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157 二人の魔王

「って、どうやって戦えってんだー!」


 2頭の天翔ける滅龍に啖呵を切ったツカサは、大きな声でそう叫んだ。


 その叫び声が大森林に響いたその時、二体の滅龍が動き出した。


「グギャャヤ!」


 白龍ソルは怒り狂った咆哮を放ちながら黒龍ルナに一直線に接近し、ルナの方は体をくねらせながら向かっていっている。


 下では、二体の滅龍が激しく動いていることによる暴風で大深林の木々が揺れて、まるで嵐が巻き起こっている様だった。


「くっ、マジで手の付けようがないぞ……」


 ツカサは暴風を耐えながら、悔しそうに二体の滅龍を見上げている。


 そして、二体の滅龍がぶつかる。


 先手を取ったのはルナであった。

 ルナはソルの胴体に牙を突き立て、二本の腕でがっちりソルの胴体を掴んだ。


 そしてソルの方は、噛み付かれた痛みで咆哮を上げた後、直ぐに噛みつき返した。


「ガルルルル」


 ソルは唸り声を上げながら、ルナに突き刺している牙へと更に力を加え続ける。


 ソルの方がナハトに操られているのに加えて理性を失っているからか、ルナの鱗は砕かれて血が滲み出てきていた。


 噛みつき合いが暫く続いた後、ルナが動く。


 ルナは噛み付くのを辞めて、体を激しく捻って暴風を巻き起こしながら空へと駆け上がった。


 勿論、ルナに噛み付いているソルもそれに釣られて天へと昇っていく。


 雲に到達する寸前、ソルは遠心力によってルナから牙が離れた。


 ルナは雲を越え、更に天へと昇っていき、姿を消した。


 そして、数秒後。

 黒雲の先から壮大で黒く悍ましい魔力が見え隠れし、轟音巻き起こして大深林の大気全てを震わせ始めた。


 それを感じたソルは、口元に白い魔力を集中させ始め、そこからも轟音が鳴り響きツカサ達の体を震わせた。


「は、ハハハ。俺様達だけは巻き込むなよ……」


 それを見ているツカサは、苦笑を浮かべて立ち尽くす他なかった。


 そして、轟音引き起こす滅龍二体の魔法が大深林の上空で解き放たれる。


「全力で叩き起こす! 『黒龍之滅咆哮(スプレマシー・ロア)!』」


 ルナは、天から黒き魔力の咆哮を放つ。


 咆哮は雲を突き破り、漆黒の太い光線がソル目掛けて降り注ぐ。


「ガルル……。『白龍之滅咆哮(インペリアル・ロア)!!』」


 幼く少し高いショタ声でそう言い放ったソルは、純白色の魔力の咆哮を放った。


 モノクロの光線が大深林上空で轟音上げながら衝突する。


 衝突した光線は火花を散らしながら周りに広がっていき、次第に大深林の空をモノクロで染めた。


 数秒後。


 ツカサが目を開けると、ルナが放った咆哮の軌道上にあった草木は跡形も無く消え去り、地面は抉られて小さな谷が形成されており、まるで巨大な龍が通り道の全てを薙ぎ倒しながら大深林を横切ったかの様であった。


「あっちゃー、流石にやり過ぎたかな?」


 穴を開けた雲から、人間の姿をしたルナがゆっくり降りながら抉れた大深林を苦笑いを浮かべて眺めていた。


「ウゥゥ」


 ルナの魔法で形成された谷底から呻き声が聞こえてくる。


 暫くすると白い魔力が解き放たれ、煙を上げた。


 その煙の中からは、ルナと同じくらいの背格好の影がちらついていた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 同時刻。

 魔王城の玉座の間では、金属音や爆発音が至る所から聞こえる激しい混戦が繰り広げられている。


 その中でも魔王の玉座に一番近いところでは、タリアとシュティモスがナハトに猛攻を仕掛けていた。


 腕、足、頸、横腹、太ももと、ナハトのあらゆる体の部位に黄色と青の双剣がほうき星の様に光の尾を引きながら食い込んでいく。


「はっ、流石は俺と同じく神に選ばれた者、身のある戦いだ」


 ナハトは楽しそうに笑いながら、全身に白雷を纏わせて、タリアの双剣による必中攻撃を受け止め続けながら後退している。


「気に入ってくれたなら良かった」


 星加護を完全に開放して体中に青に輝く流星を流し、黄色と青色のオッドアイをしたタリアは、不敵な笑みを浮かべた後、ナハトの首の右側に食い込ませている青い短剣の力を抜いて後ろに飛んだ。


