表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

160/179

158 厄災バトル

 大穴の中に飛び込んで行ったアビスは、勾玉模様の球体に封じ込められた己の魂之力ソウル二つに触れようとしていた。


「後で上がろうと思っていたのだが、勇者達も来たか……。では改めて、この深淵を決戦の地としようぞ」


 そう言いながら、アビスは勾玉模様の球体に右手を触れた。


 すると球体は急速に回転し始め、二つの勾玉が合体して一つの球へと変化し、掌サイズにまで小さくなった。


 アビスはそれを空中でキャッチし、深淵の底へと落ちていく。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 暗い深淵の中、アビスは豪快に大穴の底に着地し、砂埃を巻き起こした。


 そこに、勇者パーティーが落下してくる。


「僕に任せて! 『微風竜巻ゼファー・トランポリン』」


 大穴の底に直撃する寸前、ゼーレが地面に向かって風魔法を放つと、勇者パーティー全員の下に穏やかな竜巻が起きる。


 三人は竜巻に巻き上げられ、ふわっと浮いた後、綺麗に着地した。


「ナイス、ゼーレ」


 ライムに褒められ、ゼーレは嬉しそうに微笑した。


「あれ? ここは……」


 不思議そうに辺りを見渡すレイラは、ユニスに意識を返してもらい、髪色や瞳の色も元に戻っていた。


「ここは、ラスファート王城の真ん中に出来た大穴の底だ」


 ライムは漆黒の剣を抜き出しながらそう言った。

 その先には、右手に赤と青に輝く二つの勾玉模様が描かれた球体を持つアビスが居る。


「何か、アビスは真なる魔王に成れないらしいけど、ユニスさん達が封印した力を取り戻されたのに変わりは無い。絶対にここで倒さないと」


 ゼーレは白い剣をアビスに向けながら話した。


「分かった。今度こそ最終決戦だね」


 レイラは魔法の杖を持ち直し、凛々しい顔立ちでアビスを見ている。


「返してもらおうか……」


 アビスは球体を胸の中心に当てる。


「ふんっ」


 アビスが胸の中心に当てた球体を押し込むと、徐々に体の中へと吸収されていった。


「フハハ、最高の気分だ!」


 力を取り戻し、高笑いしているアビスの髪色と瞳の色に変化が現れ始める。


 短い白髪は右側が白のままで、左側が唐紅色に変色し、左右で分かれたツートンカラーへと変化し、瞳の色は白色から星空の様な藍色に変化した。


「これで、完璧に近い状態に成った……」


 アビスがそう呟いている間に、赤と青色に揺らめく魔力を体から発している。


「行くぞ……。勇者パーティー」


 アビスは不敵な笑みを浮かべた後、人差し指だけを伸ばした右腕を掲げて魔力を集中させた。


「深淵により、無に帰せ。究極之魂アルティメットソウル深淵之暗星(昼夜の暗星)』、『終焉之暗星(アビス・ステラ)』」


 アビスがそう言うと、右手の人差し指の先に藍色の小さな玉が出現し、吸い込む風を巻き起こし始めた。


「くっ、これがユニスさん達がアビスから引き離した魂之力ソウル……」


 ゼーレは藍色の小さな玉が起こしている風を前に、ただ足に力を入れて耐えることしか出来なかった。


「藍色の玉か……。もう一つ、赤色の魂之力ソウルがある筈だ。気を引き締めて行くぞ」


  ライムは微動だにせず、剣を余裕そうに構えている。


「うん」


 レイラは体を小さくして風に耐えながら、小さく返事をした。


「無駄だ……」


 アビスが呟いた瞬間、突然藍色の球体が引き込む力を強め、ゼーレ達三人は一気に吸い寄せられて行った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 舞台は戻り、混沌の大深林。

