再び起きるまでゆったりとした時間を過ごした。