「ふんっ」


 タリアが離れた事で気が緩んだナハトの左足首に、空間移動で背後に回っていたシュティモスのローキックが炸裂した。


「ちっ、さっきから鬱陶しい」


 ナハトはローキックを受けた直後はふらついたが、すぐに体勢を立て直して白雷を全身に纏わせて姿を絡ました。


 その後直ぐに、シュティモスは空振りしたかの様に尻餅をついて痛そうにしていた。


「消えた!? 視界に捉えられないなら、私の星加護も意味が無くなる」


 タリアは慌てて混戦状態の玉座の間を見渡した。


「だめだ。この場の空間をくまなく探したけど見つからない」


 シュティモスは深刻そうな表情を浮かべながら、焦った口調でタリアに伝えた。


 一方、他の者達はと言うと。

 ガルノとエスメによる無差別広範囲攻撃に苦しめられていた。


「吹き飛ばせー! 『紅蓮激情之暴風拳クリムゾン・ザ・テンペストフィスト!』」


 ガルノは飛び上がって咆哮しながら、紅蓮の風を纏った右拳を扉側に居るノア達目掛けて振り払った。


 すると、紅蓮の暴風は轟音と共に玉座の間を抉りながらノア達に接近していく。


「私が引き受けよう……」


 紅蓮の暴風が近づいてくる中、白い剣を地面に突き刺して暴風の前で仁王立ちするリサ。

 その姿はまさに最強の名を背負うに相応しい威厳ある立ち姿である。


 暴風が近づいてくると、リサは右腕を自身の左側に構えて紫色の魔力を纏わせた。


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 リサは紫色の魔力を纏わせた右腕を優雅かつ滑らかに振り払い、右手の甲を暴風に当てた。


 すると紅蓮の暴風全体が一気に紫色の暴風へと変わり、ガルノの方向へと跳ね返っていく。


「おいおい、マジかよ!」


「ちょっと、ちょっと!」


 ガルノとエスメは驚いた表情を浮かべながら、紫色の暴風をノーガードでもろにくらった。


 そして、その先に居たタリアはシュティモスの星加護で範囲外に避難し、ディヒルアは全身に白い魔力を纏わせて一歩も動かずに涼しい顔で暴風を待ち構えていた。


 数秒後。


「玉座が壊れた……」


 エスメは粉々に砕かれた玉座を見て、愕然と立ち尽くしながら呟いた。


「すみません! ナハト様!」


 ガルノは、何処にいるか分からない魔王に向かって深く頭を下げた。


「まぁ、まだ俺の席じゃねぇからどうでも良い」


 ナハトは音もなくガルノの背後に姿を現し、ガルノの方を優しく叩きながら、リサを睨んでいる。


 そんなナハトを見て、エスメは目を輝かせてこう言う。


「ナハト様、なんて慈悲深い。素敵です……」


「エスメ、あっちの二人を数分相手にしてくれ。フレヤとディヒルア様の事は頭から外せ」


 ナハトは玉座の近くに居るタリアとシュティモスを見ながらそう話した。


「は、はい!」


 エスメはナハトに頼りにされた事で嬉しくなり、元気よくそう返事をした。


「さてガルノ、潰せる奴から潰していこう……。居るんだろ、フレヤ。お前も協力しろよ」


 ナハトは殺意に満ちた銀色と黒が入り混じった瞳でアンナ達を睨み、楽しそうに不敵な笑みを浮かべていた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 場所はラスファート中央区の丘上にあるラスファート王城、玉座の間。