 そこでは、人型に戻ったルナがツカサの元に降りて、煙の中にいる人影を見ていた。


「人型になったって事は、理性が戻ったのか?」


 ツカサはルナを見ながら話した。


「ううん、多分まだナハトの支配下。完全に気絶させないと支配は解けない」


 ルナがそう話していると、煙の中から人型のソルが歩いて出てきた。


 女の子の様な白髪ショートに水色がかった白い瞳。

 服装は、上に雪の様な白皙の肌を隠しきれていない真っ白なコート一枚を羽織っており、下には短パンを履いていてフードを深々と被っている可愛い男の娘。


 ナハトに操られている為か、殺意の籠った鋭い目つきでルナ達を睨んでいる。


「へへっ、そうか。なら俺様が厄災をこの拳で祓ってやる」


 ツカサはソルに右拳を勢い突き出してそう言い放つ。


「助かる。ぼくだと、結局手加減しちゃうから」


 ルナは躊躇いの表情をソルに向けながら、両拳を握りしめた。


「じゃ、大森林を破壊し尽くす前に、速攻で片付けるぞ!」


 ツカサは己の拳同士を勢い良く衝突させた後、ソル目掛けて一気に飛び出して行った。


「オォー!」


 ツカサは大きく飛び上がり、ソルに殴りかかる。


 ソルは、ツカサが放った左ストレートを右腕で涼しい顔をしながら軽々と受け止めた。


「もっとだ!」


 ツカサは宙に浮いたまま、左拳に体重を更に乗せた。


 すると、ソルの足は徐々に後ろに下がって行く。


「ソル、ごめん!」


 ソルの左斜め背後に突如として現れたルナは素早くしゃがみ、ソルの左足首を払い蹴りして、右足を宙に浮かせた。


 左側に重心が移動したソルは左側に倒れて行く。


 それを見たツカサは、一旦左拳をソルから離して地面に両足を付ける。

 そこから、ツカサは体を捻りながら右フックをソルの左横腹目掛けて放った。


 体勢が崩れ、右足が宙に浮いた状態のソルはそれを避ける事が出来なかった。


 ツカサの右フックがソルの左横腹を捉えると同時に、衝撃音が大気を走る。


 ツカサの右フックをモロに受けたソルは、木々を貫通しながらツカサの左側に吹き飛ばされて行く。


「ゴホッゴホッ」


 吹き飛ばされたソルは大きな木にもたれ掛かりながら、左横腹を押さえている。


 ソルが衝突した大きな木は、衝撃で大きく凹んでいた。


 大きな木にもたれ掛かっているソルの元に、風の音が近づいてくる。


「こんなんじゃ気絶出来ないよね! 『黒滅龍(スプレマシー)鉤爪衝撃(クローインパクト)!!』」


 ルナは左足に漆黒の魔力を纏わせながら、ソルの鳩尾に飛び蹴りを喰らわせた。


 すると、漆黒の魔力はソルの体を貫通して、光線の様に轟音をと共に凄まじい速さで広がりながら伸びて行った。


 数秒後。


 大深林の一角には、ホールケーキのピースの様な形をした焼け野原が広がっていた。


 その中を鳩尾を蹴られたソルが突風の様な速さで吹き飛ばされている。


 そして、それを凄まじいスピードで走って追うルナとツカサ。


「マジ、こんな戦い続けてたら被害がヤバ過ぎる。大技撃つ隙を与えずに行くぞ!」


  ツカサは、荒野と化した大地から剥き出しになった岩や木の根っこ等を、パルクールの様に飛び越えながらソルに全力疾走で近づいて行く。


「ぼくが囮になる。一撃、デッカいのかましちゃえ」


 ルナはイケメンな声でそう言った後、ツカサ以上のスピードでソルに突っ込んで行った。


「おう、任せてとけ」


 ルナの後を追う様に、ツカサも走る速度を上げた。


 一方、後ろに向かって吹き飛んでいるソルは段々速度が落ちていき、地面に両足がつく様になり、足を踏ん張りながら何とか止まる事に成功していた。


「ウゥゥ」


 小さな唸り声を上げるソルに、ルナの回し蹴りが襲いかかる。


「ぼくが相手だ!」


 ルナはソルを蹴り飛ばした後、直様体勢を整えて拳を連撃を打ちつけて行く。


 ソルは、ルナの連撃を避けたり、腕や手で往なしたりしながら反撃の隙を窺っていた。


 暫くルナの連撃が続いていると、ソルは急に後ろに飛んでルナの拳を透かさせた。


 勢いの付いた拳骨を透かされたルナは、そのままの勢いで体が前に倒れて行く。


 っ! ソルってこんな武闘派じゃ無かったのに。ナハトに操られてるせいか……。


 ルナがそんな事を考えながら地面を見ていると、自身が倒れて行く場所に白く光り輝くソルの左拳が置かれている事に気づいた。


白滅龍之天焦破インペリアル・スカイバーン


 その技の名は、可愛らしさの中に悍ましい殺意が混ぜられた独特な声で呟かれた。


 マズイ!