 そこでは勇者パーティー三人がアビスを追い詰めていた。


「コイツ、魔王の癖に魔法使ってこないな」


 ライムは、レイラが空中に出現させた衝撃を跳ね返す力が付与されている水の足場を使って縦横無尽にアビスを漆黒の剣で攻撃している。


「そうだな。ライム、このまま押し切るぞ!」


 ゼーレも、同様に水の足場を利用しながら白い剣を振るい、アビスを睨んで言い放った。


 アビスはそんな二人の攻撃を受け止めたり、躱わしたりしながら汗を流していた。


「楽しませてくれと言ったが、やはり魂之力ソウル無しで魂之力ソウル持ち三人を相手にするのは厳しいか……」


 アビスは二人の攻撃を後ろに避け続けながらそう呟いた。


「今の我は力を失い、生きてるのか死んでるのか自分でもどちらとも言い切れない変な気分だ……。それも今日で終わる!」


 アビスは二人の攻撃を両腕で受け止めた後、二人を吹き飛ばした。


 吹き飛ばされたライムとゼーレは、レイラの近くへと綺麗に着地した。


「さぁ、全歴史上初の真なる魔王がこの大地に二人誕生する瞬間は目の前だ!」


 アビスはライム達に背を向け、大きな穴の先に向かって叫んだ。


「今まで、魔王の一族は真の勇者や勇者の素質を持つ者に血を絶やされる事は無くとも、世界征服計画は邪魔され続けてきた……。その歴史も、今宵日が昇る頃には塗り替えられているだろう……」


 アビスは巨大な穴に向かって、一歩一歩ゆっくりと近づいていく。


「本気の我が相手してやる。動くなよ……」


 アビスは、ゼーレ達の足が動かなくなる程の殺意を背中から発している。


 アビスの視線の先には、赤と青に光り輝く勾玉模様の球体が異様な存在感を放っていた。


「今から止めようとしてもどうせ間に合わない。なら全力の魔王に挑んで、魔王の一族を歴史上初めて討伐し切った勇者パーティーになろうぜ」


 ライムは漆黒の剣を鞘に収めながらゼーレ達に話しかけ、ゼーレとユニスはそれに静かに頷いた。


 そして、穴の際に足を置いたアビスは、不敵な笑みを浮かべた後、全身で穴に向かって飛び込んだ。


「なぁ、あの球体って白と紫色に輝いてなかったか?」


 穴の際まで移動したゼーレは、球体を見ながら隣にいるライムに話しかけた。


「そうだな。なんで色が変わってるんだろ?」


 ライムが不思議そうに勾玉模様の球体を眺めていると、後ろから落ち着きのあるお姉さんボイスが聞こえてきた。


「それは多分、ナハトの魂に魔王の資格である神授之権能(ゴットソウル)が完全に馴染んだから。つまり、アビスは真なる魔王に成れない」


 ライムとゼーレが後ろを振り向くと、レイラの髪色を白髪ショートボブに、瞳の色をサンオレンジとブラッドレッドのオッドアイに変色させたユニスが月明かりに照らされながら儚くも神々しく立っていた。


「ユニスさん! ……いやそれよりも、神授之権能ゴットソウルが魔王の資格って、神授之権能ゴットソウルは今までこの世界から消されてた筈じゃ……」


 ゼーレは難しい顔で考え込んでしまった。


 そっか、ゼーレはディヒルアの存在を知らないのか。

 と言うかユニスさんの口ぶり的に、前見た時に白く輝いていた方の勾玉にはディヒルアの魂之力ソウルが封じられていて、紫の方に別の魂之力ソウルが封じられてたんだろう。


 紫は赤と青の調色だから、アビスがアレに触れたら二つの魂之力ソウルを手に入れると考えるのが自然だ。


「ま、魂之力ソウルは代々勇者を名乗り、魔王に挑んだ者達しか知りえない存在だったから。今更考える必要は無いよ」


 ユニスはそう言いながら大穴に近づいた。


「そうだぞ、ゼーレ。取り敢えず、今は急いで僕達も穴ん中に飛び込むぞ」


「うん、今は魔王討伐が最優先だ」


 そう言って、ゼーレは躊躇いなく大穴に飛び込んだ。


 それを見て、ライムも飛び降りる。


 その後を追うように、レイラの体を借りているユニスも大穴に飛び込んでいく。


 その際、ユニスは短い丈の白スカートが捲れないように左手で押さえ、右腕で魔法の杖を抱え込んで右手ではウィッチハットを風で飛ばないように押さえていた。


「空気よ、侵入者を阻む壁と成れ……」


 ユニスが天の方へ体を向け、大穴の入り口に向かって魔法の杖を突き出して魔力を込めると、大穴を塞ぐ様にして黄色く半透明な空気の蓋が出現した。


「さぁ、勇者パーティー最終決戦の始まりだ!」


 ゼーレは凛々しい表情でそう言い放つちながら大穴の底へと落下して行った。

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