 ルナがそう思ったのも既に遅く、ソルのアッパーがルナのお腹に直撃した。


「ウグッ!」


 ソルの左拳がルナのお腹に直撃した直後、辺りを白く照らす光の塔が夜天を突き破る勢いで夜空へと伸びて行った。


 数秒後。


 白く輝く光の塔は消えて、ルナはお腹を抱えて地面に膝をついていた。


 そんなルナを、ソルは見下している。


 その瞬間、ソルの背後に今まで感じたことの無い程の殺意が現れた。


 殺意を感じたソルは直様振り向く。


 すると、息が掛かる様な超至近距離にツカサが突っ込んで来ていた。


 ついさっきまで音も聞こえず、気配も感じられなかったソルからすれば、間違いなくホラーな光景であった。


 息が掛かる様な超至近距離で一度立ち止まったツカサは、正拳突きの構えを瞬時に取り、左拳を目に見えぬ速さで打ち出した。


「セイッ!」


 その正拳突きは、油断していたソルの鳩尾を完璧に捉える……、かに思えた。


 ツカサの正拳突きを見たソルは右手に白い魔力を纏わせた後、正拳突きを体を右に捩って避けた。


 そして、避けた正拳突き目掛けて右手の手刀を放ったのだ……。


「ぐっ……!」


 放たれた手刀はツカサの左腕を切断し、ツカサは苦しそうな表情を浮かべる。


 そこにソルの追撃が襲う。


 ソルは左足で着地した後、右足を後ろにずらして右足を軸にして右に体を回転させる。


 その後、軸足を左足へと変えてツカサの頭部へと後ろ回し蹴りを炸裂させた。


 だがしかし、ツカサはそれを右腕で受け止めた。


 ソルを睨んでいるその瞳は光を失わずに、絶えず闘志に燃えた熱い眼差しのまま膝を付かずに立ち続けている。


 ツカサはソルの右足を振り払う。


 するとソルは反動で左回転をし、ツカサの右側で正面を向かされる。


 そして、ツカサは自身の右側で体勢を崩しているソルに合わせて、体を右に捻りながら右拳を強く握りしめる。


「オォォォー!!」


 ツカサは雄叫びを上げながら、渾身の右フックをソルの鳩尾に完璧にヒットさせた。


 そして、そのまま雄叫びを上げながら右フックの衝撃(インパクト)で殴り飛ばした。


 ツカサが右フックを放った直線上には、大きな突風が起こり、荒野と化した大地を削り取りながらソルを更に遠くまで吹き飛ばす。


 数秒後。


 ツカサは息を切らしながら両膝を地面に付いた。


 そんなツカサの体からは左腕が無くなっており、血がポタポタと落ち続けている。


 ツカサは少しの間その体勢を維持していたが、疲れと痛みで前に倒れて行った。


「ツカサ君!」


 前に倒れて行くツカサを、ルナは前からぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう。ほんとにありがとう。魔力や魂之力ソウルが使えなくとも、滅龍と殴り合える君だから、ソルは大きな怪我をせずに済んだ……」


 ルナは涙声でそう言いながら、ツカサを更に強く抱きしめる。


「でも、君の腕をソルは……。本当はぼくだけで止めるべきだったのに、本当にごめ……」


 ルナがそこまで言うと、ツカサは無い左腕にも力を入れてルナを抱き返し、微笑しながら明るく話し始めた。


「そこから先は言う必要無い。俺様が油断した結果だ。それに、腕一本失っただけで厄災と称される龍を止めたんなら、等価交換になって無い。ライトニング様達に自慢できちまうぜ」


 ツカサの優しい笑顔を見て、ルナは更に涙を溢れさせている。


「良かったな。弟を取り返せて」


 泣いているルナに、ツカサは優しく言葉を掛けた。


「うん……」


 ルナはツカサに抱きついたまま、首を小さく縦に振った。


 一方、ソルはツカサ達から少し離れた所で仰向けで気絶していたのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ソルが気絶したのと同時刻。

 魔王城玉座の間にて、存在を無へと化しているナハトの体に変化が起きていた。


「ん?」


 ナハトは異変を感じ、自身の左手の甲に視線を向ける。


 ナハトが左手の甲に視線を向けていると、刻まれていた白い紋章が徐々に薄くなっていっていた。


「ふっ、俺に操られたソルを倒すって事は、ルナが誰かと共闘したのか。滅龍と共闘出来る奴、一度は戦ってみたかった」


 ナハトが虚しそうに見つめている先では、ガルノとエスメがノアやリサ達と混戦を繰り広げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